観終わった後の余韻がとにかく凄い
──ブッチャーズの2010年の活動を追いながらも、貴重なアーカイブ映像を織り交ぜて結成以来23年間の歩みもちゃんと押さえているのが見事だなと思って。
川口:ブッチャーズのことを全く知らない人たちにも観て欲しかったので、そういう要素も入れることにしたんですよ。
吉村:だいたいさ、なんで留萌とかに着目するんだよ!? って最初に思ったんだよね(笑)。でも、そこでバンドを最初に戻すって言うか、根っこにある部分から始めるっていうのが俺はいいなと思ったの。俺から始めるんじゃなくて、切り口として射守矢が留萌に帰るところから始まるっていう。
川口:ああ、そんなこと言ってましたね、吉村さん。あのシーンを撮ったのは、「毎年3月に留萌へ帰るから、付いてくれば?」って射守矢さんに誘われたからなんですよ。
吉村:まぁ、勝手にやってくれみたいな感じがあってさ。俺は留萌の映像になんて絶対映らねぇよ! って思ってたし(笑)。でも、射守矢が映るぶんにはいいかなと思った。
──留萌のシーンの前に、映画はいきなり「もっと自分の思いの丈を言えばいいじゃん!」という吉村さんの怒号から幕を開けるという凄まじい演出ですけど(笑)。
川口:それがその時点でのブッチャーズの姿だったし、紛れもない事実でしたからね。特にリアリティを追求しようと考えていたわけではないんですけど、僕なりのドキュメンタリーを撮ってみたかったんです。対象をじっくりと観察することがやりたかったと言うか。映画の最初の打ち合わせで集まった時に、話がだんだんズレて全然違う話になったんですよ。導入部に入っている言い合いは、まさにその打ち合わせの席でのものなんです。映画のことなんてもうどうでも良くて、吉村さんと小松さんがバンドの在り方について激しく言い合うっていう(笑)。そのやり取りを見て、今はこういう状況なんだなと思って。これは今撮ってるほうが面白いかもなと感じたんです。
吉村:「なんでこのバンドは未だにこんなやり取りをしてるんだろう!?」って?(笑)
川口:いや、吉村さんが孤立しながら『NO ALBUM 無題』を作り上げたことを僕は詳しく知らなかったし、知らなかったから余計に「相当鬱屈したものがあるんだな…」と思って(笑)。ナベちゃんが映画の話を敢えてOKした理由が何となく分かった気がしたんです。今思えば、映画を撮ることで風通しを変えるという狙いもナベちゃんとしてはあったのかなと。
──いち観客として、中込さんはこの映画をどうご覧になりましたか。
中込:何だろう、感動とも違うんですよね。でも鳥肌が立ったり奮える部分は間違いなくあるし、的確な言葉が未だに見つからないんです。ショッキングとも違うんですよ。何と言うか、観終わった後の余韻がとにかく凄いんですよね。考えさせられたりもするし、ひらめいたりもするし、頭のなかでグルグル回る部分もあれば、スパンと弾ける部分もあるし、そういう余韻が凄くあって。
川口:有り難いですよね。そういうふうに観てもらえるのが一番嬉しいです。
吉村:特にねぇちゃんはそうだろうね。歴史も知ってるし、アーカイブもあるし、今も繋がりがあるしさ。全く知らない目では見てないからね。
中込:うん、そうだろうね。
吉村:そういう目線で見ればグルグルしちゃうよね。
──フライヤーのコメントには「今思えば我ながら、分かっていたようで分かっていなかった」と書かれていましたが。
中込:知らなかった部分のほうが多いなと改めて思いましたね。知ってたつもりでも「いや、違った」っていう部分がありましたから。
川口:それは僕も同じでした。吉村さんの性格は分かっていたつもりでも、実際に撮って観てみないと分からないことが多かったです。