ワタナベマモルは「Melody」という歌の中で、生きていく上で必要なのはアイディアと勇気と少しの金だと唄う。あともうひとつ重要な術がある。言わずもがな、それはロックンロール。ユーモアとロマンに満ち溢れたワタナベマモルのロックンロールならなお良い。忙しすぎて欲張りすぎる今の世の中を渡り歩くには、不条理や欺瞞を討ち抜くマモルの純正ロックンロールが必要なんだ。
生誕50周年を記念して発表される最新作『MUDDY WATER』は研ぎ澄まされたビート&メロディの金太郎飴状態、ロックンロールもキャデラックも反戦も放射能汚染水も小さな革命も午後の気怠さもジリジリ暑い夏もみな等比に日々の情景として描かれている。その行間からにじみ出た強い憤りとエンターテイメント性のブレンド加減が絶妙の会心作だ。決して尽きることのない創作意欲の源を探るべく、天命を知る五十路に突入するマモルに話を聞いた。(interview:椎名宗之)
怒りを表現するにはパンク・ロックが一番都合がいい
──今度のアルバムはマモルさんの生誕50周年を記念した作品ということで。
ワタナベマモル(以下、M):まぁ、こうして毎年1枚アルバムを出し続けていれば勝手に50歳にもなるっていうね。ただ一応の節目ではあるし、新しいアルバムを出す時にそういう吹き出しを付けてもいいかなと思って。でも、50歳になるっていう実感は全然ないですよ。頭の中は未だにロックンロールが好きな高校生のままですから(笑)。
──誕生日当日に音源を発売するのは、30年のキャリアで初ですよね?
M:それは偶然だったんですよ。12月の第1週目くらいに出したいと思ってて、CDが発売される水曜日がたまたま4日で、僕の誕生日だったんですね。それは都合がいいから利用してしまえと思って(笑)。
──『ヒコーキもしくは青春時代』(2008年8月発表)以降、年に1枚良質なオリジナル・アルバムをコンスタントに発表し続けていますが、今回の『MUDDY WATER』は近作の中でも抜きん出たクオリティだと思うんですよ。楽曲の出来やアンサンブルの妙、巧みな構成に至るまでが頭ひとつ突き出していて、まさに50歳の節目を飾るに相応しい作品なんじゃないかなと。
M:そう言ってもらえると頑張った甲斐があったと思うけど、今の段階ではまだ冷静に判断できませんね。ただいつもより1曲多く作ったぞ、っていうだけで(笑)。ホントはあと2、3曲増やしたかったんだけど、さすがにそれはちょっとムリでした。
──でも、そうやって創作意欲が今なお衰えることがないのは単純に凄いですよね。
M:今回は曲も歌詞も出来るのが早かったんですよ。ツアー中に半分以上は作っちゃいましたからね。移動中の空いた時間に歌詞をバーッと書き上げたり、曲は車の中で鼻歌をiPhoneに吹き込んだりして。
──本作で特筆すべきは歌詞の素晴らしさだと思うんです。社会に対する強い憤りもユーモアというオブラートに包んであって、ちゃんとエンターテイメントとして成立している。メッセージ性の強い歌詞も決して押し付けがましくなく、平易な言葉でしっかりと伝わる。シリアスにならざるを得ない事柄と言葉遊びのバランスが絶妙なんですよね。
M:自分が今感じていることをそのまま歌詞にしただけなんですけどね。「こういう感じのことを人に伝えよう」とか考えると、たいてい良くはならないんですよ。それよりも感覚的に勢いで書いたほうが面白い。なるべくシンプルな言葉を使ってね。そのほうがノッてくるし、感情移入しやすいんです。あと、1番と3番の歌詞は同じにしたほうが伝えたいことはより伝わりやすい。ここ1、2年でやっとそのことに気がつきましたね。今までは頑張って3番の歌詞をちょっと変えたりしてたんだけど、結局言いたいことは1番と同じだし、ライブになると歌詞が飛んで1番と同じことを唄ってる有様だったんですよ(笑)。
──タイトル・トラックの「MUDDY WATER」は、文字面だけ見ればブルースマンのマディ・ウォーターズのことかなと思いきや、歌詞を読み込めば高濃度の放射能汚染水とのダブル・ミーニングなのが分かりますね。
M:まぁ、どう捉えてもらってもいいですよ。汚染水のことかもしれないし、ずーっと吹き溜まってる水かもしれないし、ボットン便所のおしっこかもしれないし(笑)。
──近年はやはり、沸々と湧く内なる怒りが創作の原動力になっているのでしょうか。
M:怒りっていうのはもともと僕の中で常にある感情なんだけど、今はその怒り方がハンパじゃなくなってしまったんです。現実的には今の自民党政権に対して一番怒っているんだけど、それだけじゃないんですよ。遅々として進まない震災の復興や原発の汚染水処理の問題もあるし、そんな日常の中で暮らす自分自身に対する憤りもあるんです。とにかく今は混沌とした世の中じゃないですか。たとえば原発をなくそうっていう人たちの中にも内部被爆とか除染が一番の問題だと言う人もいるし、出口の見えない所で足踏みしているって言うかね。もちろん僕にだって本質的な出口なんてないんだけど、ロックンロールをやることで自分のネガティブな気持ちを解決したいんです。それは歌の中だけかもしれないけど、スコーン!と突き抜けることができるんですよね。それに加えて、一昨年くらいから自分の中でまたパンク・ロック・ブームが来ていて。
