『沖縄からの"書くミサイル"』という物騒な連載コラムを書いていたら、実際に北朝鮮軍が韓国の延坪島を砲撃して、国内外のメディアは大騒ぎだった。筆者もビックリだ。韓国軍兵士2人と民間人2人の死者が出たし、炎上した家屋もたくさんあったのだから、1953年の朝鮮戦争休戦以来の一触即発危機であったことは確かだろう。しかし、この前哨戦だけで、事態は収拾した。北朝鮮側も語気の強さは相変わらずだが、本気で戦争を仕掛けたわけではなく、そこには独自の国際外交を展開する北朝鮮政府と軍の思惑があった。
北と南の休戦ラインは黄海まで伸びており、北朝鮮側は米国主導の国連軍が勝手にやったこととして、認めていない。その海域で、韓国軍は実弾演習を繰り返しており、その後、米韓合同軍事訓練も行われた。北朝鮮はその軍事行為を挑発だとして、バージョン・アップしたロケット弾と思しき80発を民間人の住む延坪島にブチ込んだのだ。
この韓国軍と米軍による黄海での軍事訓練に対しては、「ならず者国家」北朝鮮を唯一コントロールできる中国政府も危惧の念を表明している。確かに、北朝鮮も中国も、自国の周辺海域で軍事訓練をやられたら、いい気はしないはずだ。韓国が実効支配している独島(日本は竹島)の北西部海域あたりでやれば、まだ北朝鮮に対する刺激は少なかったはずだ。もっとも、中国も尖閣諸島周辺で、日本から見れば挑発的行為を日常的に行っている。
問題は、こうした海域を含めた国境をめぐる紛争がしばしば戦争という最悪の事態に発展した過去の歴史を想定した戦略的外交を忍耐強くやるしかないということだ。北朝鮮のやり方を見て、ピョンヤンをミサイルや空爆で火の海にしたらどうかという誘惑に駆られるのが人間の感情かもしれないが、今や核ミサイルが世界中に配備されている現実を思えば、ナショナリズムの高揚が人類滅亡の危機を招く。国際関係は暴走族や暴力団のような「やられたらやり返せ」という単純な図式にはならないし、忍耐力が必要なのだ。
▲北朝鮮からの砲撃を受けた延坪島の様子を伝える韓国のKBSニュース。先月23日午後2時34分ごろ、朝鮮人民軍は黄海上の軍事境界線と位置付けられる北方限界線(NLL)に近い仁川・延坪島付近の海域に砲弾約170発を発射。これに対し、韓国軍は80発の対抗射撃を行った。南北統一は夢のまた夢なのか。