ツアーの本数を一本でも増やすマネジメントの苦悩と葛藤
──ところで、寺井到さんが監督を務めたドキュメンタリー映画『シーナ&ロケッツ 鮎川誠 ~ロックと家族の絆~』は、鑑賞されていかがでしたか。
奈良:劇場で2回観ました。
純子:本当に? 私たちはまだ映画館ではちゃんと観てないんです。
奈良:あれは絶対、映画館で観たほうがいいよ。凄い良かった。
LUCY:試写は小さい映画館で観たんですけどね。やっぱり泣いちゃいました。
奈良:テレビでやったときより写真が増えて、その選別も良くて。
ドキュメンタリー映画『シーナ&ロケッツ 鮎川誠 ~ロックと家族の絆~』
──寺井監督の映画は、陽子さん、純子さん、LUCYさんというご家族三姉妹の言葉がとても貴重で重要なポイントだと感じました。とりわけ、娘の立場としては父親に長く生き続けてほしいと強く願いながらも、マネジメントの立場としては一本でも多くライブをやることを望む鮎川さんを陰で支えた純子さんの葛藤、苦悩の日々は想像を絶するものだったのではないかと…。
LUCY:純ちゃんはお父さんがやりたいことをやるのを支えるためにマネージャーをやってきたし、お父さんに病院へ行くのを勧めたときに「俺の生きがいを奪わんでくれ!」と言われて凄い葛藤があったと思います。お父さんの身体を常に第一に考えていたから、ツアーをやめようと言い出したのも純ちゃんだったし、無理をしてまで仕事をさせることは絶対になかったし。
純子:ただ、バンドマンとして現役を貫き通したいというお父さんの気持ちを知ってからは、一本でも多くライブが実現できるようにブッキングしました。去年の夏くらいにお父さんが痩せ始めたときは、私もダイエットしてみたんですよ。北海道のファンの人たちに「鮎川さん、痩せたね」と言われたときも「一緒にダイエットしてるんです」と答えたりして。病気のことを一切公言しないとお父さんが決めた以上、絶対に隠し通そうと決めたんです。
──それはいつ頃の話ですか。
純子:札幌と富良野を回った7月ですね。
──ということは、“Play The SONHOUSE”という鮎川さんが自身のルーツへ立ち返る試みは、病気とは関係なく始められたわけですね。
純子:そうです。始めたのがたまたま最晩年だっただけで、全くの偶然なんです。
奈良:「サンハウスの曲をプレイするのは老後の楽しみやけ」って僕に言ってましたよ。
LUCY:去年の4月、レッドシューズで行なわれた松永(浩)さんの還暦祝いのライブでサンハウスの曲をプレイしたら、凄く楽しかったみたいで。
純子:あのライブで火がついて、サンハウスの曲をまた演奏できる喜びからツアーを回り、ライブアルバムまで作りましたからね。
LUCY:サンハウスの曲もお父さんにとって大事な子どもなんです。鬼平さんとまた一緒にライブができたのも良かったと思います。
奈良:“Play The SONHOUSE”を始めてからの鬼平はまるで生き返ったみたいだったんです。それまでの鬼平とは全然違って。
鮎川誠 Play THE SONHOUSE(2022年7月30日、京都 磔磔にて)
──その“Play The SONHOUSE”を含め、ツアーの本数を増やすことの葛藤が純子さんとLUCYさんにはあったのでしょうね。
LUCY:凄くありました。若い私でも3日連続のライブは身体に堪えるし、当時74歳で重い荷物を抱えて移動するだけでも大変でしたし。ライブの最中は純粋に楽しい気持ちしかないですけど、その前後は心身共に疲弊しますから。
奈良:そもそもあのレスポール・カスタムが重いもんね。
LUCY:コロナ禍で思うようにライブができなくなって、久しぶりにバンドで集まってリハをしたときに全部の楽器が凄く重く感じたんです。それだけ身体が鈍っていたからなんですけど、70歳を過ぎたお父さんにはあの感覚がきつかっただろうなと思います。
純子:だけどあのコロナ禍に見舞われた2020年でも、7月にはもうライブを再開させていたからだいぶ早かったですね。
LUCY:そうだよね。4カ月くらいしか休んでいなかったし。お父さんは常にライブのことばかり考えていたライブ人間だったんです。
純子:レコーディングもライブみたいな感覚だったんですよ。スタジオに入ったら即テープを回すのが鉄則で、練習なんてろくにせずに一発目の演奏がいいと。お父さんがウィルコと一緒に作った『LONDON SESSION』というアルバム(“#1”と“#2”の二作あり、1993年発表)も全部リハ音源で、どれも一発目のワンテイク目を採用しているんです。シーナ&ロケッツでも『ROKKET RIDE』(2014年発表)はそういうアルバムでしたよね。
LUCY:音を出す喜びに溢れるのが“せーの!”でやる一発目で、バンドは結局それが一番いいんですよね。
奈良:『ROKKET RIDE』の録りは、コードも知らされずにいきなり始まったんですよ。マコちゃんの手を見ながら「どこに行くんやろ?」と推し量りながら弾いてましたから(笑)。だけどその緊張感が良い演奏に繋がるのは確かなんです。