昔、10年ほど前だろうか、谷ぐち順と話したとき、彼は「アンダーグラウンドは上を見ないで横を見るんですよ」と言っていて、とても納得、共感した。谷ぐち順がレーベルオーナーであるless than TVはその言葉通り日本のアンダーグラウンドの土壌を切り拓いてきた。アンダーグラウンドは自由だ。
谷ぐち順がフォークシンガーFUCKERとなり、2016年に初のアルバム『FUCKER』をリリース。そして待望の2ndアルバム『きなこ オン ザ ライス』が、ゲストミュージシャンに鮎子、レコーディングエンジニアに旧友・荒金康祐を迎えless than TVからリリースされた。装飾、誇張は一切なしの100%日常から紡ぎ出され自らを曝け出した全11曲。思わず爆笑、いや失笑してしまうその歌から、人間の可笑しさ、尽きるところ素晴らしさを実感した。自分自身で生きていくことこそ素晴らしいのだ。自由とは、その漢字の通り自らを由とするってことなら、どんな人間でも、みんなそれぞれが自分自身で生きていい。『きなこ オン ザ ライス』はそんなふうに響いた。この赤裸々な問題作、もしかしたら大傑作。(TEXT:遠藤妙子)
——1stアルバムとはちょっと違う雰囲気ですね。前作はグッときたし感動したし、ちゃんとしたアルバムだったと思うけど、今作はなんていうか、音も歌詞もリアル過ぎる(笑)。
FUCKER:そうなんですよね~(笑)。1stは内さん(内大介/ツクモガミ)が作りたいって言ってくれて、レコーディングは完全にお任せなんです。選曲もお任せ。俺には作れない感じのものにしてくれて凄い感謝してます。で、今回は自分でやろうと。自分のそのまんまを出そうと。
——パーソナル過ぎるアルバムになりましたね(笑)。なんか、感動させたいとか何かを伝えたいとか、一切ないような(笑)。
FUCKER:そうなんですよね~(笑)。
——そもそも弾き語りは、自分のそのまんまを曝け出したいってとこから始まったんですか?
FUCKER:いや、弾き語りを始めたのはそれしかなかったから。当時、バンドを辞めるってことになったし、新しくバンドを作る気もなかったし。弾き語りしかないぞと。まぁ、やってないことをわざとやる、無謀なことを敢えてやろうっていう。そういう気持ちはありました。
——実際、谷ぐちさんが弾き語りをやるって聞いた時、意外だと思いました。でも、今は弾き語りが谷ぐちさんそのものになっている感じで、それまでやってなかったことがむしろ意外に思えるぐらい。
FUCKER:後付けに気づいてきますよね、どんどん。実際、これしかないし、これならいつまでもできるかなっていうのもあるし。
——ちょっと弾き語りを始めるまでのことを振り返ってもらいますが。それまではずっとバンドマンとしてやってきたわけで。
FUCKER:今思い返してみれば、ムチャクチャやろうが何やろうが知ったこっちゃねぇって感じでずっとやってきたんですよね。音楽活動も生活も。生活がハチャメチャじゃないとハチャメチャな音楽は作れないと思っていたから。捨て身で、何も怖いものもねぇみたいな。バンドやってカッコイイ音楽やってればOKでしょって。人を傷つけようが何しようが。ま、傷つけようとは思ってないけど、自分さえよければいいって思ってました。調子に乗ってたし。今はそれは絶対ないです。温和です(笑)。
——生活と音楽活動は繋がっているっていうのは、昔も今も変わらないですよね。
FUCKER:変わらないです。でもそのベクトルが変わってきたっていう。
——YUKARIちゃんと結婚して共鳴くんが生まれて。生活も意識も変わりますよね。
FUCKER:メッチャ変わりました。いや、でも最初の頃はまだ惰性というか。共鳴も生まれて、自分だけじゃない、家族ができたって、そこらへんで考えは変わってたけど、でも明確なビジョンが開けてたわけじゃなく。惰性もね、あったんですよね。
——考えは変わってきたけど、すぐに実践できるわけじゃないかもしれない。
FUCKER:そう。行動が伴ってなかったんですよね。それでまさに『きなこ オン ザ ライス』の状況に、「きなこ オン ザ ライス」を食べる生活になって(笑)。まぁ、いろいろ考える時間ができたんで。それからですよね、変わったのは。これからどうするかってことを、しっかり作戦を練る時間があったんで。それまで凄い雑だったなって思ったんで。少しでも返せるように、恩返しの気持ちというか。レーベル、バンドの仲間、何よりも家族。音楽は余裕があればできたらいいなってぐらいで。でもまぁ、弾き語りなら細々とできるじゃないですか。生活の合間に浮かんだフレーズとかをボイスメモに録ったりして。弾き語りはそうやって始まったんです。
——そしたら歌いたいことはたくさん出てきた?
FUCKER:いや、何がやりたいかとか明確にはなかったんです。歌うぞってなった時に、自分で歌詞書いて自分の歌なんて作れるのか?って一瞬思ったんです。でもまぁ、経験してきたことを書けばいいかと。決めてたのは、詩的な表現は一切使わない歌にしようと。ガラでもないことはやらない。すると、こんなこと普通歌う?、みたいなものばっかりになって(笑)。フォークやるにあたって、なぎら健壱は凄い好きなんですよ。なぎら健壱とECD。ECDも剝き出しじゃないですか。そういうとこから自分のスタイルでやれるかなって。
——今作も、私、「何かを伝えたいとか一切ないようなアルバム」って言ったけど、だからこそ出てくるリアリティとか人間の可笑しみとか、それは凄く伝わる。
FUCKER:間抜けだし、人間っていろいろあるじゃないですか。それを曝け出して。聴いた人が、「こいつはひどいな、俺はまだ大丈夫だな」って思ってくれればいいなぁって。でも俺自身が、もう少し感動が入ってもいいんじゃねえか? って思いますけど(笑)。
——でも「鮎子とFUCKERのムーンライト・ソナタ」は泣きそうになった。
FUCKER:泣きそうになりました?
——ピアノも悲しいし、ショボイのに大袈裟だし(笑)。
FUCKER:一切の装飾なしで。どの曲も。
——ここまで飾らないの、逆に難しいような。
FUCKER:そこで勝負したいと。