Rooftop ルーフトップ

INTERVIEW

トップインタビュー平野 悠 ロフト席亭(Rooftop2017年8月号)

『TALK is LOFT 新宿ロフトプラスワン事件簿』タブーなき言論空間は表に出せない歴史だらけ?!

2017.08.01

素直にイベントをやらせてたまるか!

──バンドは人気が出ると大きなホールに活動の場所を移していきますが、ロフトプラスワン開店当初から出てくださっていたという園子温さん、鈴木邦男さん、森達也さんなど今や「大物」になった方たちが出版記念イベントにいらっしゃっていたり、ずっとご縁が続いているというのは、音楽ライブハウスとトークライブハウスの違いでしょうか?

平野:音楽ライブハウスは武道館に行く通過点なんだよ。店側はうちが育てたって自負があっても、ミュージシャンはどんどんでかいハコに行ってしまう。でもね、それは怒っちゃだめなんだよ、それはライブハウスの宿命なの。あと、ミュージシャンは音楽でご飯を食べてるけど、トークライブに出る人はそれで生活をしているわけじゃないから、その違いもあるのかな。彼らはそれぞれ本を書いていたり、映像を撮っていたり、普通に仕事をしながら趣味でやっていたり、そこでちゃんと地盤があってトークイベントをしているから。

──今はいくらでもネット越しに情報交換ができるのにもかかわらず、全国にトークライブハウスが増え続けていますよね。

平野:それは「Face to Face」だよね。例えばあんなに人気のある山下達郎さんが武道館でライブをやらない理由が「アカペラでやったときに声が届かないから」。その意識と同じで、パソコンで情報を読んだりYouTubeで聴いたりしているだけっていうのは、「体験」でなくて、「経験」でしかない。もう一つは予定調和じゃないから。何が起こるかわからないっていう要素を持ち続けるのがライブイベント現場の魅力だろうね。争いごとが起こったほうが面白いに決まってるじゃない。スタッフは困るだろうけど。ステージ上で殴り合いが始まって、マイクを投げるわ、グラスは割れるわ、「お前、ちょっと外に出ろ!」って始まって、それを見たお客さんはウワーっと盛り上がって、外まで見に行っちゃったりして(笑)。

──客席からヤジが飛んで。

平野:危険になるまでは誰も止めない。俺はそれもお客さんがチャージを払った分のうちだと思っているんだよ。なぜロフトプラスワンが成功したかと言うと、店側が、「これは困るからやらないで」なんて滅多に言わない。むしろ煽っているぐらいだったから、そういう事件がいっぱい起こるわけ。そうすると来ていたお客さんが必ず人に喋るんだよ。「こないだあの店に行ったらこんな事件があってすごかった」って。実際に来ていたのが20人だったとしても、口コミがどんどん広まったのが一番強かったんだと思うよ。だから俺もわざと客席からヤジを飛ばしたり、混乱を起こさせたりして。

──完全に炎上目的ですよね。

平野:炎上歓迎。騒いだほうが絶対に面白いし噂になる、俺のポリシーは、「演者の好き勝手にやらせない」だったからね(笑)。

椎名:冷静な商人の目があるんですね。

──騒ぎそうな人を選んで集めていたわけじゃなくて、たまたまこんなに集まっちゃったんですか?

平野:そういう連中を面白がってたからね。1日店長は酒代が全部タダだし。なんで酒を飲みながらトークイベントをやるかって言ったら、酒が入ると本音が出てくるんだよ。でも最近、「これはネットに書かないで」っていうのが多すぎるよな。

──「ここからはノーツイートで」っていうイベント、多いですね。

平野:それなら喋るっていう判断なんだろうけど。だからロフトプラスワンは演者側が「これは勘弁してください」っていうのは認めるけど、それ以外は写真も録音も自由。お金払って見に来てるんだから好きにさせてあげればいいの。

──その動画をお金払ってない人が見るっていうのもアリだと。

平野:所詮、ライブの臨場感で勝てるわけないんだから。武道館とか広い場所でミュージシャンが小粒くらいにしか見えないとしても、やっぱりそれは臨場感・現場感なんだよ。だからみんな高い金払ってライブに行くんだよな。このまえサッカーを見に行ったんだけど、選手がすごく遠くてさ、あんなのテレビで見たほうが全然試合がよくわかるよ。でも違うんだよ、声援が飛び交っている現場の中にいるのは。

──ガヤの中にいるっていうのは違いますよね。

平野:サポーターはうるさいし、応援ばっかりでほとんど試合なんて見てないんだから(笑)。相手のチームがいい試合したから拍手したら、周りからブーイング受けちゃったよ。まぁ、現場で好きなことをやればいいんだよ。

──最近はヤジを飛ばしには行かないんですか?

