"OLD SCHOOL HARD ROCK TRIO"を自称する3ピース・バンド、FIXがメジャーデビュー・アルバム『Heaven knows』を結成15年目にして発表した。外道のそうる透がサウンド・プロデュースを務め、加納秀人、松本慎二、そうる透という外道のメンバーが参加した本作は、ハードロックのカテゴライズには収まりきらない、硬軟織り交ぜたバラエティ豊かな楽曲が精選されている。ボーカル&ギターのTakuに至っては51歳と10カ月でデビューを果たしたロック界の"最年長デビュー"バンドだが、あのモーガン・フリーマンだって映画俳優として認知されるようになったのは50歳の時だ。遅咲きの苦労人は本当に好きなものを決して手放さず、人生は短距離走ではなくマラソンだと信じて決して諦めない。誰よりもピュアに、こよなく愛するロックを彼らはずっと信じてきた。その純真で一途なロックへの想いが『Heaven knows』には詰め込まれている。FIXという名の遅咲きの花は果たして大輪になるのか。それは〈神のみぞ知る〉。(interview:椎名宗之)
外道のオープニング・アクト起用が転機
──バンドのプロフィールを見ると、2004年の結成以来、度重なるメンバー・チェンジとパート・チェンジを経て、2014年に外道のオープニング・アクトを務めたことが大きなターニングポイントになっているように思えますね。
Taku(vo, g):そうですね。外道は僕が20歳くらいの頃からずっと好きで、たまたまオープニング・アクトの話をもらったんです。あと、その前後辺りからYUEとSUSIEがリズムを学び直したり、僕もボイトレをやるようになったり、各パートの技術的な底上げをするようになったのも大きいですね。
──唯一のオリジナル・メンバーであるTakuさんからすると、今の編成が一番しっくり来ている感じですか。
Taku:この3人になってもう10年以上立つし、今がベストですね。最初は全員男だったんですけど、5年くらい抜けたり入ったりを繰り返していたんです。男同士だと自分だけが目立てばいいみたいな感じで上手くバランスが取れなかったんですけど、今のリズム隊は僕がやりたいことをわかってくれるので助かってますね。
SUSIE(ba, cho):私よりも先にドラムのYUEが入って、私は最初、ベースではなくギターとして加入したんです。それが当時のベーシストが脱退したことでベースに転向したんですね。なんというか、FIXに入る前の私は自分をリーダーだと思い込んでいるベーシストだったんです。自分をアカレンジャーだと信じているキレンジャーみたいな(笑)。だけどある頃からアオレンジャーの格好良さに気づいて、FIXがバンドとしてインパクトを出せない時期だったから、自分がアオレンジャーとしてFIXでギターを弾けばいいと思ったんです。それで1年くらいギターをやっていたんですけど、バンドと反りが合わなかった当時のベースが抜けてしまって、私がベースを弾くことになったんですよ。
YUE(ds, cho):私は友達の紹介でFIXに加入したんですけど、Takuちゃんの書く曲がすごく好きだったのですぐに馴染めましたね。歌詞が小説っぽいというか、聴く人によっていろんな解釈の仕方ができるところがいいなと思ったし、ちょっと暗い感じのある音楽も自分の好みだったので。
──3人とも、もともとハードロックが好きだったんですか。
SUSIE:私はSUSIEと名乗っているだけあって、スージー・クアトロとかランナウェイズみたいなギャルバンを組んでいたので、ハードロックは好きな音ではありましたね。
YUE:私は昔から熱心に音楽を聴いてる感じじゃなくて、日本のアーティストのほうが好きでした。De-LAXとかが大好きで。ハードロックはFIXに入ってからTakuちゃんやバンド友達にいろいろと教わって聴くようになりました。
Taku:“OLD SCHOOL HARD ROCK TRIO”と名乗ってはいるんですけど、僕が一番好きなのはローリング・ストーンズなんです。音楽の入口はディープ・パープルやKISSだったんですけど、高校に入った頃にストーンズの『Let's Spend the Night Together』という映画が公開されて、そのCMをテレビで見て衝撃を受けたんですよ。「なんだこの人たちは!? ちゃんと弾いてないじゃないか!」と思って(笑)。後ろを向きながらギターを弾いてるし、そうか、ギターはちゃんと弾けなくてもいいんだなと思って(笑)。それからストーンズにのめり込んで、60年代、70年代初頭のロックを聴き漁って、ギターを弾くようになったんですね。バンドのキャッチコピーの“HARD ROCK”というのは、ハードロックという言葉が完全に定着する前、ジミヘンやクリームとかのイメージなんです。その後のエアロスミスとかはむしろあまり通ってなかったりするので。
