目には見えない人間の未知なる力
──どんどんアラフォーの目には優しくない方向に(笑)。ヒダカさんの助力もあってこれだけクオリティの高いフルレングスのアルバムを完成させた今、自分たちをより客観視できた部分もあったんじゃないかと思うのですが如何でしょうか。
ehi:メッセージ性のあるエモーショナルな部分と純粋に楽しい部分を今回のアルバムで違和感なく共存できたと思うし、歌詞のコアな部分に固執して書いていたことに自分で気づいたんですよね。
──コアな部分と言うと?
ehi:miya38の闘病を通じて感じたことだったり、命の尊さだったりとかですね。そういうものに対して固執してしまう部分があったので、今後の作品はもっと広い意味として受け取れる普遍性のある曲作りをしたいなと思って。今回、『手』という曲を最後に作ったんですけど、これは歌詞の面では次に繋がる作品になったかなと自分では思っているんです。
ヒダカ:ヘヴィなテーマをヘヴィ一本槍に描かないという意味でね。
ehi:そうですね。頭がパカッと開いてクローヴァーが出てきた感じと言うか。
ヒダカ:それ、ジョン・カーペンターの『遊星からの物体X』でしょ? 『Rooftop』でしか通じないネタですよ(笑)。
──『手』はタイトルもそのものだし、『ベクトル』のサブタイトルには「いつの日かたどりつけるこの“足”で」という文言があるし、これは自分たちの手足を使って一歩一歩着実に突き進んでいくんだというWtBなりの決意表明なのかなと感じましたが。
ehi:『ベクトル』の歌詞はギリギリまで悩んでいて、書き上がったのが歌録りの当日だったんですよ。『手』は全収録曲の中で一番最後に書いた歌詞で最後の最後に録ったんですが、震災の後に書いたんです。
──ああ、やっぱり。「いろんな事がおきて 涙あふれて/それでも船をこいで 続く道のり」という歌詞がありますもんね。
ヒダカ:タイミング的にもネガティヴなテーマをグローバルに捉えやすかったよね。miya38の喪失なり今回の震災なり、悲しくてヘヴィなことではあるんですけど、それだけじゃなくて「みんなのために何かやれや!」っていうふうにehiがケツを叩かれてるんじゃないかなと。ちょっとデカめのケツをね(笑)。
ehi:デカめだけ余計ですけど(笑)。『Chicken Heart』と『手』は人間の未知なる力がテーマとして繋がっているんですよ。『Chicken Heart』は末期の癌患者からもらったエネルギーを唄っているし、それと同じように被災地でお年寄りや子供たちが「頑張ろう!」ってテレビの画面から笑顔を振りまいて、本来はいたわらなくちゃいけない私たちが逆にパワーをもらえている。そんな状況の中で一体自分は何をすればいいのか、それぞれの立場で一生懸命藻掻き続けていると思うんです。その中で、目には見えない人間の未知なる力…被災地の赤いほっぺたをしたお年寄りの笑顔からもらう力とか、相手を思いやる気持ちだとか、ちっちゃいことかもしれないけど、いずれは何かを突き動かす力になると思うんですよね。今回の震災で人間の底力を見た気がするし、それを歌詞として書き留めておきたかったんです。力強さそのものではなく、すべてを包み込むような大きな手を持っていたいなっていう。そんな祈りや願いを『手』には込めたつもりなんですよ。
ヒダカ:3年くらい前にどこかのフェスでバカ騒ぎをしていたWtBと比べたら格段の進歩ですよね。
ehi:ヒダカ君に見てもらった『MONSTER baSH』の時はmiya38が闘病の真っ最中で、ステージはただがむしゃらにやるだけだったんですよ。
ヒダカ:プライヴェートを伏せながらやると、どうしてもそうなっちゃうよね。
ehi:そうなんですよね。がむしゃら感全開で、もうとにかく「何が何でも突き進むしかない!」みたいな感じだったんですよ。あれから時間が経って、中途半端に伝わるくらいやったら全部言っちゃえ! ってようやく思えるようになったんですよね。『Rooftop』にはこれまでも赤裸々に話してきましたけど、言える人と言えない人が今まではどうしてもあって。でも、今回のアルバムでは思ってることを正直に言っちゃってもいいかなと思ったんです。事実は事実としてあるわけだし。
──歌の受け止め方は千差万別でしょうし、その背景にあるものは本来聴き手には無関係ですけど、事実を赤裸々に伝えることで表現者の真意が判りやすく伝わるのなら副読本的なエピソードとしてあってもいいですよね。
ヒダカ:何でもはっきりとね。だからこっちもプロデューサーの立場としてはっきりと言わせてもらいましたから。「ヘタだぞ!」って(笑)。
ehi:「練習しろよ!」と(笑)。はい、精進します!