ロフトプラスワンの黎明期に巻き起こったスキャンダラスな事件の数々を、創始者である「ロフト席亭」こと平野 悠が透徹した視点と筆致で自ら語り尽くした一大回想記『TALK is LOFT 新宿ロフトプラスワン事件簿』がロフトブックスから発刊。"タブーなき言論空間"としてトークライブの文化を日本に定着させてきたサブカルチャーの総本山・ロフトプラスワンの波乱万丈な歴史、そこに集った人びとについて話を聞いた。[interview:成宮アイコ / 写真:大参久人&成宮アイコ]
コアな人がイベントをやるとコアな人が集まる
平野:(席につくなり)あのね、本当はロフトブックスから出したくなかったの。みんなから「自分の会社から出すなんて自費出版と同じでしょ」って言われちゃうんだから。わたしゃ、傷つくんだよね。でも大手から断られてしまったの。「今はサブカルの時代じゃない」ってさ。
──出版記念イベントでお客さんから「平野さんのポケットマネーで作ったの?」って聞かれていましたよね。
平野:アハハハ(笑)。でもこの本は面白いと思うんだけどな。ロフトプラスワンっていう場所を作ったら、普段はマスコミに出ない人とか発言を封じられた犯罪歴を持った人とか、オモシロ人間がたくさんいて、そんな人たちを呼んで好きな話を聞けるんだから! まず一番最初にぶっとんだのはやっぱりAVですよ。当時、AV関連のシモネタ・オタク・左翼・右翼・映画がロフトプラスワンの主流で、この柱でのし上がれたんだよ(笑)。
──ああ……巻頭インタビューなのに早速下ネタが。
平野:それまで俺は海外に8年くらい住んでいたけど、外国には日本みたいにストーリー性のあるAVなんてないわけ。
──設定もなくてすぐ始まるやつですよね。
平野:ヤってるだけで情緒がないんだよな。でも日本のAVはちゃんと作品として面白くてクオリティも高い。
──帰国して最初に見たAVってなんでした?
平野:バクシーシ山下監督の『ボディコン労働者階級』。
──スラっと出ましたね(笑)。
平野:そりゃあよく覚えてるもん。その前に『セックス障害者たち』っていう太田出版から出ている本を読んでびっくりして……。
──「おしっこくださいおじさん」が店内に生息していたっていうのは、その頃ですか?
平野:そう、変な瓶を持って、「おしっこ飲ませてください」なんて客席をまわって歩くんだよ。もちろんスケベイベントのときだけだよ。左翼・右翼イベントで「おしっこください」なんて言ってたらね、いくらなんでも俺だって「ちょっと勘弁してくださいよ」って言うよ(苦笑)。コアな人がイベントをやるってことは、コアな客が集まるってことなんだよ。特にAV監督や女優が人前でイベントをやるなんてそれまではなかったんだから。やはり画期的だったんだろうな。
昔のロフトプラスワンを伝えたかった
──でもなぜこのタイミングで本にしようと思ったんですか?
平野:それはね、俺なんてもう年だし、10年以内に死んじゃうから。
──そのフレーズ何年も言ってるそうですけど……。
平野:そういうのが好きなんだよ(笑)。俺はガキの頃から死の世界に恐れおののいて、実際、自分が70歳になったらいつも頭の片隅に死がこびりついてるんだよ。誰もが小さい頃、「死んだらどうなるか」とか考えるじゃない?
──めっちゃ考えました。夜になるとこわくて。
平野:俺はそれが異常で、こわくてこわくて……「永遠」っていう概念が一番こわい。
──自分が死んだあともずっと永遠は続きますもんね。
平野:終わりがない、これが一番こわい。地球が終わってもそれでも時間は続くわけだろ? で、そういう……あれ、なんでこんな話になったんだっけ?(笑)
──なんで本にしようと思ったのかです。
平野:要するに、今ロフトプロジェクトはトークライブハウスを5軒持っているけど、今の若いスタッフのブッキングは当たり障りがなくて混乱もない予定調和なものばっかりでさ、ほとんど店側は絡まない。まあ、絡むのって相当ゲストやテーマについて勉強をしていなければならないから難しいけど。争いごとがあるとみんなビビっちゃうんだよ。だから、昔のロフトプラスワンの激動を伝えたかったわけ。昔なんてチャージも取らなかったんだよ。500円でも取っちゃうと、そのバンドやイベント内容に興味のあるやつしか来なくなる。それは長いことライブハウスをやってて思ったこと。だから最初はトークでお金がとれるなんて思ってなかったの。ふらっと入った居酒屋で全く知らない自分の世界に出会ってしまうような、知ってほしい世界がたくさんあったから。……でも甘かったね(笑)。結局は高額のチャージを取るようになってしまった。これは私の敗北ですよ。そのへんは本に詳しく書いてあるので読んでもらうとして。