自分の人生に勝ち負けは関係ない
──「Long Vacation」も従来にはない珍しいタイプの曲ですけど、最後のアコギを基調としたパーカッシブな「Melody」も目新しさを感じましたね。
M:コンガとかも入ってますからね。特に意識したわけでもないんだけど、最後の2曲は今までにない感じになりましたね。いろいろと考えたけど、結局はあの曲順が一番しっくりきたんです。「Melody」で締めくくると、また1曲目に戻れるみたいでちょうどいいなと思って。どの曲も短いから繰り返し聴ける作りにしたかったんですよね。
──「エジソンは発明を/ガリレオは信念を/ボクには白い旗を」という歌詞がありますが、白い旗=降参を意味するわけじゃないですよね?
M:ジョン・レノンとオノ・ヨーコのヌートピアの国旗が白いハンカチだったんで(笑)。勝ち負けはどっちでもいいんですよ。プロ野球の勝ち負けは興味はあるけど(笑)、自分の人生に勝ち負けは関係ない。こんな時代だからこそ、みんなが楽しく生きれればいい。物質的な豊かさよりも心の豊かさを第一に考えるようになって欲しいですよね。そのためにも僕らの世代がしっかりしなくちゃね。これから生きていく人たちのためにも。だからまずは選挙に行って欲しいんですよ。すぐそんな話になっちゃうんだけど。
──でも、自分の意志で一票を投じない限りは国政に文句も言えませんからね。
M:そうなんです。何が一番楽しくて、何が一番幸せなのかをみんなもっと深く考えたほうがいいですよ。働いている人が世の中に対して不満があったら、もっと声を出して言えばいい。僕が中学生くらいの頃は大人たちが労働組合を作ったりして不平不満や主義主張をしっかりと発言していたし、それなりに力もあったはずなんです。それに比べて今は金持ちと雇われる側のバランスが凄く悪い。力があるのは政治家とマスコミばかりで、僕らを押さえつけるような法律しか作らない。でも、それを放ったらかしにしていたのは僕らなんでね。今になってグジグジと文句を言ってみても、そんな連中に投票してきたのは自分たちだから。だからと言ってそこで諦めたら終わりだし、世の中を変える働きかけは今からでも遅くはないと思うんです。
──「Miracle Man」の歌詞じゃないですけど、今の世の中が忙しすぎたり、背伸びをしていたり、欲張りすぎるから、みんな何が一番幸せなのかを考えないんですかね?
M:僕はそういうことだと思う。物質主義と言うか、新自由主義が突き進んだ結果ですよね。確かにモノも大事だし、便利になることもいいけど、やっぱりハートが一番ですよ。ロックンロールを聴いて、家族や友達とゲラゲラ笑う時間がないとね。それで「しょうがねぇなぁ、めんどくせぇけど明日も仕事行くぞ!」みたいなさ(笑)。そういうことでいいんですよね。
──そうやって生きていく上で糧になるようなロックンロールをやり続けていきたいと。
M:うん。自分もロックンロールからそういう心地好さを与えてもらいましたからね。何の取り柄も力もないけど、パンク・ロックを聴いて何だか分からないけどウォーッ!と気持ちが昂って、自分が強くなった気になったりして。自分にも何かできるんじゃないか? ってね。これからもずっと唄い続けていくぞ! みたいな気負いや決意みたいなものは僕にはないけど、まぁ頑張りますよ。今回のアルバムもいつもより1曲増やして頑張ったしね(笑)。次も何とか12曲で行きたいです。
──端から見ると、ここ数年のマモルさんの創作意欲がますます旺盛になっているのを感じるんですが、1曲増やすのはかなりのトライアルなんですか?
M:1年というサイクルの中で、ツアーをやりながらアルバムを作るとなるとなかなかね。たった1曲なんだけど、意外と作れないものなんです。まぁ、それでも『ヒコーキもしくは青春時代』以降は年に1枚必ずアルバムを作りながらツアーをやる生活が5、6年続いているから、今のペースは割と性に合っているのかな。目標としては、いつかギネスブックに載りたいですよね。「何十年もアルバムを出し続けた人間(売れないのにバカなヤツ)」とかね(笑)。
──ポール・マッカートニーは71歳になってもまだまだ元気ですけど、マモルさんも60代、70代になっても音楽をやり続ける自信がありますか。
M:どうかなぁ…。ポールの新作(『NEW』)を聴くと、一体何者なんだ!? と思いますよね。完全なノスタルジックじゃなく、今のサウンドもちゃんと取り入れていて、スタンスはあくまでポジティブ。あの歳になってもあれだけクオリティの高い曲を作れるわけですから、もしかして人間じゃないのかもしれないって本気で思いますよ(笑)。僕が中学生の時に聴いたウイングスの曲と同じくらいの感動を与えてくれるんだから、ホントに凄い。同じミュージシャンとして自分も頑張ろうって気になりましたよ。僕はピアノが弾けないからポールみたいな幅広い楽曲は作れないけど、もうちょっと狭い範囲で曲作りを頑張りたいですね。
──でも、マモルさんも50歳を目前としてこれだけ完成度の高いアルバムを作り上げたわけですから、充分凄いと思いますけど。
M:ポールの前じゃ、僕なんてまだまだ若造ですよ。ペェペェもいいところです(笑)。自分が22、3歳の頃は、ロックは40歳くらいでやめるもんだと世界中が思っていたのに、ポールやローリング・ストーンズは未だ元気にツアーをやっているじゃないですか。自分だってもうすぐ50歳になるくらいだし。てっきり若者のためだけの音楽だと思っていたのに、今や元気なおじいさんたちが頑張ってこれだけ長い歴史が続いている。やっぱり得体の知れない音楽ですよ、ロックンロールは。まぁ、僕もまだまだやれますよ。なんせペェペェなんでね(笑)。50歳目前になってパンク・ロックの引き出しを開けたくらいだから、還暦になってハードコアの引き出しを開けたらどうしようかなって思いますけどね(笑)。