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INTERVIEW

トップインタビュー大石規湖(映像作家)「ライブハウスを"祭り"じゃなく"日常"に── コロナ禍のライブ配信時代に果たす映像の力」

ライブハウスを“祭り”じゃなく“日常”に──
コロナ禍のライブ配信時代に果たす映像の力

2020.08.03

 新型コロナウイルス感染拡大の影響で、営業の自粛を余儀なくされているライブハウス。しかし、そのまま黙っているわけもなく、できることをやっていこうとスタートした配信ライブ。
 ある日私は、まるでライブハウスの最前列にいるような映像に、オォッ! と釘付けになった。撮影は大石規湖。親子3人それぞれがバンドマンの谷ぐち一家を中心に、アンダーグラウンド・シーンでの生き方が見えてくる傑作のドキュメンタリー映画『MOTHER FUCKER』の監督だ。
 大石さんの撮るライブは、ライブハウスにいるような臨場感と配信ライブだからこそのリアリティがあった。配信ライブの可能性を感じたし、ライブハウスの必要性も同時に思った。カッコいいバンド、カッコいい映像。それはライブハウスから生まれる。
 大石さんから見た今のライブハウスとライブハウスのスタッフの思いとは? 新しい伝え方を経験した大石さんが今思うことは?
 ※このインタビューの後日、大石さんがおよそ1年をかけて追ったthe 原爆オナニーズのドキュメンタリー映画『JUST ANOTHER』の公開が発表された。こちらも改めてインタビューします。(interview:遠藤妙子)

配信の仕事を通じて再認識したライブハウスの凄さ

──コロナ禍で配信ライブが増えましたよね。大石さんが撮影している配信ライブ、どれも凄く良くて。これはぜひ話を聞きたいって。

大石:ありがとうございます。

──配信という新しい伝え方を経験して、何か気持ちの変化はありました?

大石:変わってはないです。今までの延長上でやってるだけなので、配信だからといって特別なことをしてるわけではありません。その場のベストな瞬間を伝えるということでは、意識は全く変わっていません。唯一変わったといえば……、前より密にライブハウスの人と関わらせてもらっていることです。今までは「今日はよろしくお願いします」と挨拶程度の時間しかなかったのが、配信での撮影は、PAさんとの打ち合わせなどライブハウスの人と密に関わる。そこでわかったのは、ライブハウスの凄さです。配信というツールは変われど、アーティストの音楽を伝えるためにベストを尽くすということを、ライブハウスの人たちはし続けている、その凄さを目の当たりにしました。

──今までずっと熱量を持ってやってきたからこそやれるっていう。

大石:そうだと思います。ライブハウスではライブは日常的にあって、そのライブをスタッフの皆さんは凄い熱量でやってきた。配信はその日常があったからこそやれるんだし、困難な中であろうと、今までのライブハウスの役割としては変わらずやり続けていると感じました。

──変わったんじゃなくて、再確認したっていう。

大石:そうです。私が配信を初めて撮ったのが小岩BUSHBASHで。ライブハウスで働いている人は本当に凄いと感じました。BUSHBASHでは、特にラウドなバンドから音数が少ないバンドまで幅広く出演しています。そんなアーティストがその日のために気合を入れてライブをしに来る。スタッフの皆さんはそれぞれにとってベストな状態の場所を作って提供する。それが毎日行なわれるというのは相当なパワーがないと続けられないなと感じました。そういう店の人たちと一緒にライブを届ける感覚だったので、自分も撮影者として関わることはとてもパワーが必要でした。

 BUSHBASHに限らず、ライブハウスは少数精鋭のスタッフで経営していると思うのですが、BUSHBASHの場合は、PAは久我(真也)さんという方が基本的には一人でやっています。たった一人でセッティングして、楽器の設定から何から何までやる。それは今までもずっとやってきたことで、アウトプットが配信になったとしても、配信に適した音作りを常に模索していて、バンドの音をベストな状態で伝えたいという姿勢は全く変わってないんです。それがライブハウスにとっての日常なんだと感じましたし、日常を止めないために配信をやっている。店長の柿沼(実)さんは、日々流れてくる情報をかき集めて精査した上で、今何をすべきか、今できることは何かというのを物凄いスピード感で判断して、自分たちのやり方で実行している。それに加えて、ユーモアを持ってやっているところがBUSHBASHらしいなと思いました。配信をやり始めた頃、BUSHBASHにデカいしゃもじみたいなものが飾ってあったんですよ。柿沼さんに「コレなんですか?」って聞いたら、「密を避けてお酒を提供できるように」って(笑)。

