どうせやるなら多くの人の耳に届くようなことをやろう
──そんな時代の中、メンバー変わらず10年やってこれて。
井上:良い感じに肩に力を入れずやってきたのもでかいね。
カワイ:お前こうしろよ! みたいな、そういう強制するようなことがなくて。なんか、ユルいですよね。
岸本:2010年代に突入したぐらいのときにやっぱりマンネリ化してる部分があって。ポストロック系がすごく人気があって。toeとかte’とかLITEとかがすごい中心に盛り上がってたんですけど、追随するバンドがいっぱいいて飽和状態に感じてたんですよ。で、その辺のいいところをミックスしてやると面白いんじゃないかと。初期の曲とかは方向性としてはまさにそういうコンテンポラリージャズ、ポストロックとかでしたね。
井上:あれ、一回リリース前にLOFTでなんか360度みたいなのイベントでやったっすね。
──ありましたね!
カワイ:フロアでやったやつだ。やったね。
──あれはフォックスならではというか。非常に面白い感じでできたので良かったですよ。その後はどんな感じで?
岸本:ちょっと認知され始めたのが「衝動の粒子」っていう最初のミュージックビデオですね。あれから「お、なんかちょっといい感じじゃね?」って話をしたのは覚えてますね。
──バンドの認知度が上がってきた中で、何か思うことってありましたか?
カワイ:う~~~ん、なんだろうね。そんなめちゃめちゃ自覚する感じはないんですけど、たまにテレビとか見てると「フォックスっぽいの作って」っていう発注なのかな? みたいな。代名詞みたいなのになった感じはあるかもしれないなって(笑)。
岸本:一つの音楽ジャンルって言うと大袈裟ですけど、ムーヴメントを起こせたかなっていうのはまさにそうですね。
──フォックスだったり、Playwrightっていうレーベルが若い世代にジャズとかインストを浸透させてくれたと思うんですけど、なんかそういうイメージみたいなものって立ち上げ当初からありましたか?
カワイ:そんななかったよね?(笑)
岸本:でも、確かに既存のジャズリスナーにウケるっていうのも一つなんですけど、大学生以下、学生とか、20代のジャズを全く聴いたことがない人とかにも届くような、それこそポップスしか聴かない人とかでも響くような音楽で、なおかつちゃんとそのバックグラウンドのクラブジャズだったりポストロックだったりの自分たちの得意なことはどんどん取り込んでっていうふうには考えてましたね。どうせやるなら多くの人の耳に届くようなことをやろうっていう雰囲気で、音楽性もそういう感じにして。インストゥルメンタルの、特にピアノ系なんかのバンドは今すごく数が増えたなとは思うんですけれども。目に見える人が増えてきたのかなっていうだけなのかもしれないですけど。それもあまり予想してなかったですね、この10年。
──10年でこのシーンって大きく変わった気がします。フォックスとして、ジャズだったりインストだったりっていうこだわりってやっぱりありますか?
カワイ:最初はこだわってたかな、3人だけのトリオ編成の音色で、みたいなのは。
──たとえば、後からボーカルを入れようとか、そういう考えは全くなかったんですか?
カワイ:将来的にはボーカルを入れたりとかフィーチャリングしたりとかはやろっか、みたいなのを一回ぼんやりと喋ってたぐらいですね。
井上:そうですね、最初は3人でどこまでやれるかみたいな。
カワイ:うん、最初の3、4年はそんな感じだったね。
岸本:そうそうそう、あと電子楽器は使わないみたいなのとか。そこはやっぱり、基本はジャズっていう音楽をベーシックに置いてやっていこうっていうこだわりがあったかもしれないですね。
10年経って“Playwright系”みたいなものが浸透した
──じゃあ、固定としてボーカルを入れようみたいな考えは…。
岸本:なかったですね。ジャズのサウンドでどれだけ面白いことをできるかっていう。まあ、ここ近年になってからはそういうのも取り外してやってますけど。
谷口:僕も全然そういうつもりはなくて。ジャズ業界に風穴開けてやろうみたいなつもりも全くなくて(笑)。初めは好きな音楽を出せりゃそれでいいかなと思ってたので。ただ、なんかそれがひと塊でブランドとかアイコンとかになったらいいなっていう目標はありました。Playwright系って言われたい、みたいな。で、10年経ってみると、なんかそれが一つ浸透したなって実感してるのが嬉しいですかね、結果として。
岸本:東京ジャズとか地方のジャズフェスとかにコンスタントに呼んでいただけるっていうのは非常にありがたいですね、やる意味もすごくあると思うんです。どちらかと言うとバンドシーンの中にこういうスタイルのバンドがいるっていうので突き抜けていきたかったっていうのはあったのですが、ジャズのイベントにも想像以上に声を掛けていただきました。
──僕もタワーレコードで働いていたので、J-POPコーナーとかにフォックスが置いてたりとか、そういうバンドが最近すごい増えたなって感じは思いましたね。10年経ってみていろんなことがあったと思うんですけど、特に印象に残っている時期とか出来事とか時代背景みたいなものはあったりしますか? たとえばこの2年ちょっとコロナっていうものがあって、それに対して思うこととか。
井上:まあなんか、それはそれでできることをやろうっていうので、このコロナ禍でもフルアルバムを3枚出してて。結局、そのほかに映画、ドラマの劇伴の仕事とかもやらせてもらえるようになったんで、結果多分バンド活動の中で一番忙しい時期だったですね、この2年ぐらいが。
カワイ:確かにライブはできなかったけど、ライブ以外の活動はけっこうしっかりできてたかな~って感じですね。
──無観客配信もしてましたよね。
岸本:やりましたね。イベントができなくなったりして、多少は精神的に沈んだんですけど、それどころじゃなかったっていうのが僕たちはあるかな(笑)。10年を振り返るとレーベルの仲間がすごく増えて。なんて言うんですかね、バンド始めたときって僕らは地元が東京じゃなかったりするんでそこまで仲間はいなかったかなと思うんですけど、今、後輩バンド的な人もいっぱい入ってきたり、レーベル外にも一緒に盛り上がれる仲間とかが増えて。それはなんかすごく、一番変わったことかなと思いますね。
──谷口さんはどうですか?
谷口:いろんな出来事があったし、いろんな所に連れてってもらいましたし。日本全国、海外までも。それが一つ楽しかったのと、コロナになってライブができなくなって、やっぱりそれは大きかったですかね。最近、以前から来てくれていた人たちに会うだけでも泣きそうになっちゃって(笑)。
──本当に、ようやくお客さんが徐々に徐々に戻ってきたかなって、ロフトとしてもそうだと思うんですけど。やっとこう、完全とまではいかないですけど、良いところまでは来ているのかなとすごい感じますね。
谷口:そんな中、岸本に憧れて! みたいな人が来たりもして、そういうのを聞くとやってきて良かったって思います(笑)。
──フォックスを目指してやってますみたいなバンドの子たちもすごく多くなっていると思うんですよね。
岸本:嬉しいですね。さっきも少し話しましたが、やっぱりここ数年はキーボーディスト、ピアニストのいるインストゥルメンタルがすごい増えたんですよ。
──20代前半の子とかが多いんですか?
谷口:そうですね、今回のイベントの23日に出るLiquid Stellaとか、24日に出る草田一駿も22歳とかなので。
──じゃあフォックスはもう年長?
岸本:上で言うと島さん(島 裕介)とかいますけどね、WAIWAIの伊沢さんとか。