悪しき自己責任論では「助けて」と言えない
──この部屋で、音と情念が渦巻いてる(笑)。もともとフジロッ久ってバラエティあるけど器用にやってる感じじゃなく、はみ出しちゃうとこが面白い。
藤原:はみ出したくなっちゃうんですね。最初ははみ出すつもりなくっても、なんか違うなんか違うっていじくり回していくと、はみ出していくんです。メンバーには嫌がられてたこといっぱいあると思います。そもそもパンクの何が好きかって、汚い音がかっこいいとか、尖りすぎてて笑えてかっこいいってとこなんで。今回、はみ出し者の生き様のまんま。食べにくくても生のまま、素材のまま出すぜ! みたいな。
──FUCKERの曲もまさにそうですしね。
藤原:僕自身は声は細いし声質もこんなだし、ガーッと叫ぶよりもメロディをしっかり唄うほうが持ち味を活かせるんですけど、それだけだと自分的には物足りないときもある。自分の特徴を変えずにいかにそれを超えるものを出すか。伝えたいのはこっちだよって。なんでそこにそんなにラー油入れちゃうの? でもそこにラー油を入れることが大事って思っちゃうときがあるんですよ。
FUCKER:俺もそういうことよく言われる。「谷ぐち君、なんでそこでそういうふうにしちゃうかなぁ」って(笑)。パンクバンドあるある(笑)。
藤原:いつもキレイな靴を履いてる奴はなんか信用できないような気がする、みたいな感覚ですかね(笑)。自分も新品のキレイな靴を履いてるときは気持ちいいし、その気持ち良さも知ってるんだけど、バンドとなると、キレイな靴はちょっと恥ずかしいから、その靴汚していい? って。前に、ドラムの音がキレイすぎて曲に合わないって独断で汚しちゃって、めちゃくちゃ嫌がられました。本人は汚す前の音をすごく気に入っていて。
FUCKER:そりゃ怒られるわ(笑)。でも汚い音を作るにも、キレイに録れてたほうがいい汚い音が作れるんだよね。
藤原:そうなんですよね。僕にとってそのキレイな音は素材で。でも自分の価値観を一方的に押し付けちゃダメですよね。メンバーが辞めていった理由のひとつだと思います。
──藤原君はこのライナーノート的な本にあるように、今回はどん底のときに作った曲で。
藤原:そうなんです。メンバーが抜けて5年経つんですけど、自分が根底から変われないとダメだと思ったんです。みんなが辞めてった理由の根っこは繋がってる気がして。自分のことちゃんと見ないとダメだなと、それで奥のほうに向き合っていくと、子どもの頃からの逃げてきたことや自分の根本的な生き方と繋がってる。じゃあもう生き直す覚悟で、全部変えるつもりでやらないといけないぞって。で、「その結果、音楽をやらなくなってもかまわない」「すぐに変われるわけないから、どれだけ嫌になっても不安になっても5年間は取り組む」って決めて。この本には生存的に行き詰ったときのことだけ抜き出して書いてるんですけど、それと同時進行にいろんなことがあって、それも含めてが曲になってると思います。で、これ2曲とも作ろうとして作った曲じゃないんですよ。バンドを動かしてるときは締め切りがあって、作らないといけない中で作ってたんですけど、これは「作ろうとしないと出てこないなら出さなくていい、自分の中からどうしても出てくるものがあるかを見てみたい」って思ったときに、出てきた曲なんで。すごく自分にフィットしてます。
──曲ができたこととモアザンハウスに住むことによって、どん底から脱することができた。
藤原:生存的などん底のときは、そのことしか考えられなくて音楽どころじゃなかったんで。家が確保できて、やっと自分と、人生の課題と向き合える余裕が持てて、しっかりと絶望に取り組めました(笑)。でもね、俺は住居にありつけたけど、実は今もそういう状況の人が近くにいるかもしれない。気づかないだけで友だちが苦しい状況にいるかもしれない。というのも、俺が苦しいときに「助けて」って言えなかったから。
FUCKER:俺もふじふじのこの本を読んで、初めて知りました。
──友だちだからこそ、助けてってなかなか言えない。
藤原:誰にも言えなかったんですよね。自分が社会的に不利な状況…。自分は、生まれながらあからさまなマイノリティとかではないから、それで助けてって言うのは、なんか、年齢的にもアウトすぎるんじゃないかとか。
FUCKER:それは完全に自己責任論だよ。
藤原:そうなんですよ。今なら分かります。悪しき自己責任論にハマッてたってことが。でも渦中にいると分からなくなる。自分のことをまだ正常だと思いたがってる。たとえば、ギャンブルですっちゃったなら「金貸して」って言えるんですよ。ギャンブルしなければ翌月返せますから。けど、普通に生きてたつもりが、「生きていくためのお金がなくなったから貸して」とはなかなか…。
──自分でも平気な顔しちゃったりね。
藤原:そうそう。音楽活動も、サポートでギター弾いて活動してたんで、平気の体で人前には現れたり。