伝説になんかなっちゃいけねぇんだ
──ブッチャーズは一見吉村さんのワンマン・バンドに思われがちだけど、4人の力関係はあくまでイーブンだし、吉村さんはリーダーとして常に他のメンバーのことを考えているじゃないですか。3人の特性を引き出すべく敢えて自分から悪役を買って出ているようにも思えるし、その悪戦苦闘する姿がこの映画からは窺えますよね。
川口:ブッチャーズのファンが特に多く観ると思うんですけど、そこまで関心のない人がどう感じるかが楽しみですよね。吉村さんがジャイアンっぽい性格なのは知っているファンも多いでしょうけど、この映画を観てもらえればどれだけジャイアンなのかがよく分かると思います(笑)。
中込:リアル・ジャイアンですからね(笑)。でも、ようちゃんはジャイアンなんだけど、長嶋茂雄でもあると思ったな。私は今までようちゃんが長嶋茂雄だとしたら吉野(寿)は王貞治だと思っていたけど、むしろ射守矢君が王貞治で、小松がさっき話に出たみたいに野村克也なんだなと思って。
川口:なるほど。それは言えてるかもしれないですね。
──映画の終盤で吉村さんが「伝説になっちゃダメなんだよ。っていうことは、生き続けなくちゃいけないってことなのさ」と語る場面がありますが、まさにあの一言に尽きますよね。映画自体はそこで終わるけれど、ブッチャーズの疾走はまだまだこれからも続いていくという。
吉村:自分では何を話したのかよく分かってないんだけどね。
川口:あの時の吉村さんはガンガンに酔っ払ってましたからね(笑)。
吉村:あのね、伝説っていう言葉の感じがイヤなんだよ。そういう言われ方もイヤだし、分かってないのにそういうハッタリを貼られるのがイヤなわけよ。俺たちはリアルにバンドをやってるわけだし、そういう言葉を利用すれば今頃は立派な大人になってたはずなんだけどさ。
中込:ちゃんと分かってるじゃん(笑)。
吉村:でも、今さらながらに「冗談じゃねぇよ!」っていう気持ちがあって、もっともっとやれると思ってるし、伝説だとかロックンロール・スターになんかなっちゃいけねぇんだっていう思いがバンドの原動力になってるんだよね。
──自戒を込めて言うと、ブッチャーズは特に大仰な言葉で祭り上げられることが多いですしね。
吉村:言葉で言うのは凄く簡単だからね。でも、その安易な言葉に対してどうしても違和感があるんだよ。そうじゃねぇんだよ! っていうさ。本来の俺はもっとフレンドリーなんだけどね(笑)。
川口:映画を作るにあたっても似たようなことを思っていましたね。ブッチャーズがどれだけいいか、どれだけ凄いかを見せるのは、フォロワーがいっぱいいるわけだからいくらでもやれちゃうんです。でも、それをやっちゃったらつまらないし、現在進行形のバンドですからね。
吉村:そういうのは俺が死んでからやってくれって話だよね(笑)。
川口:崇め奉る描き方は映画で一番やりやすいんですけど、それをやっちゃオシマイだと思ったんです。それで健さんとかセイキさんとかフラットにブッチャーズを語れる人を選んだんですよね。
──中込さん然りなんですが、インタビューを受けている方々は皆一様にブッチャーズに対して畏怖の念がありつつも一定の距離感を保っていて、それが仲良し小良しの馴れ合いじゃない感じでいいなと思ったんですよ。
川口:たとえば怒髪天で言えば、増子(直純)さんだと違うなと思ったんですよ、僕のなかでは。映画の舞台挨拶やトーク・ショーなら絶対に増子さんなんですけど、話術に長けた方なので話がどうしても面白い方向に行っちゃうじゃないですか。赤いモヒカン、青いモヒカン時代の話とか(笑)。それなら留萌出身の(上原子)友康さんのほうがいいかなと思ったんですよね。
吉村:でも、友康の発言はほとんどカットだったけどね(笑)。
川口:DVDになったら特典で入れようと思っているんですけど、友康さんは小学生の時の話とか畜生の話なんかもしてくれたんです。でも、映画の流れとして泣く泣くカットしたんですよね。ただ、吉村さんと一緒にスタジオに入ってるシーンもあるし、2人の関係性を表すにはそのほうがインパクトとしては強いかなと思って。
──吉村さんが怒髪天の「オレとオマエ」を唄っているシーンですね。節回しはオリジナルと全然違うんですけど(笑)、吉村さんの歌声はとても染み入るものがあるという。
川口:それを聴いた友康さんとシミさん(清水泰次)が「ようちゃんのアレンジ、凄くいいね」「コーラスのアレンジを俺たちも考え直さなきゃダメだ」って真剣に話し合うシーンもあったんですよ。
中込:いい話ですね。
川口:いい話なんですけど、それもカットしました(笑)。
吉村:そんなのはもちろんカットだよ(笑)。