結成から7年目にして満を持して発表されるWho the Bitch待望のファースト・フルアルバム『Toys』は、パンク、オルタナティヴ、ガレージ、ニュー・ウェイヴ、果てはオールディーズまでをも自由奔放に咀嚼・昇華させた極上のジャンク・ミュージックである。アルバム・タイトルの通りオモチャ箱のような音楽をこれまで志向してきた彼女たちの歩みを集約した金字塔的作品である本作は、従来の万華鏡の如き歌力も緩急の付いたアンサンブルの妙も見違えるように進化。それもそのはず、収録曲中3曲にヒダカトオル(MONOBRIGHT/ex.BEAT CRUSADERS)をプロデューサーとして迎え入れ、本来の持ち味を損なうことなく適宜にスパイスを加えてバンド全体の底上げを図ることに成功しているのだ。ポップの名伯楽の加勢により、Who the Bitchが理想とする誰しもが舌鼓を打つ至高の幕の内弁当的ポップ・ミュージックとして結実。人間の喜怒哀楽に呼応するかのように、理屈抜きに楽しめるアッパー・チューンから人間の生死や未知なる力をテーマにしたエモーショナル・ナンバーまでレンジの幅広さが魅力の本作を巡って、Who the Bitchのメンバーとヒダカトオルに硬軟織り交ぜつつ心ゆくまで放談してもらった。(interview:椎名宗之)
いい意味で音がインディーっぽいバンド
──以前、Who the Bitch(以下、WtB)のUSTREAM番組でyatchさんとヒダカさんの2人だけが出演する回がありましたけど、両者の接点はその辺りからなんでしょうか。
yatch(ds):その1回前にヒダカさんとウチの女子2人が一緒に出たんですよ。それが公では初めての共演でしたね。
──もともと面識はあったんですか。
ehi(vo, g):私とヒダカ君が昔からの知り合いなんです。
ヒダカ:もう十年来のマブですよ、マブ(笑)。
ehi:私の主人、miya38の繋がりで。あれはThe fantastic designs時代?
ヒダカ:もともとThe fantastic designsとは友達で、BEAT CRUSADERSのインディーズ時代によく対バンをしていたんです。それでmiya38と仲良くなって、その流れで俺がプロデュースを務めた『BECK』のアニメのサウンドトラックでTYPHOON24時代のmiya38やSENSHO1500に劇中の演奏をお願いしたんですよ。だから当時からehiはmiya38のヨメとして認識していましたね。ライヴに出ていないのに打ち上げには必ずいる打ち上げ要員として(笑)。
──今回、どんな経緯でヒダカさんにプロデュースを依頼したんですか。
ehi:「プロデューサーと一緒に音作りをしてみてもいいんじゃない?」っていう提案をスタッフからもらって、誰とやりたいかをメンバー内で話し合ったんですよ。そこで最初から私はヒダカ君の名前を挙げたんです。知り合いだったことも含めてなんですけど、Nao★もyatchもヒダカ君と話したことがあったし。
──依頼の決め手となったヒダカさんによるプロデュース作品とかもあったんですか。
ehi:『BECK』のサントラに入ってた『MOON ON THE WATER』というバラッド系の曲を初めて聴いた時に胸を打たれたような衝撃があったんですよ。その曲でヒダカ君の作風の幅広さとセンスの良さを垣間見たし、ああいう琴線に触れるようなエモーショナルな部分は今のWtBに付け足していきたい要素だったので、ヒダカ君に是非お願いしたかったんですよね。
──でも、今回の『Toys』にも収録されている『Chicken Heart』のように激情の哀切ナンバー含有率が近年増えつつあったと思うんですが。
ehi:憂いの部分も明るい部分もエモーショナルな部分も、すべてを底上げしたかったんですね。今まで以上に曲のレンジを広げてビルドアップさせたかったと言うか。そのためにもヒダカ君の知恵をお借りしたかったんですよ。
──ヒダカさんはWtBに対してどんな印象を抱いていたんですか。
ヒダカ:女性2人に関して言えばこの5年くらいでギターとベースを本格的に弾き出したわけでしょ? そういう意味で企画モノなんだろうなとこっちも最初は高を括っていたんですけど、フェスとかで一緒になった時にライヴを見て、意外と本気なんだなとこの2年くらいは思うようになってきましたね。ちょっと引くくらい本気でしたから(笑)。
──聞いたところによると、まだ世に出ていないWtBのレパートリーをヒダカさんがすべて聴いた上で精選したのが『ベクトル 〜いつの日かたどりつけるこの足で〜』、『Summer』、『Rest』というヒダカ印の3曲なんだそうですね。
ヒダカ:はい、全部聴きました。曲だけはなぜかムダにいっぱいあるんだよね(笑)。
ehi:ムダにってこともないですけど、どういう訳だか(笑)。
ヒダカ:デモに20曲くらい入っていて、多作だなと思いましたよ。WtBを音だけで聴くと、俺にはUSインディーな感じが凄いしたんですよね。HOLEとか7 YEAR BITCHみたいにギャルバンなんだけど男勝りなバンドって言うか。だけど実際のところあまりテクはないので(笑)、その間の着地点をどこに置こうかと考えて、インディーっぽいんだけど楽しい曲というのを基準に選びました。それが一番WtBに似合ってるんじゃないかと思ったので。いい意味で音がインディーっぽいバンドって、今は意外と少ないんですよ。大概のバンドはスキルがあるので(笑)。
ehi:ハハハハ! こんなヘタクソどないしろっちゅうねん!? って(笑)。
ヒダカ:あのチャットモンチーですら、最初にコピーしたのはハイスタですからね。だから敢えて90年代のインディーっぽさを出そうかなと思いまして。我々がリアルタイムで聴いていたものをもう一度今風にやってみるのがいいんじゃないかと。
ehi:今回、昔の曲もけっこう入ってるんですよ。『Superstar』も古い部類の曲だし。