音楽で何かを訴えざるを得ない時が来てしまった
──中盤の「へいわのHEY!!」〜「Muddy Water」〜「Bandやろうぜ」の流れも必然性を感じるし、勢いがあってグイグイ引き込まれますよね。
M:あの流れは僕も気持ち良くて好きですね。ちょっとパブ・ロック・タイムに入るって言うか。
──「へいわのHEY!!」では真っ正面から「戦争反対!」と潔く唄い切っているのが印象的で。ラモーンズが「GABBA GABBA HEY!!」ならワタナベマモルは「へいわのHEY!!」だという(笑)。
M:中ジャケにもある「へいわのHEY!!」の看板をライブで使っていて、それでお客さんをあおっているんです。あの看板をステージに持っていく時がちょっと恥ずかしいんですけどね。看板を裏にして隠しておいて、「へいわのHEY!!」をやる時に出すんで(笑)。
──『どっきりカメラ』のプラカードじゃないんですから(笑)。でも、まさか自分が「戦争反対!」と唄う曲を作るとは、若い頃は思わなかったんじゃないですか?
M:そうですね。ただそれも今に始まったことじゃなくて、僕は昔から戦争が一番イヤなことなんです。世の中がそういう危機に瀕した時には声を上げていかなくちゃいけないってずっと思っていたんですよ。まさに今がその危機の時だから、「へいわのHEY!!」みたいな曲を書いたんです。
──治安維持法に似た特定秘密保護法案も通過しそうな時期ですからね(2013年11月21日現在)。
M:あの法案は危険ですよ。だから、今までは別にふざけていたわけじゃなくて、自分の音楽で何かを訴える必然性を感じていなかっただけなんです。僕が何かを訴えざるを得ない時が来なければいいなとずっと思っていたけど、残念ながらその時が来てしまった。
──炎のパブ・ロッカーですら声高に「戦争反対!」と主張しなければならないほど逼迫した世の中になってしまったと。
M:そういうことです。今までは自分の思想みたいなところまで全部さらけ出すのは怖い部分もあったけど、もうそんなことを言っている場合じゃない。損得勘定抜きで言うしかない。これはもう、一人ひとりが真剣に考えなくちゃいけない問題なんですよ。
──でも、「へいわのHEY!!」の曲調自体は誰でもノレる楽しいナンバーですよね。
M:クラッシュの「White Riot」調でね。なんかそうなっちゃったんですよ(笑)。
──「What'd I Say」調な「Bandやろうぜ」も理屈抜きで楽しめる曲だし、マモルさん本来の持ち味がよく出た1曲ですよね。しかも歌のオチが「スクイズバンド」に「セフティーバンド」って、それ“バント”だろ! っていう(笑)。
M:まぁ、自分らしいいつものパターンですね(笑)。別に反戦をコンセプトにしたアルバムを作るつもりもないし、本気でそんなアルバムを作るつもりなら「スクイズバンド」みたいにおちゃらけた言葉は入れませんよ(笑)。反戦を願うのもバンドをやりたい気持ちも僕の中では同じ日常なんです。だから何も考えていないと言えば考えていないのかもしれない。いつもアルバムを作る上で考えていることは、たとえば必ず1曲は3コードでコテコテのパブ・ロックの曲を入れたいとかですね。それが今回は「Bandやろうぜ」なんですよ。ドクター・フィールグッドに対する最高のリスペクトを込めたコテコテのパブ・ロック・サウンドを最低でも1曲は絶対にやりたいんですね。前のアルバム(『YOUNG BLUES』)で言えば「Magic Bus」、その前(『MEXiCO MONK』)で言えば「キャデラック4号」がそれに当たるんですけど。
──「バンドやろうぜ」、「やりたいことはロックンロール」(「B級列車」)というマモルさんの姿勢は、まるでブレがないと言うか、つくづく懲りないんだなぁと言うか(笑)。
M:ここまで来たら他にやれることもないしね(笑)。腹が決まったと言うよりは、いつまでやれるか分からないし、1日、1日をロックンロールで塗り潰していくしかない。それだけですね。できればこのままずっとロックンロールのことだけを考えながら生きていきたいですよ。別に儲からなくたっていいんです。ただ生きていけさえすれば。
歌詞をシンプルにすると発想までシンプルになる
──午後のまどろみや気怠さがよく出た「ねむてぇ〜」はエレキの弾き語り主体だから、ソロのライブでも似合いそうな1曲ですね。
