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トップコラム戌井昭人の想い出の音楽番外地第百十一回「旅立ったクロッパーさんは今ごろオーティスと清志郎とみんなで口笛を吹いているかもしれない」

十一回「旅立ったクロッパーさんは今ごろオーティスと清志郎とみんなで口笛を吹いているかもしれない」

第百十一回「旅立ったクロッパーさんは今ごろオーティスと清志郎とみんなで口笛を吹いているかもしれない」

2025.12.17

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 スティーヴ・クロッパーさんが亡くなってしまった。残念です。
 以前のコラムにも書きましたが、うちでは、スティーヴ・クロッパーのことを、クロッパーさんと呼んでいます。
 現在、五歳の息子が、クロッパーさんを尊敬していて、「クロッパーさん死んじゃったよ!」と息子に伝えたら、どうして死んだのか、病気だったのか、どこで亡くなったのか、おじいさんだったのか? いろいろ質問してきて、こっちが答えに、追いつけない状態になっていました。
 

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 息子が、どうして、クロッパーさんを尊敬しているのかといえば、それは、もう、彼の大好きな映画、『ブルース・ブラザース』に出演しているからで、さらに、息子の好きな、オーティス・レディングとともに活動していたからです。
 息子は、一歳くらいのころから、半ば強引に、父親であるわたしに、『ブルース・ブラザース』を見せられていたのです。
 でも、父であるわたしは、別に、変な趣味の子どもにしてやろうとか、子どもに、変わったことを刷りこんでやろうなんていう気はなく、ただ単に、息子の面倒で映画もゆっくり見れないから、せめて音楽を流すみたいに、楽しい映画を流しておこうと、音楽を流すみたいな感じで、『ブルース・ブラザース』を流し、テレビでつけっぱなしにしていたのです。
 結果、息子は、映画と共に育ち、画面を見ては、一緒に踊り、カーチェイスに憧れ、「おお〜シット!」なんて、汚い言葉を使うようになりました。困ったものです。
 
 でもって、この映画の中で、クロッパーさんは、ブルース・ブラザース・バンドの一員としてギターを弾いているのですが、映像に映る、その顔が、いつも楽しそうで、素敵なのです。
 クロッパーさんは、ソロ・アルバムも、いろいろ出てて、楽しいのですが、ハッキリ言って、ソロの音楽で、グッと染み入るものは、ありません。と、言い切っていいのかわからないけど、これは、個人的な意見です。好きな人がいたらすみません。でも、ソロは、なんか、80年代、アメリカのラジオで、適当に流れていたような歌が多いのです。
 さらにアルバム・ジャケットも、80年代の、色合い雰囲気が、バリバリでして、音も、クロッパーさんのギター以外、まったく厚みがない、適当な感じの音楽に聴こえます。なんだか、偉そうにすみません。でも適当な感じで聴けば、楽しく、どうでもいいアルバムなのかもしれません。
 

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 そんなことはさておき、ソロの音楽が面白くなくたって、やっぱり、クロッパーさんは、彼の、その人柄が、音楽にも、写真にも、表れていて、醸し出す、雰囲気がすべて良いのです。
 さらに、ソロはちょっとなのだけど、オーティスの、あの名曲、「ドック・オブ・ザ・ベイ」(「(Sittin' on) The Dock of the Bay」)は、クロッパーさんも作曲に参加して、オーティスが事故で亡くなった後に、仕上げたのも、クロッパーさんみたいだから、クロッパーさんがいなかったら、あの曲は、世間に出まわってなかったのかもしれません。
 もし、「ドック・オブ・ザ・ベイ」が、世の中に出まわってなかったら、ちょっと違う世界になっていたかもしれませんよ。原田芳雄さんが、「ドック・オブ・ザ・ベイ」を歌うこともなかったでしょう。
 とにかく、あの曲には、優しさが詰まっています。そして人が優しくなれる。それは、仕上げたクロッパーさんの功績も大きいはずです。オーティスは、この歌を仕上げる前に、事故で亡くなったので、「ドック・オブ・ザ・ベイ」を歌っている映像がないのです。そこで、ジャスティン・ティンバーレイクが歌い、さらにバックで、ギターを弾くクロッパーさん。
 

 音数少ない感じの、この間合い、やっぱ、最高のギタリストなんですね。とにかく、立ち姿、その場にいる感じから、優しさに溢れている気がします。そこで、それをよく表している映像を紹介したい。
 
 忌野清志郎が、「オーティスが教えてくれた」を歌います。クロッパーさんがギターを弾いてます。クロッパーさんは、たぶん、音楽プロデューサーみたいなこともやっていて、スタジオで、涙します。とにかく観てください。
 

 どうですか? クロッパーさん、清志郎の歌に、オーティスを思い出したのか、目頭を熱くしていましたね。クロッパーさんは、人情深く、優しいのだと窺える一面でした。はじめてこの映像を見たとき、目頭を熱くしていく、クロッパーさんを見ながら、こちらも、目頭が熱くなってしまいました。さきほど、見たら、また、泣きそうになってしまいました。
 映像の中の二人は、もう、地球上にはいません。
 でも、ありきたりですが、クロッパーさん、長いこと経って、やっと、オーティスと再会していることでしょう。そして、「『ドック・オブ・ザ・ベイ』なんだけど、お前、完成前に死んじゃったから、三番目、口笛にしといたぞ」なんて、伝えているかもしれません。それを見て、清志郎が笑ってるかも、で、みんなで、口笛吹いてるかも。
 オーティスは、「ドック・オブ・ザ・ベイ」の三番を録音する前に飛行機事故で亡くなったので、あの有名な、口笛になったそうです。これはオーティスが吹いているとか、他の人が吹いているとか、いろな噂があります。真相は、クロッパーさんが知っていたかもしれませんが、そのクロッパーさんも亡くなってしまいました。
 

  『ブルース・ブラザース』に出てくる出演者のことがみな好きです。ライブはじまりのオープニングのシーンの音楽は何度も聴くことになりました。
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