「流行りも廃りも関係ない。新しくもなければ古くもない。ずっと現在進行形で存在し続ける」。ロックンロールのすごいところは? と訊かれたワタナベマモルの回答である。この言葉は彼の体現する音楽性そのものと言えるだろう。ビートルズ、ストーンズ、キンクス、フィールグッド、ホットロッズ、クラッシュ、ラモーンズ...十代の頃から憧れ続けるバンドの音とスタイルを咀嚼して奏でられるマモル&ザ・デイヴィスのロックンロールは旨み成分が凝縮、これまで生きてきた歳月を養分にしたコクと深み、熟成されたしぶとさがある。シンプルだけど奥深い。単純だけど複雑。カウンターだけどポップ。その割り切れなさはロックンロールのステキな矛盾。すべてを包み込むような鷹揚とした佇まいの最新作『3Girls』をめぐり、ワタナベマモルの創造の源にあるものに迫った。(interview:椎名宗之)
アルバムを作ってツアーをやり続けるのが変わらぬ目標
──「MAGIC TONE RECORDS」を立ち上げてから今年で丸10年になるんですね。
ワタナベマモル:そうなんだってね。ディストリビューションをお願いしてるROLLER☆KINGの川戸(良徳)くんに言われて気づいて、もうそんなに経つのかと思って。自分としてはただ必死にやってきただけかな。CDを作ってツアーを回って、同じことをずっと繰り返しやってきたら10年経ってた感じですね。
──この10年の間にCDを10枚、DVDを2枚リリースしてきたわけですから、相当なハイペースですよね。
マモル:「MAGIC TONE RECORDS」をやる前に「SIMPLE RECORDS」というレーベルを数年間やってたんだけど、当時はCDを一般流通できてなかったんですよ。ロフトレコードでCDを2枚(『想像しよう』、『R&R HERO』)出してもらって以降はね。僕はいつもいろんなところで言ってるんだけど、アルバムを作ってツアーをやって、それで人生を終えたいんです。できる限り曲を作ってね。それがずっとやりたかったことだし、ずっと変わらない目標なんですよ。
──当たり前のことを当たり前のようにやることが大事であると。
マモル:目標がなくなると、自分が音楽をやってる意義がなくなってしまうって言うかね。アルバムを作らないでツアーに行くよりも、アルバムを作ってツアーに行くほうが全然楽しいんですよ。ライブで新曲をやるのも常に楽しいしね。3年も4年もリリースがなかったら自分はどうなってしまうんだろう? って思うし、ライブにも気持ちが入りにくい。それは、コンスタントにCDを作ってツアーを回ることができなかった時代が悔しかったのもありますね。
──いまのリリース・ペースは息を吸ったら吐くように、ごく自然な感じなのがマモルさんらしいなと思って。
マモル:1年なり1年半なりの間に自分のなかで吹き溜まったものを吐き出すと言うか、その間に感じたもの、その時に一番言いたいことを新しいアルバムに注ぎ込む感じです。言ってること自体は30年以上変わらないんですけどね。
──グレイトリッチーズ時代も含めて、マモルさんの音楽人生のなかでこの10年が一番充実しているように見えますね。
マモル:うん。生活もあるのでやらないかんっていうのもあるし、もうちょっと売れればいいなとは思うんですけどね。演奏の技術とかはもう大して向上しないんだろうけど、アルバムを作ってライブをやる自分の音楽力みたいなものはこの10年でだいぶ向上した気がします。職人の感がかなり研ぎ澄まされてきたって言うか。
──蕎麦職人が蕎麦粉と小麦粉の配合を目分量で当てるような。
マモル:そうそう。僕が楽器のリペアをお願いしてる70いくつのおじいさんは、ニッパーで線材をシュッシュッと切るとすぐに導火線が出てくるんですよ。そういう目分量にも似た自分の勘がだいぶ鋭くなってきました。それだけ音楽漬けになっているのかもしれない。そろそろ新作を作らなきゃ…というモードに入ったら、曲のアイディアは自然と浮かんできますからね。家でジャカジャカ曲作りをやってると、ふと曲が出てくるんです。今回、最初にパッと曲が出てきたのは「サイゴのダンス」で、歌詞もその日のうちにデッサンみたいにバーッと書き上げることができたんです。そういうのがあるとレコーディングに向けて調子が出てくるし、勢いのまま作っちゃうのが面白い曲もあるんです。
