ペットのプードルが今の日本人の姿と重なった
──たとえば「I'm standing in the rain」なら情感溢れるスライドギター、「NO WAY OUT」ならスリリングなギターソロなど、本作はギタリストに徹したときの加納さんの凄みを随所で楽しめる作品でもありますよね。
加納:そう、僕はギタリストだったんですよね(笑)。でもここ3、4年かな、自分はボーカリストだったんだなと意識したんです。というのも、周りの人から「加納さんはボーカリストだよ」って言われたことがあってね。それまではどこへ行っても「『ビョンビュン』と『香り』をやってください」と言われて拗ねてた部分もあったんだけど(笑)、自分はギタリストではなくボーカリストだと意識してからは過去のイメージなんてどうでもいいや、ちゃんと普通に唄おうと思い直したんです。それまではうまく唄う必要なんてないと思ってたんですけど。
──「連れてかれちまうぜ?」の最後、テンポがスローになるところのビブラートもお世辞抜きでお上手ですしね。
加納:そういうのは昔もできたんだけど、やらないほうがいいと思ってたんです。レコーディングも歌のテイクの悪いのをあえて選んでたんですから。うまく唄うと「ちょっとうますぎですよ」なんて言われて。あり得ないでしょ? ギターもそうで、うますぎるとバックがヘタに聴こえるからってフレーズの出来の悪いのが使われてたんですよ。
──ATOMIC POODLEはどんな感じなんですか。レコーディングにおけるOKテイクの基準というのは。
満園:歌に関して言うと、僕はキャリアが浅いから一生懸命唄うんですよ。でも「一生懸命じゃつまんない!」って言われるのがオチで(笑)。「ピッチも大事だけど、絵でも音楽でも表現として面白くなきゃいけないんだ!」って加納さんにはよく言われます。その感覚はメジャーのレコード会社ではなかなか難しいものがありますね。
五十嵐:今のレコーディングは全部整理しちゃうじゃないですか。いくらでも加工してキレイにできるし。加納さんは一度しか唄わないけど、その一度きりの勢いをパッケージしたい気持ちはすごくよく分かります。
加納:僕はギターもそんなに弾かないんですよ。ギターと歌は一番新鮮なうちに録るのがいいんです。刺身だって何十回も切り直したらまずくなるでしょ? 音を録るのもやっぱり一発目じゃないと。そこが職人のなせる業なんですよ。
──加納さんが五十嵐さんのボーカルに対して注文をつけたりはしないんですか。
加納:僕は公太の歌が好きなんですよ。だけどこんなに唄えるとは思わなかった。自分とは違うタイプのボーカリストなので面白いんです。僕が一緒にやってきたタイコ、ジョニー吉長もつのだ☆ひろもみんな唄うから、公太にも唄わせようと思って。
満園:唄うドラマーって結構いますよね。アイ高野さんもそうだったし。
加納:アイ高野も友達だったし、僕の友達のタイコはみんな唄うんです。だからドラムもベースも唄ったほうがいいんだよ。ポール・マッカートニーが歌を唄わなかったらつまんないでしょ?
──ところで、アルバムの冒頭を飾る「モンスター イン マイ ハウス」は加納さんの愛犬を唄った曲ですよね。これはATOMIC POODLEというバンド名とリンクしているのかなと思ったのですが。
加納:ある日、うちにビルボっていう新しい犬がやってきたんですよ。プードルとビションフリーゼのミックスでね。それが“モンスター”だったんです。その前にチャッピーっていうプードルを飼ってたんだけど、そいつが亡くなって3、4年経った頃かな。犬が好きだから恋しくなってきて、家族がビルボを見つけてきたんですよ。家に連れて帰ってきたら、体はすごくちっちゃいのにパワーがすごくてね。家じゅうをグショグショにされて、足が速くて誰も捕まえられない。最初の3日間はとにかく強力で、こっちが倒れそうでしたよ(笑)。そこから「モンスター イン マイ ハウス」の歌詞が生まれたんです。アルバムのジャケットにあるイラストもビルボのシルエットなんですよ。
五十嵐:ATOMIC POODLEという名前をつけたときは加納さんの飼ってたチャッピーというプードルをモチーフにしたんです。ちょっと斜に構えて社会風刺をするプードルをイメージキャラクターにして。
──ATOMIC POODLEと命名したのは五十嵐さんなんですか。
満園:加納さんですよね?
加納:名づけたのは僕です。当時飼ってたプードルを見ていて、「ああ、今の犬ってこんな感じなんだな」と思って。要するに今の若い子たち、今の日本人と一緒だなと。
──すっかり飼い慣らされて骨抜きになっているという意味ですか。
加納:長いものには巻かれっぱなしで、原子爆弾(atomic bomb)を落とされた後の日本人とまるで一緒だなと思ったんですよ。
満園:なるほど、それでATOMIC POODLEになったのか。いま初めてちゃんと知った(笑)。飼い慣らされた戦後世代。皮肉なんですね。
五十嵐:もともと社会風刺的なスタンスでいこうとしてたからね。
──今回は歌に比重を置いたポップな曲が多いので社会風刺的側面が全面に出た印象は受けないものの、バランスとしてはちょうどいい気もしますけどね。
加納:この3人がいることによって音楽的にすごく広がるんですよ。僕が書かないような曲や詞を公太と庄太郎が書いてくれるから面白いし、それが3人しかいないところを5倍、10倍とエネルギーを増す要因にもなってる。1+1+1=3じゃなく、+αがいっぱいついてくるんです。