平野:はぁー…(深いため息)。この前ね、音楽プロデューサーの牧村(憲一)さんがトークイベントに出てたから行ったんだけど、一生懸命みんなで日本のポップミュージックを語っている中で俺は手を上げて、「シティポップなんて聴いてるからお前らはだめなんだよ! 俺はあの時代はとっくにパンクをやっていたよ、ポップなんてクソだ」って言っちゃったんだよ。俺、あとから牧村さんに電話したもん。「ごめんね、あんなこと言うつもりじゃなかったんだけど……」って。FacebookやTwitterでも同じことしちゃうんだよな。酔っ払って適当に書いて、夜中にパカって目が覚めて、ヤバイ! って慌てて消すんだよ。

──それ、病んでますよ。

平野:だから俺の人生っていつもね、家に帰ってから「なんであんなことを言っちゃったんだろう?」って頭を抱えて反省するの。後悔先に立たずの人生だな。

──本の冒頭にも書いてありますけど、お客さんに向かって「メガネをかけて太ったやつしかいないじゃないか」ってディスったって。20年間、全然ブレないんですね。

平野:でもあの頃の俺はつっぱってたからね。今はつっぱってないもん。争いごとはもう嫌! 政治も嫌、安倍も嫌!

──政治も気にしているし、争いごとも大好きじゃないですか。

平野:もう、俺が当事者になって争うのは嫌なんだよ。誰か勝手に争ってもらって、俺はそれを見ながら酒を飲んで音楽を聴きたい。

なぜあんなことになったのか「小倉あやまれデモ」

──わたしがこの本で一番好きなエピソードは、フジテレビへの「小倉あやまれデモ」でした。「小倉あやまれ友の会」まで設立されて(笑)。

[小倉あやまれデモ:新宿ロフトでのニューロティカとサッチーとの共演ライブの映像を見たフジテレビの『とくダネ!』キャスター小倉智昭氏が「この若者はいくらもらって来たの?」と、客が全員サクラであるかのような発言をしたことが発端]

平野:フジテレビのエリート若造にロフトがなめられてたまるかって思って、デモをやったんだよね。手をつないで道路いっぱいに広がるフランスデモをしたり、隊列を組んで道をジグザグ歩くジグザグデモをしたら、警察がむちゃくちゃ怒っちゃって(笑)。なんであんなことができたんだろう……? さっぱりわからない。

──さすが元全共闘。ロフトに来ていたお客さんたちや関係者がいっぱい協力して参加したんですよね。

平野:原因になるライブ出演者のニューロティカとサッチーは全然興味なし(笑)。

──当事者なのに。

平野:当事者だーれも来ない(笑)。もともと権力に戦いを挑む人たちじゃないから。やったのは俺と仲間だけ(笑)。

──たまたま現場にいた人たちはどんな反応だったんですか?

平野:フジテレビの正門前でビラを配ったりしたんだけど、なんのことだか誰もさっぱりわかってなくて、でもみんな面白がっていたな(笑)。

──ロフト社内からは……。

平野:そりゃ〜、業務命令だよ、全員参加!(笑) 最終的に、フジテレビの株主行使権を手に入れて株主総会に乱入したの。もう総会は大荒れ。それでやっとあっちも話し合いの場に出てきて、ちゃんとフジテレビから詫び状を取ったんだから。偉いでしょ?(笑) 若かったからな。でも、なんであんなことまでできたんだろうな。一銭の得にもならないのに株主総会まで行ったりして、いまだによく分からないよ。

一番、対談したい人と衝撃の風俗嬢……

──そんな長い歴史の中で、一番印象に残っている出演者は誰ですか?

