ボアダムスの『77BOADRUM』を筆頭に、envyの『transfovista』、Shing02の『歪曲巡礼』、イースタンユースの『その残像と残響音』や『ドッコイ生キテル街ノ中』といった数々の秀逸な映像作品を発表してきた川口 潤が監督を務めたブラッドサースティ・ブッチャーズのドキュメンタリー映画『kocorono』が2月5日(土)よりシアターN渋谷ほか全国の劇場で順次公開される[※記述は当時のものです。初上映から10年を経て、2021年11月12日(金)から12月2日(木)までシネマート新宿にて3週間限定で再上映されます]。
なぜバンドをやり続けるのか? なぜそこまでして表現に立ち向かうのか? という表現者の抱える普遍的な命題が通底したこの映画は、歪でいて美しいアンサンブルを奏でるブッチャーズという特異なバンドの偽らざる現実を通じてステージに立ち続ける意義や満身創痍で音と格闘する宿命を観る者に突き付ける。バンドの過酷な内情とそれを取り巻く世界を真っ直ぐな視線で掬い取った川口監督の手腕は実に見事で、真正面から暴風雨を浴びても徒手空拳のまま突き進み、メンバー4人がバンドに懸けるひたむきな姿には激しく魂を揺さぶられる。
この映画の公開を記念して、ブッチャーズの吉村秀樹、川口監督、映画のなかでインタビューにも応えている音楽ライターの中込智子の三者にお集まり頂き、完成に至るまでのエピソードの数々を語り尽くしてもらった。敢えて『kocorono』と題された至高のドキュメンタリー映画の副読本として熟読玩味して頂ければ幸いである。(interview:椎名宗之)
※本稿は『Rooftop』2011年2月号に掲載したインタビューを復刻したものです。
第三者とも違う視点でバンドを撮ってくれたら
──まず川口さんにお伺いしますが、ブッチャーズのドキュメンタリー映画を撮る構想は何年も前からあったんですか。
川口:実はそういうわけでもなくて、映画のプロデューサーであるキングレコードの長谷川(英行)さんからの発案なんです。2009年のクリスマスの頃に長谷川さんから突然電話が掛かってきて、「ブッチャーズのドキュメンタリー映画を作りたいので、監督をしてくれませんか?」と言われたんですが、「ムチャだ!」と思って(笑)。
──それは、対象が川口さんにとっても大きな存在であるブッチャーズだったから?
川口:いろんな意味でですね。それに、メンバーである本人たちに訊いてみないと分からなかったし、バンドにオファーして前向きだったら考えましょうかと長谷川さんには答えたんですよ。
吉村:まぁ、題材が題材だからね(笑)。そのオファーを受けて、俺は全然OKだよって答えたんだけど。
川口:そういう返事を割とすぐに頂いたので、じゃあやりましょうと。それで2010年の初頭から9月のツアー終わり頃までのバンドの活動を撮らせてもらって、その撮り溜めた映像を編集して、2010年の末に完成させたんです。ライブやリハはもとより、何かトピックとなる出来事がある時は教えて下さいとマネージャーのナベちゃん(渡邊恭子)に伝えて、時間のある限りカメラを担いで出かけたんですよ。
──川口さんのなかで、映画の方向性みたいなものはあらかじめあったんですか。
川口:映画をやるにあたって2010年の1月にメンバーと初顔合わせをして、そこでそんな話をしようと思っていたんです。でも、その時点では「こういう映画を作りたい」という具体的な案が僕にはなくて、メンバーのなかにも明確なビジョンはなかったんですよ。
吉村:「向けられたカメラに対して過剰なサービスはしないよ」っていうのはあったけどね。
川口:直接そう言われたわけじゃないんですけど、最初からサービス精神がなかっただけなんですよ(笑)。
吉村:カメラを向けられたからと言って、俺はふざけたことしか喋らないし、真剣なことは喋れないからね。
川口:レイジ(・アゲインスト・ザ・マシーン)からの指名でブッチャーズが前座を務めて、観客からブーイングを受けるシーンがあるじゃないですか。
──吉村さんが「ブーイングが中途半端なんだよなぁ…」と話した後に、舗道を歩きながらジーンズを下ろしてパンツを見せようとするシーンですね(笑)。
川口:あまり見えてないんですけどね(笑)。あの頃(2000年当時)は、僕がカメラを向けると吉村さんはよくふざけたりしていたんですよ。それに比べると今のほうが喋りはフラットになりましたよね。射守矢さんと小松さんは昔とあまり変わってないですけど。
吉村:レイジのシーンで喋ってるのはダイノジの大地(洋輔)なんだよ。
川口:チラッと映ってますよね。あの時はカメラを回す僕と大地君とネモをやってたナカノ君が一緒だったんです。
──サービス精神はない代わりに、バンドの内情をそこまで見せるか!? というほど赤裸々なシーンの連続ですよね。
吉村:でも、普段はメンバーに対してあそこまでキツイことは言ってないよ?(笑) ただ、去年はアルバム(『NO ALBUM 無題』)を作った前後の悶々とした感じがあったし、それがそのままフィルムに収められているんだよね。俺が映画の話をOKした時は、「何でこのタイミングでオファーが来るんだろう?」と思ったの。アルバムを作って出来たのはいいんだけど、この先どうしよう!? っていう時で。アルバムを作るにあたってのメンバーに対するモヤモヤが凄いあって、アルバムが出来て以降のバンドの動きを俺なりに考えてたんだけど、答えが全然出なくて頭に来てたんだよ。そんな時に映画の話が来て、「このしょうもない状態を撮ってどうすんだ!?」って最初は正直思ったわけ。でも、第三者とも違う視点でバンドを撮ってくれたらまた違った方向性が見えてくるかもしれないし、そこでひとつ答えが出るんじゃないかなと思ったんだよね。川口君はこれまでもずっとブッチャーズを撮ってきたからバンドのことは理解してるし、その上でとりあえず手探りで行きましょうか? って感じで撮影が始まったんだよ。