──そもそもFIXというバンド名はどんな理由で付けたんですか。
Taku:単純に格好いい言葉だったので。それと「虜にさせる」みたいな意味もあって、いいなと思ったんですね。今でこそ「FIXする」(決定する)なんて誰でもよく使いますけど、14年前はまだそこまで浸透してなかったんです。当時は検索すると、付けまつ毛の接着剤のネーミングがよくヒットしたんですよ。
SUSIE:あと、当時はひねくれ者だったので、絶対に略させない言葉にしたくて短い単語にしたのもありますね。
〈巨匠〉そうる透のサウンド・プロデュース術
──今回リリースされた『Heaven knows』には、これまでの重要なレパートリーも収録されているんですか。
Taku:新しいのと半々ですね。ここ1年くらいでやってる曲と、FIXの前にやってたバンドの曲も入ってたりして。頭の5曲、「Clone butterfly」から「Special car」までは新しい曲です。
──本作ではそうる透さんをサウンド・プロデューサーに迎えていますが、これは外道ファンであるTakuさんのたっての希望だったんですか。
Taku:マネージャーの推薦で実現しました。実は発売が決まるずっと前、今年(2018年)の1月にはすでにレコーディングを済ませてあったんです。3日で全行程をやり遂げるという過酷なスケジュールだったんですけど(笑)。というのも、透さんのスケジュールが2日しかなくて、合宿して11曲のベーシックと歌をほぼ2日で録ったんです。1日12時間くらい集中して作業して。3日目にはアコギを重ねたりしました。
──YUEさんとしては、ドラマーの大先輩がサウンド・プロデューサーとして終始同じ空間にいるのがプレッシャーだったのでは?
YUE:まずセッティングからそうるさんが直々にやってくださいましたからね。チューニングも「俺のスネアを使いなよ。バンバン叩いていいから」と言ってくださったし、イヤモニも貸してくださって、まさかの耳友にもなったし(笑)。シンバルまで貸してくださったりして本当に至れり尽くせりで、演奏中は緊張して手がずっとドラえもんみたいでしたね(笑)。
Taku:透さんに前もって音源と楽譜を渡しておいたら、レコーディング当日までにいろいろと構想を練ってきてくれたんです。ギターをダブルにするところや歌をダブルにするところとかを細かく考えてくれたり、収録する11曲が一貫したイメージになるように工夫を施してくれたり。録り自体は僕らがどうこう言う前に、透さんがOKならそれで良しみたいな感じでした(笑)。悩んでいる時間もなかったので、結果オーライでしたけど。
──演奏面でそうるさんから学べたのはどんなことですか。
YUE:ドラムのテクニック的なことは特に何も言われませんでした。あくまでプロデュースなので、「この部分をこんなふうに叩いて」みたいなことはなかったです。「これはもう1回録ろう」というのはありましたけど、どの曲も基本的に1、2回で終わりでした。なんせ時間がなかったので、1曲につき録りは2回まで。3回目はなかったですね。
SUSIE:1曲録り終えて、「えっと、今のドラムは……」とこっちが言ってるあいだに「ハイ、OK! じゃあ次ね!」みたいな感じでどんどん進んでいきましたね。そうるさんの返事は「YES」と「ハイ」しかなかったです(笑)。Takuちゃんに至っては、仮歌をそのまま使われたりして。
Taku:仮歌を聴いた透さんが「歌はこのままでいいね」って。それ以来、仮歌を録る=本番というのを知りました(笑)。でもそれも、何度やっても良いテイクが録れるわけではないってことだと思うんです。
YUE:そうるさんとしてはその場の勢いや空気感を大事にしたかったんでしょうね。「一発に懸ける集中力がすごいね」とそうるさんが言ってくださったので、そういう部分を大事に録ってくれたのかなと思います。
──そうるさんが参加している「Special car」はダブル・ドラムということですか?
YUE:いや、そうるさんはシェイカーを振ってくださったんですよ。「俺が振るよ!」とノリノリで振ってくださいました(笑)。
──ものすごく贅沢に巨匠を登用しているんですね(笑)。
SUSIE:同じように、「幻」では松本(慎二)さんにナレーションをやってもらったんですよ。ベースではなく声で参加してもらって。
──「サムライ フジヤマ……」のくだりですね。本作の収録曲のなかで最も激しいアンサンブルが聴ける「幻」は日本的なワードを羅列した歌詞が一際ユニークですが、「期待などしてない ただ生まれてきただけ」という最後の一節には母国に対する諦念を感じますね。
Taku:曲をつくった15年くらい前はそんな気持ちだったんですけど、今はまた違う気持ちなんです。でもつくった当時の気持ちを大事にしようと思って、歌詞はそのままにしてあるんですよ。