旅の出会いや新たな発見が歌詞に反映される
──今回の『3Girls』というアルバム・タイトルは、「君とブルース」に出てくるシュープリームスみたいな女性グループのことを指しているんですか。
マモル:そうじゃないんです。以前、チャック・ベリーのコンサートを見に行った時に、チャック・ベリーが「3人の娘さん、踊りましょうよ」って客席に向けて言ったんですよ。ステージの上に上がっておいでと。
──ああ、「3Girls」の歌詞にある通りなんですね。歌詞ではチャック・ベリーと特定していませんけど。
マモル:うん。でも「3人の娘さん」って言ったのに、男も含めて50人くらいのお客さんが上がってきちゃって、それをチャック・ベリーは気に食わなかったんでしょうね。男の人を一人、チャック・ベリーがステージからドカーンと突き落としたんですよ。僕はそれを見てゲラゲラ笑ったんですけど(笑)。『3Girls』っていうタイトルはただそれだけの話です。
──「キャデラック7号」には「俺のノーミソ チャック・ベリーだ」という歌詞があるし、「ギター買ったぞ」のイントロはもろにチャック・ベリーだし、今回のアルバムはチャック・ベリー血中濃度が高めですね。
マモル:今回の裏キャラと言うか、隠れキャラはチャック・ベリーなんです。ちょっとした遊びなんですけどね。
──「3Girls」という曲にはそういう遊び心が盛り込まれている一方、「自分の見たもの 信じるだけさ」とマモルさんの信条がさりげなく歌詞に入っていますよね。「何処までも続く一本の道/迷いたくても道がないんだ」「うまくいくかはどーでもよくて/目の前にあることやるだけさ」と唄われる「ストロング」でも同様に、マモルさんの信条や生き方が程良いバランスで散りばめられていますね。
マモル:自然にね。1年中いろんな所へ旅をしてると、「ストロング」の歌詞にも出てくる「無名の天才達」に会うんですよ。プロでやってる僕でも太刀打ちできないような天才にね。音楽に対してすごくピュアな人もいるし、職人さんみたいな人もいる。田舎に住んでてもやけに楽しそうにしてる人もいる。そういう出会いや旅のなかで発見したことが無意識のうちに歌詞に出てくるんでしょうね。それと、この「ストロング」ってタイトルがふわっとした曲調と全然合ってなくて、くだらなくていいなと思って(笑)。
──パンキッシュかつメロディアスな「ハイエナの声」は本作で唯一の怒気を帯びた曲で、「知ったかぶる評論家」「ぼったくる芸術家」「金がすべてのババァ」「人を殺す権力者」に対して激しい憤りを放っていますね。
マモル:ふざけながらも怒ってますね。1年半くらいのインターバルのなかで悶々としながら歌を作ると、そういう社会的なものは避けて通れないじゃないですか。でもそれをそのまま辛辣な感じで歌にしても僕は楽しくないし、自分なりの表現ができればいいなといつも思ってるんですよ。
──清涼感溢れる「真夜中をぶっとばせ」は、ストーンズの「夜をぶっとばせ」(Let's Spend the Night Together)に対するオマージュのような曲ですね。
マモル:「夜をぶっとばせ」の「パラララパッパッパラーラ」をシャララ…にして最後に唄ってるっていうね。エンディングでそんなコーラスを入れなければ「夜をぶっとばせ」に似たタイトルにもならなかったはずなのに、僕の性格的にそういうのをあえて付け足してしまうんですよ。別にやらなくてもいいようなことを、ついやりたくなっちゃうんですね。それも確か、ライブでやってるうちにそうなっちゃったのかな。新曲発表ツアーっていうのをやっていて、ライブだと知らない曲を面白く伝えたくなるんです。「次は『真夜中をぶっとばせ』という、ローリング・ストーンズとよく似た曲をやります」なんて言って、ウケるためにシャララ…とコーラスを入れたのかもしれない。
