曲は書くものではなく降りてくるもの
──「ATEUMA」は今年の8月にレコーディングされたそうですが、自粛期間中に作られた曲なんですか。
満園:コロナの感染拡大が広がってきた頃に作ってたのかな。年末から曲作りをしていたら、気づくと世界中が大変なことになってしまって。最初はメジャーからアルバムを出せるなんて思ってもいなかったので、ピー音が入るような曲ばかり作っていたんです(笑)。
五十嵐:たとえば「残酷な現実」で言うと、歌詞が伏せてあるのはキチ○イという言葉なんです。去年、多摩川が氾濫して溢れた河川の水を「キ○ガイ水」と書いたらその言葉はダメだと。ただそれだけですよ? そんなことに自主規制をかけるなんてしょうもないなあと思うんですけど。
満園:それでNGなら加納さんの昔の曲は全滅ですよね?(笑)
加納:僕はあるアルバムに詞を書いて発売になった後、ロフトに警察が何十人も来たことがありましたよ。日本のバンドで機動隊から検問を受けたのは外道くらいじゃないですか?(笑)
──スタジオレコーディングの曲ももちろんいいんですけど、今回収録された加納さんの音楽生活50周年&外道45周年記念ライブ(2018年6月17日、こくみん共済 coopホール/スペース・ゼロ)の音源を聴くとATOMIC POODLEはライブでこそ本領を発揮することが如実に窺えますね。
加納:あのライブテイク、いいでしょ? ATOMIC POODLEはやっぱり生粋のライブバンドなんですよ。
満園:アルバムを出すことになって他に何か音源がないかと思って、スペース・ゼロの音源が残ってることを思い出して。それを僕がデータに起こしてバランスを整えたんです。2人に送ったら「いい感じだね」ということで、収録することにしたんですよ。
加納:ライブの前半の曲が残ってなかったんだよね。それが残っていればもっと違う感じにしたかったんだけど。でも個人的にも思い出深いライブなので残しておきたかったんです。
満園:加納さんのソロ、ATOMIC POODLE、外道と3時間くらいやったライブですよね。
加納:もう大変でしたよ。リハーサルを3時間やって本番も3時間、6時間ずっと唄いっぱなしなんだから。60半ばでずっと立ちっぱなしで6時間ですよ?(笑)
満園:まあ、こうしてパッケージできて良かったじゃないですか(笑)。
──晴れて収録された5曲のライブ音源を聴いただけでもATOMIC POODLEの音楽性にどれだけ振り幅があるかが分かりますよね。ライブ映えするノリの良い「SUPER NICE DAYS」を受けて披露される「Love is just a Memory」が一転してメロディアスなバラッドだったり。
五十嵐:最初のミニ・アルバムに入ってる「SUPER NICE DAYS」は僕が書いた曲で、「Love is just a Memory」はそのアンサーソングとして加納さんが書いた曲で2枚目のミニ・アルバムに入ってるんです。メロディの雰囲気やモチーフを加納さんが合わせてくれたからメドレーになってるんですよ。
加納:「SUPER NICE DAYS」はもともと全然違う曲だったんです。タンタン、タンタタン…っていうドアーズみたいなノリの曲で、それを僕がいきなりハードロックに変えて「これで唄ってくれる?」ってお願いして。後半はガラッと変えて、「Love is just a Memory」みたいなパートを後ろに付けてギターも入れて、それを次のアルバムにつなげたんですよ。それはね、そういうふうにやれと上から指令が降りてくるんです。ツアー帰りで高速を走っていたら曲が降りてきたこともありましたから。あれは何の曲だったっけ?
満園:「君の瞳に映る世界、僕の心に映る世界」です。確か静岡辺りでしたよね。
加納:そうだ。「いま曲が降りてきてるんだよ!」と騒いでもみんな訳が分からなくて(笑)。時には3曲同時に降りてくることもあるんですよ。帰宅して1曲ずつ書き起こさないとすぐに忘れちゃうから大変なんです。今まで忘れてしまった曲がいっぱいありますよ。
満園:そういうときは加納さん、録らなきゃ。ボイスレコーダーの使い方を教えたじゃないですか。7年前に出したアルバムも「みんなで4曲ずつ作ればできるじゃん」と最初に話し合って曲作りを始めたんですけど、加納さんはちょうどその頃外道が始まりそうになったので「俺は4曲作るの無理だから」とか言い出したんですよ。曲を覚えられないと言うのでボイスレコーダーの使い方を教えて、それで何とか「ねむれない」とかいろんな曲を作ってきてくれたんです。
加納:それ以来、外道で「こんな感じで」と指示を出すときもボイスレコーダーを活用してますよ。
満園:加納さんにはひらめきで動いてほしいし、ボイスレコーダーならそのひらめきを残せるんです。譜面とペンとギターと歌、あとはひらめきで曲作りをしていただきたいので。
加納:僕は最初からずっとひらめきなんです。松本(慎二)なんて笑ってますよ、「それじゃイタコじゃないですか」って(笑)。外道のレコーディングの1週間前にマネージャーから「そろそろ曲は降りましたか?」と訊かれたときはまだ降りてこなかったんだけど、スタジオに入る3日前くらいに十何曲降りてきたんです。もう大変ですよ。そこで庄太郎に教わったボイスレコーダーが役に立つんです。