──カウンターからデカいしゃもじでお酒を渡すんだ(笑)。

大石:そうなんです(笑)。この非常時に、まずデカいしゃもじを買ってきたという。最初にやるのがソレかーって(笑)。

──そのユーモアの感覚こそが、日常の感覚。

大石:そうなんです! この機会にいろんなライブハウスに行かせてもらったので、特に感じたのですが、スタッフの皆さんは、“祭り”にしたいわけではなくて“日常”としてのライブハウスを続けたいと物凄い努力しているということです。配信することは決して派手なことをやりたいわけではなくて。今までの日常を続けたいからやってるだけなんだと感じました。“祭り”じゃなく“日常”。私もそういう気持ちで撮ってます。

 

その時のベストは何かを常に考え、行動していく

──大石さんの最初の配信の撮影は3月29日にBUSHBASHで行なわれた『CRYMAX BROADCAST』ですよね。配信で見てたけど、臨場感にびっくりした。ここまでやれるんだって配信のイメージが変わりました。

大石:ありがとうございます。あの日はDEATHROさんとFUCKERLimited Express (has gone)田島ハルコさん。あの頃はまだ配信ライブが少なくて、でも配信したいということを谷ぐち順さんと、DEATHROさんが言いだして。正直、私はそれに巻き込まれただけなんです(笑)。

──Less than TVの人たちに(笑)。

大石:はい(笑)。もちろん全力のライブで。終わった後に「配信って興味あったんですか?」ってDEATHROさんに聞いたんですが、「ライブハウスでライブをやりたかっただけですよ」って。それが本当なんだろうなと思いました。もちろん安易な気持ちからではなく、ライブハウスでライブをするという日常を止めないために、議論と対策を練った上で行なっています。配信の撮影でライプハウスに通わせてもらうようになって、毎回そんなアーティストと、ライブハウスの人たちからパワーをもらっています。

──「ライブハウスでライブをやりたかっただけ」っていうのは、ホントに真実の言葉って感じだなぁ。

大石:そうですよね。配信をやるかどうかということは、いろいろなバンドに話が行っていると思うんです。お客さんがいないのに良いライブができるのか、テンションを上げていけるのか。音楽をやっている人は、とても慎重に考えていると思います。また、ライブハウスが厳しい状況だからドネーションや動画のアーカイブの販売など、店とバンドと視聴しているファンとで助け合っていこうという気持ちもあるはずです。でもライブをやる本来の理由はそれじゃないですよね。それより何より“ライブハウスでライブをやりたい”。

──ホントそうなんでしょうね。でも配信を躊躇するバンドも多いでしょうね。

大石:今もいると思います。配信に乗せる音はラインとエアを混ぜますが、音の波動がやっぱり生とは違う。ハードコアのように音像が大きかったり、逆に空気に触れて生まれるような音は、配信でそれを伝え切るのは難しいとは思います。良さが伝わるのか心配になると思います。そういうバンドやミュージシャンの良さを、どうやったら配信でも伝わるのか。そういうことは常に考えて試行錯誤しています。でも、やはり配信はやらないという考えのバンドもいると思いますし、そのやり方でいいと思います。その人たちがライブができるようになるまで、自分は何か手伝えることをやっていけたらと思っています。

──ああ、そうですよね。配信はそのためでもあるし。で、配信はメリットもあるけどデメリットもありますよね。たとえば、実際のライブハウスは対バン形式で、そこで初めて見るバンドがいたり偶然の出会いがある。配信ではそういう偶然性は難しい。あと動員が少ないバンドが配信をやるっていうのもハードル高いかもしれない。

大石:だからこそ、そうなってしまわないようにしようと、それぞれのライブハウスは視聴人数が少なくてもやっていますよね。動員が多いアーティストだけがやる、という形にはしない。それがライブハウスの姿勢なんですよね、きっと。

──確かに。それは以前から続けていることで、配信だからって変えることのない姿勢ですよね。

大石:これから先、今までのようにライブができるようになるかもしれないし、もっと制限されていくかもしれない。

──生のライブと配信ライブ。補い合っているし延長上だけど、依存し合ってるわけじゃないっていう。

大石:そうですね。今は状況が日々変わっていくので、その時のベストを必死になってやるってだけです。ベストは何かを常に考え探して行動するということですよね。ライブハウスの皆さんが凄く悩んだ上で努力して行動されているので、私も必死です(笑)。

 

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the 原爆オナニーズ ドキュメンタリー映画
『JUST ANOTHER』

【出演】the 原爆オナニーズ(TAYLOW、EDDIE、JOHNNY、SHINOBU)、JOJO広重、DJ ISHIKAWA、森田裕、黒崎栄介、リンコ 他
【ライブ出演】eastern youth、GAUZE、GASOLINE、Killerpass、THE GUAYS、横山健
【企画・制作・撮影・編集・監督】大石規湖
【スチール】菊池茂夫
1.78:1 | カラー | ステレオ | 90分 | 2020年 | 日本 | 配給:SPACE SHOWER FILMS
©2020 SPACE SHOWER FILMS
10月24日(土)より新宿 K's cinemaほかにてロードショー!以降、全国順次公開!

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