──そうやってライブで育んで形を成した曲もあれば、ラジオから流れてくるロックンロールに思いを馳せた「Beat Pop Station」はレコーディングありきで作られたような曲ですね。
マモル:そうそう。ライブではまだなかなかうまくできないんですよ。ああいうピアノをフィーチャーした曲をもっとやりたいんですけどね。
歌の解釈はどう取ってくれても構わない
──今回の「キャデラック」(「キャデラック7号」)はハープが唸りまくる直球のブルースですね。
マモル:レコーディングのかなり早い段階で録りましたね。オーディオ編集のソフトを買い替えて、その練習がてら録ってみた記憶があります。
──「サウナ サウナ 夏休み」と連呼される「サウナ」は一聴して何じゃこりゃ!? と思いましたが、すごくパンチがあって耳に残りますね。
マモル:僕も何じゃこりゃ!? と思いましたよ(笑)。鼻歌を入れたICレコーダーを聴き直したら「サ〜ウナ〜、サ〜ウナ〜」って唄ってるのが出てきて。「サウナ」に当たる部分はたぶんどんな言葉でも良かったんだろうけど、これは面白いなと思ったんです。最近、これは面白いなと思った仮歌はそのまま使っちゃうことにしてるんですよ。「いいや、このまま行っちゃえ!」みたいな。この「サウナ」も仮歌を聴いて一気に歌詞を作っちゃいました。
──「キャデラック7号」の「都合いいぜ 都合いい 八百屋の裏で都合いい」というナゾの歌詞も同じような感じで出来たんですか。
マモル:ノリは同じですね。自分でもよく分からないけど出てきた言葉、後で自分が聴いてもウケた言葉というのは、あまり深く考えずにそのまま使ったほうが面白い気がするんですよ。「『サウナ』をテーマに曲を書けるのか?」という、作曲する自分自身への挑戦みたいなところもあるしね。
──「サウナ」はふざけてばかりいるわけではなく、「僕が見た夢 何も変わっちゃいなかった/あの温もりを 信じよう」という歌詞にはロックンロールに対する変わらぬ憧憬の念が込められていますね。
マモル:頑張ってそこまで持ってったんですよ(笑)。あと、「サウナ」は出来た音を聴いてみたら何だかビーチ・ボーイズみたいで笑っちゃいましたね。そうやって自分では意図してないものが出来るのも面白いです。僕の場合、人に何かを100%伝えたいって気持ちはなくて、それがどう伝わるかはあまり興味がないんですよ。別にどんなふうに取ってくれても構わない。マジメに考えてくれてもいいし、言葉の裏にあるものを感じてくれてもいいし、何のことだか全然分からないってことでもいい。これでも一応マジメに曲作りをしてるつもりだけど、それを限定的な形で押しつけたくないんですよ。僕が影響を受けてきた音楽も、そんなふうに押しつけがましくなかったしね。ビートルズもストーンズもキンクスも全部、好きになったのは自分の判断でしたから。
──マモルさんのロックンロールに対する深い愛情が変わらないのは「ギター買ったぞ」でも窺えますね。真夜中にヤフオクでシルバートーンのギターを買った喜びが素直に綴られていて。
マモル:まだ曲が完成する前、ライブでアコギで唄うとギター好きの男の人にすごくウケたんですよ。ゲラゲラ笑ってましたもん。僕の『ヒットパレード』というアルバムのジャケットに写ってるシルバートーンのギターを買った時のことをそのまま歌詞にしただけなんですけどね。
──ラモーンズを彷彿とさせる「夜が明けるまで(パンパンパンク)」も一度聴いたら忘れないメロディと歌詞で、誰でも口ずさめる童謡みたいですよね。
マモル:そうかもね。もしかしたら自分に子どもが生まれたのも関係してるのかもしれない。子どもにウケてやろうって気持ちが無意識のうちにはたらいたのかもしれないです。