更地に戻ってもいくらでもロックをやり続ける
──このコロナ禍をものともせず、年末は東名阪のツアーを精力的にまわりますね。
五十嵐:ライブに関しては3人でやるかやらないかの話し合いをしてきたんですけど、加納さんは「やるぞ!」としか言わなかったんです。基本的に人の話を聞かないので(笑)。
満園:「ここで進めないとしょうがないだろ!」ってね。まだ今ほど配信が盛んじゃなかった頃、ATOMIC POODLEは3月29日に二子玉川のジェミニシアターでiPhoneを使った無観客のライブ配信をやったんですよ。投げ銭の半分をライブハウスに納めることにして。まだ配信が珍しかったから、たくさんの人が観てくれたんです。
加納:そこから始めたもんね。まだこの事態が何事かよく分かってない時期に。
満園:よく分かってなかったけど、とにかくやってみようとしたんです。この3人はコロナ禍のなかATOMIC POODLE以外でもよくライブをやってるので、秋口になって「やっとライブができるね」なんて声を聞くと、こっちは3月からやってるけど? って言いたくなりますね(笑)。
加納:僕も自粛期間中にクロコダイルでお客さんを入れないで配信をやったり、7月には自粛を解禁して外道でツアーをやったり、ライブは結構やってましたよ。
五十嵐:僕もライブは多かったけど、配信がメインでしたね。
満園:今やライブハウスは抗菌対策を徹底してるから、むしろ安全な場所じゃないかと思いますけどね。東京ナンバーの車が地方で敬遠されてた時期に名古屋、大阪へ行ってた加納さんは「今ライブハウスへ行かないと潰れちゃうぞ!」「ライブをやる場所がなくなっちゃうぞ!」とよく言ってたんです。とはいえライブハウスもその気持ちは嬉しいだろうけどどう受け入れたらいいのか分からないし、みんないろいろと葛藤があったと思うんですよ。だから今回のコロナのことは誰も責められないんだけど、酒を飲みながら生のライブを楽しめる娯楽空間を根絶やしにするわけにはいかないし、先陣を切ってライブをやっていくしかないと思ったんですよ。われわれのような不良おじさんがね(笑)。
──無観客ライブは単純にやりづらくなかったですか。
満園:全然。テレビの収録みたいなものだし、音が出たら楽しかったですよね?
加納:うん。僕はその時々の状況を見て自分なりに考えて、実際に世の中で何が起こってるのかを分析した上で行動したんです。今の社会はだいぶ情報操作されてるからね。自分の出した結論としては、ライブの自粛は経済をダメにしてまでやることじゃないし、このままだと自殺する人がものすごく増えてしまうし、もう黙っていられなかったんですよ。このままミュージシャンが自粛を続けたらイベンターもPAも照明も舞台もみんな潰れちゃうし、そうなると僕らがライブをやりたくてもやれる所がなくなっちゃう。それでいいのか? と僕は言いたい。コロナで一儲けするような奴らのためにそんな状況を許していいわけがないし、命を懸けてライブを続けるべきだと僕は思う。
──今こそ初期のATOMIC POODLEのように現代社会を風刺したり浄化する曲が必要なのかもしれませんね。
加納:その通りだし、今はただ行動あるのみですよ。ライブハウスを救う気持ちでATOMIC POODLEや外道、ソロでもライブをどんどんやっていきますけど、ライブハウスだけじゃなく、そこに関わって生きてる人たちがいっぱいいるんです。それも全国規模で言えばかなりの人数になるし、そういう人たちの生活やライブハウスの文化を見殺しにしていいのか? ってことですよ。日本で誰もロックに興味がなかった頃、まだ風も吹いてなかった頃からロックをやってきた自分としては、この状況を黙って見てられないんです。ホントは僕がロックの礎を築いた後に売れた裕福なミュージシャンが一緒に動いてくれりゃいいんだけど、なかなかそうはなりませんね。
五十嵐:「不良侍」という13年前に発表した曲がまさに今の時代を反映してるんですよね。
加納:「にっぽん讃歌」もそうだよ。今の時代そのまんまでしょ?
満園:「不良侍」の「馬鹿な政治に馴染んでも 世の中 駄目さ/テレビも新聞も みんな目を覚ませ」という中指を突き立てるような歌詞はホント今の時代を言い当ててますよね。
加納:それも自分で考えた歌詞じゃなくて、向こうから降りてくるんだよ。だから言ってることが間違いじゃない。それと同じように音も間違いじゃないのは、僕のギターやフィーリングが全部向こうからやってくるものだから。だけど行動するのは自分からですよ? ATOMIC POODLEだって今回のアルバムがあるのとないのじゃ大違いだし、行動を起こせば状況が変わるんですよ。単純に持ち曲が増えるし、自分たちの気持ちも気分もいろんなものが変わる。今みたいな八方塞がりの状況では余計に行動を起こすことが大事なんです。
満園:今は変革期だから、石橋を叩いて叩いて渡らないよりも渡ったほうがいい気がしますね。叩かれて叩かれて引っ込むような時代になっちゃったから人の目を気にしたり、何をやるにも及び腰になりがちだけど、変化を恐れない精神はあったほうがいいと思います。以前の常識が変わっちゃったわけだから。ある意味、ロックの在り方が問われる時代になったとも言えるんじゃないかな。
加納:今は何をやるにもある程度レールが敷かれていて、黙ってその上を走っていれば誰かが何かを与えてくれそうな雰囲気がありますよね。僕はレールも何もない、風が全く吹いてなかった時期にロックを始めたから、どうすればロックが世に浸透できるかいろいろと試行錯誤してきたんです。警察署の横にやぐらを組んでライブをやったり、プロレスの興行で入場曲を生演奏したりね。その結果、日本でもロックが市民権を得たし、そうやってちゃんと行動を起こしていけばいろんなことが実現するんです。これからの時代だって同じですよ。これでもし音楽の世界が壊滅的な状況になってライブができなくなったとしても、それはそれで風の吹かなかった時代のようにやり直せばいいんです。更地の状態からロックを始めた僕からすれば何も変わらないし、また更地に戻ったっていくらでもロックをやり続けるだけですからね。