鮎川とシーナが歩んだ物語はまるで日本のロックのおとぎ話
──YMOとセッションした音源を収録するにあたっては細野晴臣さんにも連絡したんですか。
純子:はい、もちろんです。日笠雅水さん(YMO初代マネージャー)を通じて、細野さんからAYU RECORDSのことを応援しています、と優しいお言葉までいただいたのも本当に嬉しかったです。
──YMOの『SOLID STATE SURVIVOR』は前作がややフュージョン寄りだったのに対してニューウェイヴの要素が色濃いですよね。あれはレコーディングに参加した鮎川さんの存在が実は大きかったのではないかと、以前NHKの『名盤ドキュメント』を見た時に感じたのですが。
純子:お父さん自身はYMOの人気にあやかりたいと思われるのが嫌だったみたいで、『SOLID STATE SURVIVOR』でギターを弾いていたのを自分からはあまり言わずにいたんですけどね。
奈良:自分から自慢する人じゃなかったからね。僕も知らんやったことがいっぱいあるし。
澄田:実を言うと、僕が初めて鮎川さんのギターをコピーしたのはYMOのライブ音源なんです。当時、NHK-FMか何かでエアチェックして、「RYDEEN」のギター・ソロをコピーしたんですよ。そのライブ音源のギターが鮎川さんだった。
純子:その音源も家のどこかにあるのかな?
──『1979 DEMO』と『#1』を出したことで、シーナ&ロケッツの初期の秘蔵音源はあらかた出尽くした感じなんですか。
LUCY:まだ、80年代前半の渋谷公会堂のライブ音源や山口冨士夫さんが参加していた1986年の『CAPTAIN GUITAR AND BABY ROCK』の完全盤、お父さんがウィルコ・ジョンソンと一緒にやった『LONDON SESSION』のアウトテイクとかもあるし。AYU RECORDSとしては初期ばかりじゃなく中期も後期も満遍なく出していきたいと思っています。
純子:2020年にGOKスタジオで録音したLUCY加入後のアルバムも出せたらいいなとか、いろいろと考えています。
──『シーナ&ロケッツ 鮎川誠 ~ロックと家族の絆~』も8月にDVD化されましたが、澄田さんはあのドキュメンタリーを鑑賞していかがでしたか。
澄田:シーナさんが亡くなった後にNHK福岡でやったドラマ(『You May Dream 〜ユーメイドリーム』)を見た時も感じたんですけど、鮎川さんとシーナさんの出会いとその後の物語はまるでおとぎ話みたいですよね。日本のロック史におけるおとぎ話。でもそれは実際にあった現実のストーリーで、日本にもこんなロックな人たちがいたんだなというか。
──そもそも澄田さんと鮎川夫妻の最初の接点はどんなものだったんですか。
澄田:最初に直接話したのは25年くらい前ですね。VooDoo Hawaiiansのツアーの合間に大阪のFMラジオ番組に出て、そのディレクターに「隣のスタジオに鮎川さんとシーナさんがいらっしゃいますけど挨拶されます?」と訊かれてぜひということで、そこでちょっとお話しさせてもらって。その翌日、鮎川さんとシーナさんに『ROCK THE ROCK』のプロモーションで三宮にあったヴァージン・メガストアでインストアやるけんおいでと言われて、僕らはチキンジョージでライブだったのでサウンド・チェックが終わってすぐ見に行って。その時に聴いた鮎川さんのギターの音、PAを通した音じゃなくそこで鳴っている生音を聴いてびっくりしたんです。僕はそれまでギブソン特有の中域のふくよかな音があまり好きじゃなかったんですけど、レスポール・カスタムでもこんなにソリッドな音を出せるんだ?! と思って。…こんな個人的な話をして大丈夫ですか?
──もちろんぜひ聞かせてください。
澄田:そのちょっと前にたまたま行った池ノ上のヴィンテージ・ギターショップで「ジャガーを弾くならこれもいいと思いますよ」と推薦されたのが55年製のレスポール・カスタムだったんです。いま思えばそのギターは鮎川さんのブラック・ビューティーととても似た音だったんだけど、凄いショックを受けて。欲しかったけど150万円と言われて諦めました。でもその2カ月後に鮎川さんの弾く生音を聴いて、自分の中で革命が起きたんですよね。あれは自分のギタリスト人生でもエポックメイキングな出来事でした。その後に鳥井賀句さん主催のイベントでシーナ&ロケッツとご一緒させていただいたり、いろいろと接点が生まれました。あと、柴山さんのZi:LiE-YAでギターを弾くことになって「マコちゃんのギターを徹底して覚えてこい」と言われたり。あの時期にだいぶ鍛えられましたね(笑)。
──澄田さんが今お話しされた鮎川さんのギターの凄さは、ベスト盤的意味合いもある『VINTAGE VIOLENCE ~鮎川誠 GUITAR WORKS』を聴けばよくわかりますよね。
LUCY:確かに。特に初回限定盤にしか付いてない2枚目のCDも貴重ですね。あれはこちらからビクターにぜひ入れてほしいとお願いしたレア・トラック集なんです。
純子:BLANKEY JET CITYと一緒にやった「I'M FLASH」とか、小山田圭吾さんがベースで鮎川とシーナと3人で作った「STIFF LIPS」も斬新で格好いいです。1枚目のほうは原由子さんと鮎川がデュエットで歌う「ヨコハマ・モガ」もリクエストしました。
LUCY:私はジョー山中さんが唄う、フラワー・トラベリン・バンドの「HIROSHIMA」が凄いと思った。お父さんがあんなにオリエンタルで面白いギターを弾くのは珍しいのでぜひ聴いて欲しいんです。Charさんとの「WHITE ROOM」も熱いです。