バンドやってる側もMだけどね(笑)
——ブッチャーズのアルバムは一作ごとに表情が違うので安易に比較はできませんが、今度の『birdy』を聴くと、ひさ子さんのギターが加わったことによってブッチャーズ・サウンドが再構築されたことをやはり強く感じますね。音がよりタイトに引き締まって、これまでの諸作品に比べてグッと聴きやすくなった。
吉村:それは聴きづらくする必要も考えもないし、聴きやすい方向にはしたいわけで。そこんところはごく当たり前になってくし、そう考えてるんじゃないかな。単純なものっていうんじゃなくて、音色は変わらずのところで。このバンドである以上はね、うん。
——前作のリリース時に、吉村さんが「ブッチャーズを軽くしてあげたかった」という発言をされてましたよね。それがこのアルバムでかなり成し遂げられた気がするんですよ。
吉村:そういう風に聴こえてもらったら嬉しいなっていうか。そこに行き着くまでそれなりの流れがバンドにはあったしね。まぁでも、前のアルバムのタイトル曲が今度のには入ってるし、前のでだいぶ見えてきたところもあるし、その流れは利用してますよ。
——今にしてみればの話ですけど、『荒野~』にひさ子さんが全面参加していないのがちょっと不思議な気さえしますね。“あれ、そうか、「方位」は3人なんだよな”なんて思ったり(笑)。『green on red』の音源に慣れ親しんでいるせいもあって。
吉村:ああ(笑)。でも『荒野~』の時にはもういるからね。バンドにはちゃんと一本の流れがあるんですよ、やっぱり。だからこう、大胆な変わり様はないんだろうけど、それなりに流れに乗ってるっちゅうか…年もとるしさ(笑)。
——そう、冒頭を飾る「JACK NICOLSON」なんですけど、最初聴いた時に僕、結構ショックだったんですよね。
小松:曲名が?
——いや、だって一番最初に飛び込んでくるフレーズが「僕はどんどんと年をとっていく訳で/作るものはどんどんと色褪せる」ですよ? “エエッ!?”と思って…。「大人になんか判ってたまるものか」と唄ってた人が(笑)。
吉村:いきなりマイナスじゃん!っていう(笑)。
小松:でもそういうのは余り関係ないんじゃないの?
田渕:とにかくド頭が凄い、と(笑)。
吉村:マイナスの部分を使うっていう作風は変わってないっていうかね。
——例えばライヴで「言葉に鳴らない」から意表を突いて「△(サンカク)」に繋げるとか、ブッチャーズのファンは不意の裏切りに悦びを感じるM体質の人が多いですから(笑)。
全員:(爆笑)
小松:まぁ、やってる側もMだけどね(笑)。
JACK NICOLSONとガキおやじのイメージ
——同じく「JACK NICOLSON」で唄われる「このバンドで存在していたい」という正面切ったフレーズも、捉えようによっては重いですよね。改めてこの4人でやっていくんだという決意表明というか。
吉村:決意表明っちゅうか、この形をまず出すってところで…しょうがないでしょ、自分も年をとっていくんだから(笑)。…やっぱね、正直“アッ”と(年齢を)感じることはある、それなりに。それでもそこに立っていたいと思うでしょ?って問題であって。それを表現するための後付けだったんだよ、「JACK NICOLSON」ってタイトルは。アルバムのタイトルを『birdy』って付けた発想もそうなんだけど、自分が観てきた映画にまつわることなんだよね。だから最初のコンセプトとしては全曲映画名で通したかったんだけど、どんどんそれがズレてって、やっぱできねェやってことになって。映画を観すぎると、何だかよく訳が判らなくなってくるわけよ。何度も観返すと新鮮味もなくなってくるしさ。それでやっぱムリしないで行こうってところで、今度は俳優名になっちゃったっていう。
——シェリル・クロウの曲にも「STEVE McQUEEN」というのがありましたよね。
吉村:そうそう。じゃあ俺なら誰にしようかっちゅうところで、“悪い大人”のイメージで…JACK NICOLSONかなぁと。あと同じように頭のなかにあったのは、『ろぼっ子ビートン』に出てくるガキおやじっちゅうイメージもあったね。まぁ、ここでガキおやじって言ったところで何人判るか?ってなかなか難しいと思うけど(笑)。
——それと、「結局のところROCKでしかなく」という「bandwagon」の歌詞にもグッときましたね。
吉村:本音、本音。本音でしょ。自分は今ロックをやる側だけど、もっと若い頃、ロックをやろうと思った時には憧れてるわけで、それに従って自分にできることをやってると。うん。そこは自分がやる側になっても変わんないかなっていうか、そういう気持ちは持ち続けたいなという。
——そう見てくると、今作は吉村さんの描く歌詞がいつになくストレートで、よりダイレクトに響いてくるのが特徴のひとつかと。
吉村:うん。今回は制作に時間をかけることができないぶん余り考えてないとか、そういうことも言うけど、敢えて間違いを起こそうっていうか、間違いを意識的に直さないっていうのはあった。文法的な間違いとか、日本語としておかしいものとかね。「おかしくねェか?この表現」っていうのを感覚でたくさん残すという。それでも伝わるものは伝わるだろうし、広がるものは勝手に広げてくれよっていうかさ。…まぁ、実際にはそんなこと考えては作ってないけどね。素直に考えてそうなってるから。やっぱり、今の当たり前の俺達の流れをそのまま表現するべきだと思ったしね。
小松:『荒野~』と今回の『birdy』を聴き比べてみた時に、歌の聴こえ方が全然変わったように感じたんだよね。声の感じ方というか。1人入ったから作り方を変えようとかじゃなくて、1人加わったからそれに対して自然と反応していったってことなんだよ。少なくとも俺自身はね。
——考えてみれば、ひさ子さんがブッチャーズに全面参加したSHELTERのレコ発からもう1年経つし、その少し前にCAVE BEで観た3人最後のライヴの記憶がだいぶ薄れてるんですよね(笑)。
吉村:それでいいんじゃない?(笑) それでいいと思ってやってるから、今現在は。
射守矢:自分自身でもよく思い出せないもん(笑)。いいんだよそれで。
吉村:バンドにはそれなりの音の仕来りもあるわけで、口で説明するよりはバンドやってんだから音出したほうが早いっていう。本音だけどそれしかできないし。