平野:やっぱり奥崎(謙三)さんだね。ここはしっかり読んでほしいな。俺はみんなみたいに、「奥崎先生、尊敬しています」なんて言わなかったからね。他の人たちは、奥崎さんがちょっと怒ったりすると、「はい! わかりました! 先生、尊敬しておりますっ!」が決まり文句。奥崎問題だけで一冊書きたいくらい衝撃の人だったよ。最初の出所のときは原一男監督の『ゆきゆきて、神軍』がすごく評判になっていたから、奥崎さんは最後の13年の刑務所生活を終えたときにも同じように大勢が出迎えるだろう、自分は英雄になるんだと思っていたら、ほとんど誰もいないし、マスコミは引くし、イベントにも人が少ないし、愕然としたと思うよ。出所記念イベントに杉並公会堂を借りようとしてたんだから。結局、奥崎さんが自分の出所日を間違えてたから実現しなかったけど(笑)。むちゃくちゃだよな。

──では、平野プレゼンツでイベントを開催するとしたら、一番再会したい人は?

平野:もう、憧れの野村監督も、アントニオ猪木も、総理大臣経験者もみんな出てくれたからな。坂本龍一さんかな。あとは、サザンの桑田佳祐さんと対談したいな。うち(下北ロフト)がなかったらサザンはなかったでしょ? って勝手に言ってみたい(笑)。だって大国民的なバンドだよ。子どもから大人まで知っているサザンに勝てるバンドいないよ。

──泣く泣く削ったエピソードはありますか?

平野:包丁妻に決まってるでしょう〜…(机を叩きながら)。これは過激すぎて梅造社長から削られたんだよ、抵抗したのに。『ロフトプラスワンゴンクショー』っていう誰でも出られるイベントで優勝した女性なんだけど、全身に包帯を巻いて包丁を持って、司会の男のズボンのチャックをあけてチ◯コを切ろうとしたりさ(笑)。こんな素敵なパーフォマンスは、見たことがないほど過激だった。

──ひえー! 実はわたしその方と知り合いなんですけど、そんなこわい現場は全然見たくないです(笑)。

平野:そして、だんだん包帯をといて最後はすっぽんぽん。風俗嬢で俳人でもあって、当時の恋人はオウム信者。最高だろ? だから単独イベントを開いたんだけど、最初は「面白い!」って評判だったのに2回目は飽きちゃってだーれも来ないの。そりゃないよな。俺は飽きなかったんだけど。

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TALK is LOFT
新宿ロフトプラスワン事件簿
平野 悠 著

四六判/並製/312ページ
定価:本体1,600円+税
ISBN978-4-907929-22-0 C0076
ロフトブックス 刊
全国の書店、ロフトグループ各店舗などで絶賛発売中!!

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 1995年7月、世界初のトークライブハウスとして新宿にオープンした『ロフトプラスワン』。音楽、映画、文学、マンガ、アニメ、お笑い、アイドル、エロ、政治経済、社会問題など、ありとあらゆるテーマのトークイベントを20年以上にわたり開催し、“タブーなき言論空間”としてトークライブの文化を日本に定着させてきたサブカルチャーの総本山だ。
 そんなロフトプラスワンの黎明期に巻き起こったスキャンダラスな事件の数々を、創始者である「ロフト席亭」こと平野 悠が透徹した視点と筆致で自ら語り尽くした一大回想記。
 「新宿サブカル御殿」(中森明夫)、「オタクの聖地」(唐沢俊一)、「乱闘、襲撃酒場」(鈴木邦男)、「闘鶏場」(藤井良樹)、「文化のドブさらい」(リリー・フランキー)などと呼ばれ、そのテーマが面白そうなことなら有名無名にかかわらずどんな人にでも表現の場を提供し続けてきたロフトプラスワンはどんな経緯でオープンに至り、サブカルチャーの発信基地となっていったのか。波乱含みで筋書きのないトークライブの醍醐味とは何なのか。90年代の日本のサブカルチャーを語る上でも資料的価値の高い一冊。

LIVE INFOライブ情報

2017/08/09 Wed
平野悠×吉田豪×久田将義
「タブーなき言論空間「ロフトプラスワン」の歴史、事件を語る」
『TALK is LOFT ロフトプラスワン事件簿』刊行記念
出演 :平野悠(ライブハウスロフトグループ席亭)
ゲスト:吉田豪、久田将義
時間 :20:00~22:00 (19:30開場)
場所 :本屋B&B
世田谷区北沢2-12-4 第2マツヤビル2F
入場料 _ 1500yen + 1 drink order
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