2019年11月、8年振りとなるジャパン・ツアーを実現させたスーパーチャンク。18日の公演はソールドアウトし、19日のショウも売り切れていないのが不思議なほどの盛況ぶりで、会場へ詰め掛けたオーディエンスは、次々に繰り出される名曲の数々に、時には飛び跳ね、時には感涙にむせぶ熱いリアクションで応えていた。さらに大阪公演や、追加公演として行なわれたアコースティック・セットも大いに盛り上がりを見せたようだ。
18日のライブ前、バンドのリーダーであり、マージ・レコーズ(スーパーチャンク自身だけでなく、アーケイド・ファイアやボブ・モールドなども在籍する、最重要USインディー・レーベルのひとつ)の経営者でもあるマック・マッコーンにインタビューすることができた。ここでは、日本という国に対する印象や、レーベル・オーナーとしてだけでなく一人の音楽愛好家として、彼の耳を捉えた日本の音楽について語ってもらっている。なかなか他では読めない、貴重な内容になっていると思う。
なお、彼らが1994年にリリースした名盤『フーリッシュ』をアコースティックでリメイクした最新作『AF(アコースティック・フーリッシュ)』についての話は、『CDジャーナル』2019年冬号に掲載されているので、併せて読んでいただければ幸いです。(interview:鈴木喜之)
写真:Masao Nakagami/撮影協力:Bad News
日本へ来るたびに感動している
──インタビューの前にひとつお願いがありまして……。
マック:なんだい?
──実は1年ほど前、ボブ・モールド宛にメール・インタビューの質問を送ったんですけど、いまもって返事が来ないんです……まだ待ってるので、あなたから一言リマインドしてもらえればと……。
マック:ハハハハハ、OK(笑)。ボブにメール・インタビューに返信するよう伝えておく、だね(笑)。メモしておくよ。
──ありがとうございます! さて、今回の来日公演についてなんですが、招聘に関わっている関係者からも、サポート・アクトを務めるバンドからも、スーパーチャンクに対する愛情というか熱がすごく伝わってきます。ご自身としては、どう感じていますか?
マック:うん、今こうして僕たちが座ってるこの取材場所からして、僕たちの曲名を冠したレコード屋さん(LIKE A FOOL RECORDS)だし、昨日の公演で対バンしてくれたHello Hawkにしてもそうだし……さすがにちょっと恐縮してしまうというか(笑)……いやぁ、本当に感激してる、嬉しいよ。日本では、1992年に初めてライブをやってるけど、昨日の夜、下北沢を普通に歩いてたら、自分たちが1992年に出たライブハウスの前をたまたま通りかかったんだ! 「あ、ここ前にライブをやったとこだ」ってね(※註:当時のギルティは恵比寿にあったので、正確には別の場所かも?)。ただ、そのあと2001年まで日本ではライブをやってなかった。以前に行った土地で、もう1回ライブをできるかどうかってけっこうわからないものなんだ。長いこと機会に恵まれなかったりもするからさ。そうして今回が5度目の来日になるんだけど、毎回すごく温かく迎え入れてもらっていると感じてるよ。ファンの人たちもステージも最高で、日本へ来るたびに本当に感動してるんだ。極めつけは僕らの曲を店名にしたレコード屋だろう!(笑) いやもう、頭がどうにかなりそうなくらいに光栄だね(笑)。
──他にも人気のある海外バンドはたくさんいますが、こういう深い愛され方をしてるケースは、なかなかないと思います。
マック:いや、僕も本当にどうしてなのかわからないし、実際に、とても貴重なことだと思うけど……たぶん、最初に日本へ来た時のファンが今でもついてきてくれてるのかもしれない……とは言いつつ、今回のライブを観に来てくれる子たちの中には、初来日時にはまだ子どもだったりした人もいるよね? いったい僕たちのことをどうやって知ったのかな(笑)。本当に不思議だけど、とにかくありがたいし光栄なことだよ。
Spotifyのプレイリストにある日本人アーティスト
──さて、最近Spotifyのスーパーチャンクによるプレイリストに、日本のアーティストが入っていて、興味深く聴きました。それに関連して質問したいんですが、まず昨日のショウでも共演した田渕ひさ子さんも在籍する、ブラッドサースティ・ブッチャーズの曲をピックアップしていますよね。
マック:大好きなバンドで、昔ベイサイドジェニーだったかな……たしかそうだったと思う、そこで共演した時にCDをもらってね。アメリカでは、日本盤のCDなんてなかなか手に入らないから、当時はブッチャーズについて、それしか情報源がなかったんだけど、とにかくすごく気に入ったんだ。
──どんなところが気に入ったのですか?
マック:バンド自体のセンスが面白いよね。名前だけ聞いたらハードコア・バンドを想像するし、実際ものすごくノイジーな音を鳴らしてるけど、ポップさも兼ね備えていて、その絶妙なバランスがいいなって思う。
──それから、おとぼけビ〜バ〜も選ばれてましたが、彼女たちのことは今年のSXSWで観て「インクレディブル・ショウ!」っていう感想をインスタグラムにアップしてましたよね。
マック:前から噂では知っていて、ネットで何曲か聴いてから、SXSWのライブをチェックしに行ったんだ。そうして実際のステージを観て圧倒されたよ。すごくいいバンドだと思う。サウンド的には違うかもしれないけど、ボアダムズに近いエネルギーを感じるんだよね。カオスなんだけど、単なるカオスではなく、統制のとれたカオスというか。曲が脇道に逸れて、突然止まったかと思ったら、バラバラになったピースがまたひとつになって……それが一見、何の脈絡もなく行なわれているかのようなんだけど、実はちゃんと計算し尽くされてる。状況をすべて理解した上であえてカオスを作り出しているっていうか。それをやってのけるのって、かなりすごい技術だと思うんだ。
──たしかに。で、他にプレイリストを見てて興味深かったのは、横田進、吉村弘、竹村延和といった、エレクトロニック・ミュージック系のアーティストも並んでいたことなんです。
マック:うん、大好きなんだ。ただ、アメリカではどれも入手が困難でね。たまに突発的に再発盤が出たりするけど……〈Light in the Attic〉ってシアトルのレーベルがあって、そこが環境音楽というか、いわゆるエレクトロニック・ミュージックとかアンビエント系の日本の音楽のコンピレーションや再発盤をボックスセットで出してるんだ。そこからまた自分のお気に入りアーティストを見つけて、単体の作品を探していったりするよ。ただ、そもそも日本のこの種の音楽って、アメリカでは手に入りづらい上に、廃盤になってるものも多いから、ストリーミングとかで検索しても引っかかってこなかったりしてね。それでも、尾島由郎のコラボレーション・ユニット=Visible Cloaksも聴いたし……あれは本当に美しいよね。あと横田進の『Acid Mt. Fuji(赤富士)』っていうアルバムも持ってる。1994年に出た作品なんだけど、当時はその存在を知らなくて、長いこと廃盤になってたのを誰かが再発してくれたんだ。最初は普通にBGMとして聴いてたら、そのうち気がつくと何度も聴き返すようになっていた。どういう構造になってるのか理解できなくて、それを解明しようと深みにハマっていってね。すごく興味深いよ。一度聴いただけで、あー、はいはい、そういうことねってわかっちゃう作品もあるけど、このアルバムはどこまでも謎に包まれてるし、作者が何をしようとしてるのか知りたくて、何度も聴き返してしまうんだ。