2024年2月から2025年2月まで、一年間、読売新聞の夕刊で連載していた小説が、単行本になりました。拙著『おにたろかっぱ』(中央公論新社)です。
この話は、この先、どうしたらいいものかと悩んでいる、うだつのあがらないミュージシャンの父親と息子の話です。
前半は、海の近くで暮らす父と子とたまに母ちゃんの日々が描かれていて、後半は、父と息子の旅の話となります。そして最後、毎日遊んでいた、父と子の別れがあったりして……。
とにかくミュージシャンの父は、仕事が少なくなり、このままじゃヤバいと、一念発起、どさまわりライブツアーに出ることになります。しかし旅に出る前、母ちゃんの具合が悪くなり、息子も連れて、どさまわりをすることになってしまいます。
でもって、この小説は、ミュージシャンの父ちゃんと息子が主人公なので、いろいろな音楽が出てきます。
実際にある音楽、実際にはない音楽、父ちゃん以外に出てくるミュージシャンも、いろいろとモデルがあります。
そんなこんなで、今回は、拙著『おにたろかっぱ』に出てくる、音楽、ミュージシャンなどを紹介していきたいと思います。
それでは、『おにたろかっぱ』の適当なプレイリストです。
◉まずは、父ちゃんと息子のタロが大好きなミュージシャンが、オーティス・レディングです。二人は、朝、調子をあげるとき、この歌をめちゃくちゃな英語で唄います。
▲Otis Redding「I Can't Turn You Loose」
◉オーティスの盟友でもあるスティーヴ・クロッパーさんのいる、Booker T. & The MG's。クロッパーさんは、『ブルース・ブラザース』の好きな息子がお気に入り。この曲の、盛り上がるところは、『ブルース・ブラザース』のカーチェイスのシーンで使われています。わたしいままで、あのカーチェイスの音楽は「I Can't Turn You Loose」の変形かと思っていたのですが、あれは、この曲の途中からなのかもしれません。なんだかどうでもいいことなのですが、この映像のクロッパーさん、とても格好いい!
▲Booker T. & The MG's「Time Is Tight」
◉父ちゃんが、三崎のカレー屋さんで、一緒にライブをする、素晴らしい女性歌手は、『音楽番外地』の最初のほうに紹介した、池間由布子さんです。最近大活躍の池間さん。ぜひ、ライブで見ていただきたいです。
▲池間由布子+潮田雄一「拝啓、朝」
◉父ちゃんが影響を受けた、スクリーミン・ジェイ・ホーキンス。有名なのは、もちろん、この曲ですが。
▲Screamin Jay Hawkins「I Put A Spell On You」
父ちゃんは、スクリーミン・ジェイ・ホーキンスの唄う、「I Love Paris」が大好きで、この曲に影響を受けて、サラミが好きだということを唄い上げる「サラミのマイク」という曲を作ります。「サラミが好き 肉屋で購入 サラミが好き 薄く切らないで」などといったもの。
▲Screamin' Jay Hawkins「I Love Paris」
◉フランス帰りで、競輪好きなアコーディオン弾き田部井さんと共演するとき、田部井さんのリクエストで唄うことになった。友川カズキの「夢のラップもういっちょ」。
▲友川カズキ「夢のラップもういっちょ」
◉ライブをする前、ステージに電球がひとつ、それを見て父ちゃんは、浅川マキの「それはスポットライトではない」を思い出し、ちょっとだけ唄います。ああ、これ、とんでもない名曲ですね。
▲浅川マキ「それはスポットライトではない」
◉岡山で、内田百閒(作家)好きな古本屋さんでライブをするとき、内田百閒に『阿房列車』という作品があるので、それと、プレスリーの「ミステリートレイン」を合体させた、「ミステリーアホウトレイン」という曲を唄います。
▲Elvis Presley「Mystery Train」
◉京都での対バン相手で、ズンダ・トモキさんという歌手とライブします。ズンダさんは、薬物で捕まったり、アル中気味だったりいろいろ大変ですが、大変味わい深いユニークな歌を唄います。そんなズンダさんが京都で、一発かますのは、「移民京都下る」という歌です。これは、レッド・ツェッペリンの「移民の歌」とデューク・エイセスの「女ひとり」を掛け合わせた珍妙な歌となります。「京都大原三千人 移動に疲れた移民がたくさん」、などといった歌詞。
▲Led Zeppelin「Immigrant Song」
▲デューク・エイセス「女ひとり」
◉京都でのライブ、家族と少しだけ過ごして、別れ、一人、コーヒーを飲みながら、高田渡に想いを馳せます。
▲高田渡「コーヒーブルース」
◉これまで、ビートルズをあまり聴いたことのない父ちゃん。息子と別れ、帰りの車で、「ゴールデン・スランバー」を聴いて、涙を流す。
▲Paul McCartney「Golden Slumbers Medley(from Abbey Road)」
◉父ちゃんと息子の好きな落語家。古今亭志ん朝の落語。
▲古今亭志ん朝「そば清」
なんだか、古い曲ばかりで、フォークソング寄りな感じになりましたが、どうぞどうぞ、音楽を楽しんでください。そして、『おにたろかっぱ』をまだ読んでいない方、読もうかなと思ってくださったら幸いです。
【戌井昭人(いぬい・あきと)プロフィール】
1971年、東京都生まれ。ヘンテコなパフォーマンス集団「鉄割アルバトロスケット」を旗揚げして、脚本を担当、自身も出演する。なんだかんだと、いろいろあって、小説を書きはじめ、2009年「まずいスープ」で芥川賞候補になる。その後、「ぴんぞろ」「ひっ」「すっぽん心中」「どろにやいと」と、4回、芥川賞の候補になるがすべて落選。一方で、2014年「すっぽん心中」で川端康成文学賞、16年『のろい男 俳優・亀岡拓次』で野間文芸新人賞。現在も、作家として活動中です。


































































