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十回「わたしの中のロックここにありと感じたOrcutt Shelley Miller」

第百十回「わたしの中のロックここにありと感じたOrcutt Shelley Miller」

2025.11.04

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 ロックとは? ロックミュージックとは? と問われたとしても、それぞれにいろいろ思いがあるのではないでしょうか?
 体制側ではないとか、カウンターカルチャーであるとか、反抗的とか、不良的だとか、なにはともあれ、反体制だったりする。
 でも、これらの考えは、もう古くさいのかもしれません。とにかくロックなんて、人それぞれ、勝手な思いで、「これ、ロックだな」となれば、それが「ロック」なのかもしれません。だから、別に反抗的でなくてもいいし、真面目でもいい、そして内省的でもいい。
 しかし最近、政治的なことにロックを使用しているのか、政治はロックだ、みたいなポスターを見かけたのだけれど、そこは違うと思いました。政治はまったくロックではありません。もちろん、政治に反抗していくためのロックはあるけれど、政治は政治で、ロックはロックで、あって欲しいとわたしは願うばかりです。
 
 とかなんとかほざいているわたしは、いったいなにが言いたいのかと言えば、つまり、ロックは、見る側、聴く側からすれば、人それぞれで、演奏している人たちが、その人にとって格好良く見え、楽しそうだったり、高揚させてくれれば、最高ではないかと思うのです。
 なんか定義しようとして、あんまりまとめられていませんが、最近再結成して日本にやってきたオアシスを見て高揚する人もいれば、まったく高揚しないわたしのような人間もいるのです。それでもやはり、オアシスはロックだと思うし、高揚はしませんが、格好いいとは思います。
 また以前、日本の総理大臣が、ある人気バンドを好きだと公言したら、忌野清志郎が、総理大臣があのような音楽を聴いているようじゃダメだな、というようなことを言って、わたし、清志郎はロックだなと思ったのですが、総理大臣にとってのロックは、RCサクセションではなく、その人気バンドのほうだったのかもしれません。
 このように、ミュージシャンに、ロックを感じる観る側も、それぞれなわけで、人それぞれ格好いいと思う観点が違い、それぞれ、多様なロックがあるのではないかと思います。とにかく、みんな違うロックが、世の中にはあるのです。
 
 で、そのような、ロック感を踏まえて、わたしが最近、「これロックだぞ! そうとう格好いいぞ!」と思ったバンドを紹介したいと思います。あくまで、個人的なロックです。
 それは、「Orcutt Shelley Miller」というバンドです。また同名のアルバムが2025年、つまり今年に出ています。ということは、若いイキの良いロックかと思うかもしれませんが、メンバーは見事なくらいおっさんだらけで、ドラム、ベース、ギターの編成になっています。
 わたし、この人たちの情報、いまだにほとんど知りませんが、ネットで探しまわって得た情報によれば、ギターは、ビル・オーカットという人で、白髪の髭おっさんです。そして、そのエレキギターは6弦と1弦、2弦、3弦しか張っていません。つまり、4弦、5弦をあえて張ってないギターで、ガシガシ演奏をします。
 この人、サンフランシスコで活動している人みたいで、個人では、前衛ミュージシャンみたいな感じなのでしょうか? いろいろ探していたら、この方が、便所で弾いてる映像がありました。
 

 なんだか、アメリカの、孤高のギタリスト、ジョン・フェイヒーみたいな感じもします。とにかく、ちょっと変な音楽好きの中では、有名な方なのかもしれません。しかし、わたし、この方の、「Orcutt Shelley Miller」というバンドでの、ギター演奏を見たとき、えらく興奮しました!
 このバンドを、紹介している日本のページがあって、これを読んでみると、「ソニー時代のエレファントカシマシ宮本的演奏」とあったけど、確かにそうだ思いました。
 実は、わたし、高校生のころ、エレファントカシマシを追いかけまくっていた時期があったのです。当時は、富士急ハイランドまで、バイクで見に行ったり、ライブがあるごとに行っていました。最初に見たのは吉祥寺のストリップ劇場で、などなど書き始めたらキリがないので、来月の、このコラムは、エレファントカシマシにしよう!
 とにかく当時、エレファントカシマシのライブで観た「珍奇男」という曲で、宮本さんが椅子に座って、ギターをジャカジャカ弾く姿を見て、「これがロックじゃねえか!」と度肝を抜かれ、痺れまくっていたのを思い出しました。
 本来なら、ロックのギターといえば、普通に立ってギターを弾き、格好良く音に乗って体をうねらせ、ポーズを決めるといった、キース・リチャーズ的なものが、ロックという感じだったのに、座って、ジャカジャカなんですから、驚いたのです。あれを観たのは、早稲田の学園祭の教室だったと思います。くじら、というバンドとの対バンでした。と、書き出すとまた長くなるのでやめます。
 
 とにかく、「Orcutt Shelley Miller」です。映像を見ると、おっさん3人が、なんか楽しそうにゴツゴツ演奏をしていて、エモーショナルな感じも、格好良くて、久しぶりに、「ああ、ロックだ!」と思ったのです。では、皆様は観てみてください。どうでしょう? やっぱ、これ、ロックに感じません? えらくロックじゃないですか?
 

 でもって、この方たち、映像だけではなくて、先ほども申したように、2025年に、アルバムをしっかり出していて、こちらめちゃくちゃ格好いい。
 もし、わたしが、ギタリストになれていたら、わたしは、心の底から、このような音を出すギタリストになりたいと思っています。こんな感じのギターなら、1週間くらい寝ずに弾いてみたい気もします。とにかく、わたしの中の、ロックがここにありました。
 それにしても、いいなあ、すごいな、サンフランシスコ行きたいなあ〜、生で観てみたいな、「Orcutt Shelley Miller」、本当に格好いいや。
 
 でもって宣伝なのですが、先月、『おにたろかっぱ』という本が出ました。ミュージシャンの父親が、3歳の息子とどさまわりツアーをしたりする小説です。変なミュージシャンもたくさん出てきます。どうぞ読んでみてください。
 

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 あと、補足で、「Orcutt Shelley Miller」で、ギターを弾いている、ビル・オーカットが数人のギタリストと演奏している映像、ビル・オーカットのギターは、弦の4弦、5弦がないと書きましたが、他のギタリストも、4弦、5弦が張ってません。なんか、これもロックでございます。
 

【戌井昭人(いぬい・あきと)プロフィール】
1971年、東京都生まれ。ヘンテコなパフォーマンス集団「鉄割アルバトロスケット」を旗揚げして、脚本を担当、自身も出演する。なんだかんだと、いろいろあって、小説を書きはじめ、2009年「まずいスープ」で芥川賞候補になる。その後、「ぴんぞろ」「ひっ」「すっぽん心中」「どろにやいと」と、4回、芥川賞の候補になるがすべて落選。一方で、2014年「すっぽん心中」で川端康成文学賞、16年『のろい男 俳優・亀岡拓次』で野間文芸新人賞。現在も、作家として活動中です。
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おにたろかっぱ

著者:戌井昭人
判型:四六判
ページ数:384ページ
定価」¥2,860(10%税込)
ISBNコード:ISBN978-4-12-005947-6
初版刊行日:2025年9月19日

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