M:まだバンドのライブではやってないんですよね。実はやるのが難しい曲で、まだ練習中なんですよ。まぁ、この曲は「ねむてぇ〜」しか言っていないし、アルバムの中で結局何も言っていない究極の曲ですよね(笑)。でも、そういう何も言っていない歌を作りたかったんです。最後まで聴いても「ねむてぇ〜」だけの(笑)。この曲もすぐに出来ましたね。別に投げやりで作っているわけじゃないんだけど、「これでオッケー!」みたいにトントントンとね。歌詞をシンプルに研ぎ澄ませていくと発想までシンプルになると言うか、眠たいなら「ねむてぇ〜」でいいじゃないかと(笑)。戦争がイヤなら「戦争反対!」だけ言えばいい。なんで反対なのか? と訊かれれば、イヤだし死にたくないからなんだけど、歌はそこまで説明する必要がない。
──それが歌のいいところですよね。詞は詩と違うものだし、メロディと組み合わさることで初めて成立するものですから。
M:メロディと組み合わさって意味を持つかもしれないし、別に持たなくてもいいし、ライブでワーッと盛り上がるだけでもいいんです。だからこそロックンロールはいいんですよ。
──「夢遊病には遠い夜だゼ」の歌詞にある通り、理屈なんて蹴っ飛ばすのがロックンロールですしね。「夢遊病〜」は「ギターが弾きたくなった時/それがきっと答えだろ」という歌詞にもグッときますが、やっぱりギターを弾いている時が今も至福の時ですか。
M:そういうわけでもないけど、曲作りはやっぱりギターを弾いて作りますからね。最近はヒマだと家でよくギターを背負ってますよ。鏡の前でギターを抱えて格好つけてみたりね(笑)。
──ホントにロックンロールが好きな高校生のままなんですね(笑)。
M:ただ持っているだけ。ギターは持ってみてしっくりくるかが大事ですね。練習やコピーなんて全然しないし、たまに弾くのはチャック・ベリーのフレーズくらい。好きなんでね。そんなことを何十年もやってますよ(笑)。
──「夢遊病〜」は少年時代の夏の追憶を描いたロマンティックな曲ですけど、こんないい曲にも「緊張の夏」という“緊張”と“KINCHO”を引っ掛けた言葉遊びが仕掛けてあるんですよね(笑)。
M:さすがの深読みですね(笑)。どうしてもああいう言葉を入れたくなっちゃうんです。日本の夏と言えば“KINCHOの夏”ですから(笑)。やっぱりね、夏の歌を作るのが好きなんですよ。定番ってわけじゃないんだけど、前回で言えば「なつまつり」とか、古いところで言えば「8月4日B級劇場」みたいなね。
──冬生まれの反動ですかね?
M:冬の歌を作っても、「さみぃなぁ〜」くらいで終わっちゃいそうだしね(笑)。ちょっと沈んだ感じの歌になりそうで。それよりも夏の景色を唄ったほうが気分が高揚するんですよ。
──「Long Vacation」は澄み切った真夏の青空を想起させるメロディと乾いたサウンドがマッチしていて、マモルさんの夏の歌の中でも出色の1曲じゃないですかね。
M:うん。だからやっぱり、季節で言えば夏っぽい歌のほうが多いんだろうね。「Long Vacation」は僕の中でも今までになかったタイプの曲なんですよ。ワン・コードっぽいと言うか、ギター・ポップっぽいと言うか。今回のアルバムでは割と面白く作れた曲ですね。アレンジも試行錯誤したけど面白かった。
──アレンジを詰めるのはメンバー間で話し合いながら進めていくんですか。
M:最初は僕がひとりでアレンジまで詰めて持っていきます。曲の最終的な形まで僕がやるんだけど、そこが一番時間が掛かりますね。「Long Vacation」は、最初はもっと長い曲だったんですよ。ずっとコードが同じでね。それを一度ラジカセで録って聴いてみたら「なげぇな」と感じたので、どこが要らないのかを考えて完成させたんです。こういう1番、2番がはっきりしないような曲はまとめるのが難しくて、ちょっとエネルギーが要るんですよ。「キャデラック6号」みたいに1番、2番がはっきりした曲は割とアレンジを詰めやすいんですけどね。「ねむてぇ〜」もそんなに時間が掛からなかったかな。「この辺からドラムが入って…」みたいなのが頭の中でだいたいあったので。
──一番時間が掛からなかったのは?
M:「Bandやろうぜ」ですね。あれは出来た瞬間から形になっていたし(笑)。曲調はレイ・チャールズだし、レコーディングもラクでしたよ。すぐに録り終えちゃいました。