衝撃のロッキン子守唄「おやすみクマちゃん」の“トトマランバ”とは
──「おやすみクマちゃん」のサブタイトルというのか、“トトマランバ”とは何なんですか。
LUCY:それが謎なんですよね。
純子:カセットのラベルにカッコで“トトマランバ”まで書かれてあったんです。
LUCY:“コウモリの歌”って書いてあるのもあって、それがコウモリの化け物なのは何となくわかるんですけど…。
純子:おそらく想像上の怪物か何かで、夜に寝ない子どもに「早く寝ないとトトマランバが来てさらわれるよ」って言い聞かせるものだったと思うんです。
LUCY:「トトマランバに知らない国へ連れていかれる」って言われたら怖いよね(笑)。
──純子さんもLUCYさんもシーナさんにそんな子守唄を聴かされながら育ったわけですね。
LUCY:そうです。曲の途中の展開がサンハウスっぽくて凄くテンションが上がるんですよ(笑)。
純子:ロッキンな子守唄だから、子どもだったLUCYはそれを聴くと喜んではしゃぎ出すんです。
LUCY:結果的に全然眠れないっていう(笑)。
──1980年代から90年代にかけて鮎川さんとシーナさんが自宅で制作したホームデモ集というのは、『真空パック』のデモテープ音源『1979 DEMO』や幻の1stアルバム『#1』の復刻盤とはまた違った切り口で興味深いですね。
LUCY:ギタリストのレス・ポールが自宅のガレージでギターや歌を重ねる多重録音の先駆者で、奥さんのメリー・フォードと一緒に実験的な試みをいろいろとやっていたんですよね。そのオーバーダビングの成果が「Lover / Brazil」という曲として1948年にリリースされていたり。そうやってレス・ポールと奥さんが自宅で録音作業をしていたことにお父さんは影響を受けて、録音機材をたくさん買っていたんです。
純子:サンハウス時代から使っていたアナログのレコーダーもあるんです。
奈良:ああ、あったね。
LUCY:カセットテープが入れられるMTRで、それに8トラックくらい音を重ねていけるもので。掘り起こして聴くと凄く面白くて、何かのセッションの上にお父さんが録音した雷の音を重ねた音源もあったり。
純子:雷コレクターみたいなところがあって、雷が鳴り出すとヘッドフォンを付けて窓辺にテレコを向けるんです(笑)。
LUCY:“雷コレクション”って書いてあるテープがいっぱいあったもんね(笑)。
──鮎川さんが作曲を手がけた、堀ちえみさんの「デッドエンド・ストリート・ガール」や沢田研二さんの「ジェラシーが濡れていく」の未発表デモというのも貴重ですね。
純子:去年、堀ちえみさんがデビュー40周年を記念したCD/DVD BOXをリリースした時に、そのブックレットのライナーに「学生の頃からシーナ&ロケッツが好きで、仮歌を唄ってくださったシーナさんが最高に格好良くて真似して唄いました」と書いてくださったそうなんです。お父さんもいつかそのデモを聴かせたいと話していたので、このタイミングで収録することにしました。
LUCY:ジュリーの曲は同じコード進行なのにお父さんの仮歌とお母さんの仮歌が全然違うんですよ(註:本作には両バージョンを収録)。どちらも凄く格好良くて、ジュリーが唄っているのとまた違う良さがあるんです。違うニュアンスの仮歌を2曲渡して相手の解釈に任せたのかなと思うと面白いなって。
純子:「デッドエンド・ストリート・ガール」は去年の新宿LOFTにも出演してくださった鈴木茂さんのアレンジで、完成する前の違った形を垣間見れて面白いんですよ。
LUCY:仮歌と言ってもやんわり唄っているわけでもなく、これはこれでちゃんと曲になっているので一つの作品としてぜひ聴いて欲しいです。
──野音のライブ音源「SISTERS, O SISTERS」というのは?
LUCY:ドキュメンタリー映画『シーナ&ロケッツ 鮎川誠 ~ロックと家族の絆~』のDVDが出た時に付けた特典ディスク(オフィシャルショップサイト限定のライブMC集)にそのライブ映像を少し使ったんです。1988年にニューヨークで『HAPPY HOUSE』をレコーディングして、CBGBでライブをやった後に帰国してすぐの野音でのライブだったんですけど、その時にオノ・ヨーコさんの「SISTERS, O SISTERS」をカバーしたんです。ニューヨークでオノ・ヨーコさんが自宅アパートのダコタ・ハウスへ招待してくれて、ヨーコさんと仲良くなれたのが嬉しかったみたいで。
奈良:『HAPPY HOUSE』のレコーディングをコーディネートした写真家のボブ・グルーエンが仲介してくれて、ダコタ・ハウスへ連れていってもらったんです。ジョン・レノンのギターがずらっと並べてあって壮観でした。オノ・ヨーコさんのお祖父さん(元日本興業銀行総裁の小野英二郎)の生家が柳川だったからなのか、みんなとは九州弁で話してましたよ。ニューヨークで九州弁なんて変だなと思ったけど(笑)。