──もう相当な回数のブームですよね(笑)。
M:怒りを表現するにはサウンド的にパンク・ロックが一番都合がいいんです。自分の持っている引き出しの中で、感情にパンク・ロックをのっけると一番気持ちがいい。それがパンク・ロックの持つエネルギーなんだと思うし、何か頭にきてるとパンク・ロックをやりたくなるんですよ。
生きていく以上は確実に楽しまなくちゃいけない
──そのせいなんですかね、今回のアルバムが全体的にカラッとしていて抜けが良く聴こえるのは。
M:そうかもしれない。特に最初の何曲かは自分の中でパンク・ロックのイメージですからね。今までは引き出しをチョロッと開けてたのが、今回はガバッと開けちゃったもんだから(笑)。クラッシュやジャム、スティッフ・リトル・フィンガーズみたいな感じで、「もうこれで行っちゃおう!」っていうのがあったんで。
──確かに、冒頭の「Miracle Man」〜「B級列車」〜「キャデラック6号」と畳み掛けるような流れが抜群に気持ちいいですよね。遂に“6号”まで来た「キャデラック」はいつもならアルバムの中で遊びの部分を担っていたと思うんですが、今回は爽快感があって純粋にいい曲で、いい意味で裏切られた感じがありました。
M:ちょっとマジメな曲になっちゃいましたね(笑)。スタッフにも言われたんですよ、「今までで一番いい『キャデラック』ですね」って。もうね、鼻歌で出てきた時に「キャデラック」だったんですよ。そうなったらもうそういうことなんです。
──その「キャデラック6号」にすら「楽しいことはひとつもないよ/楽しむことは山ほどあるぞ」という示唆に富んだ一行があって、ここでもやはり歌詞の良さを実感するんですよね。
M:それもごく自然なことなんですけどね。怒ってただウジウジしていてもしょうがないし、出口が見つからないまま途方に暮れていてもしょうがない。そもそも出口なんてないんだから。
──出口はなくても探し出そうとするのがロックンロールであると?
M:探し出すと言うか、ただ「やるぞ!」ってことです。言いたいことは言うし、やりたいことはやる。それが僕にとってのロックンロールなんですよ。
──まさに「B級列車」の歌詞の通りですね。
M:だって、原発でも憲法の問題でも僕ひとりの力だけじゃどうにもできないんだから。昔に比べて反戦や反原発といったことを格好つけじゃなくてちゃんと言えるようになったんですよ。歌詞にしろツイッターにしろ、そういうことを言うのは割と勇気が要ることで、これで友達がいなくなったらどうしよう? とか考えたりもするんです(笑)。それでも言うべき時は言わなきゃいけないし、中途半端にモノを言ってもしょうがない。ロックンロールである以上は「戦争反対!」ってバシッと言わなくちゃ。ただ、それに賛同してくれるシンパを集めて何かをやるっていうのも違うんですよ。各々が考えてくれればいいことだし、人は人、僕は僕なんです。
──そこで群れて徒党を組むわけじゃないと。
M:それじゃ結局、政治とおんなじですからね。「世の中を変えるにはどうすればいいのか?」っていうのを毎日大真面目に考えているんですけど、一人ひとりが時流に惑わされずに、しっかりと社会的な問題を見据えた上で一票を投じるしかないんです。デモや抗議をするとかね。誰かが革命を起こすことを望んでいる人たちもいるんだろうけど、それじゃ何も変わらない。今の世の中、焦ったり混沌としているのも分かりますよ。でも、それで焦ってもしょうがない。僕も腹は立っているけど、別に混沌とはしていないですからね。それでどうにかなるっていう保証もないけど、生きていく以上は確実に楽しまなくちゃいけないし。
──今マモルさんが話したことは「Pretty Soul Revolution」の歌詞に凝縮していますよね。「変えたい所は世の中じゃないぞ/自分のあたまを変えればいーんだ/自分のココロを信じりゃいーんだ」という。
M:うん。自分のほうから変えていったほうが話が早いんじゃないかっていうね。ライブでビートルズの「Revolution」の替え歌をやっていたんですよ。だいたいこの「Pretty Soul Revolution」の歌詞みたいな感じでね。で、その歌詞がけっこう良かったから、それを使って曲を作っちゃえと思って。ビートルズの“革命”は大きいけど、僕のはちっちゃいから“Pretty”にしたんです(笑)。
──「夕日がオレを呼んでるゼ」みたいなグッとくるミディアム・テンポのバラッドにも「人類このまま ブンブンブン/性懲りもないぜ ブンブンブン」という一行があって、憤りがにじみ出ているのを感じましたが。
M:どうなんでしょうね。そんなに深く考えてないけど。あの曲はまぁ、“ブンブンブン”と言いたかっただけですよ(笑)。