2025年、サンハウスのデビュー50周年に秘蔵音源集を出したい
──『HAPPY HOUSE』のレコーディング中にヨーコさんがスタジオを表敬訪問した際、ジョンとヨーコの『DOUBLE FANTASY』収録の「KISS KISS KISS」をシーナ&ロケッツが急遽レコーディングしたという逸話がありましたね。
純子:ヨーコさんは優しい方で、毎年手書きのポストカードが届いていました。
LUCY:ある時、お母さんが揚げ物をしている時に鍋がひっくり返って、両手を大火傷してしまったことがあったんです。それを知ったヨーコさんが革の手袋をプレゼントしてくれたんです。シーナがしばらくのあいだ革の手袋をつけていた時期があるんですけど、あの手袋はヨーコさんのご厚意だったんです。
──そんなエピソードを知った上で「SISTERS, O SISTERS」のカバーを聴くと、いろいろと感慨深いものがありますね。
純子:サンハウスをやっていた頃から、お父さんとお母さんのあいだでは「SISTERS, O SISTERS」が入っているジョンとヨーコの『SOMETIME IN NEW YORK CITY』というアルバムが大切なものになっていたようです。そのアルバムをフィル・スペクターがプロデュースしていたのも特別な思い入れのある理由の一つだったんじゃないかと思います。ちなみに言うと、シーナ&ロケッツが野音で披露した「SISTERS, O SISTERS」はリハーサルなしでいきなり演奏したみたいですね。実はその時、私たち三姉妹も初めてステージに立ったんです。黒いパンタロン姿で演奏に合わせて踊ったという(笑)。
LUCY:私はまだ5歳くらいで、ぬいぐるみを抱いて出ました(笑)。何だか夢みたいな世界がその野音の映像の中にあって、音源だけを聴いてもモータウンの響きみたいなものがあって凄く良かったし、これはぜひ収録したいと思ったんです。「SISTERS, O SISTERS」をライブでやったのもその一度きりだったので。
──ジョンとヨーコは『DOUBLE FANTASY』という愛の対話をテーマにしたアルバムをジョンの最晩年に生み出しましたが、シーナ&ロケッツは発表したすべての作品が鮎川さんとシーナさんの愛の結晶と言えますね。それにしても、鮎川さんが残した膨大なデモ音源を一通り聴き精査した上で収録曲を決めるのは気の遠くなる作業だったと思いますが。
純子:結果的に半年くらい聴き続けましたからね。
LUCY:今も日常的にその作業に追われてるんですよ。
純子:昔、『愛情物語』という中村雅俊さんが主演のドラマにお父さんが出たことがあったんですけど、その本読みを家族みんなでやってるカセットも出てきたんです。私たちが子どもながらに脚本の難しい台詞を話してるのがおかしくて(笑)。
──音だけではなく映像も膨大な量なのでしょうし、それらを識別するだけでも大変ですね。
奈良:マコちゃんは昔からコレクター気質というか、「面白いテープが出てきた」ってサンハウス時代の貴重な音源があるのを教えてくれましたから。
LUCY:サンハウスも宝箱みたいなものが出てきちゃったんです(笑)。ちょうど来年はサンハウスが『有頂天』でレコード・デビューして50周年なので、いろいろと考えているところです。
純子:柴山さんも残された音源をどんどん出したいと話していて、さっき話に出たLUCYと柴山さんの写真はその打ち合わせの時のものだったんです。ジューク・レコードの松本康さんが権利関係を取り仕切るまでは違法なライブ音源が乱造されていて、酷い状況だったんですよ。
LUCY:ロケットダクションがサンライズ2000という康ちゃんのやっていた仕事を正式に引き継いで、サンハウスのマネジメントもやることになったんです。これからサンハウスとしてリリースするものはしっかりと分配して健全な形にしていくつもりです。
──奈良さんはサンハウスの秘蔵音源をお持ちではないんですか。
奈良:僕は記録するのがあまり好きじゃないので。終わったことはそれでおしまいなので(笑)。
──去年のインタビューでも話題に上がっていた、『#1』の正規な形での復刻リリースは今年の3月にようやく実現しました。しかも通常盤に加えてモノラル盤と御法度盤が同時発売されるという大盤振る舞いで。
純子:あまりに凄まじい音源を一気に出してしまって、みんなどう受け止めていいのかわからなかったんじゃないかと思いました(笑)。
──特にあのモノラル盤の真に迫る音の塊が衝撃どころの話ではなく、すべてのロックンロール・アルバムはモノラル・ミックスにすべきとすら思ったほどです。
奈良:うん、あのモノラル盤は凄くいいですよね。モノラルは人間の耳に一番近い音ですから。
LUCY:マスタリングをお願いした中村宗一郎さんの腕が素晴らしいというのもあるけど、お父さんが残したほぼそのままの形なんです。
──自分が聴いていたCDはヴィヴィド・サウンドから出たアンリーガル盤で、曲順が違って1曲目が「涙のハイウェイ」だったんです。正規盤は「夢みるラグドール」で始まるし、それこそ「ビールスカプセル」じゃないですけど脳天を叩き割られるような轟音と音圧で全く違う印象を受けました。
LUCY:そうですよね。それにアルファ時代の秘蔵音源を集めた御法度盤も凄かった。シーナ&ロケッツのニューウェイヴは色褪せることなく斬新なニューウェイヴのままだし、いま聴いても鮮烈で、あれは面喰らいましたね。