意外となんばにも珍スポットがある。「レコード喫茶 Graffiti」(グラフィティ)は店内の広さにまず驚かされる。80坪もある広々としたフロアにはスペイシーなデザインを基調としたレトロなファニチャーが配され、壁には5000枚ものレコードジャケットが掲げられている。一見して、なんばの渋谷系とでも呼びたくなるおしゃれ空間だ。しかし掲げられたレコードは、オリビア・ニュートン・ジョンの「フィジカル」、さとう宗幸の「青葉城恋唄」、海援隊の「贈る言葉」、八代亜紀の「雨の慕情」などなど洋邦のベタな大ヒット曲。レコードマニアたちからはそっぽを向かれがちな曲がズラリ並んでいる。ある意味これほどレアで嬉しい選曲はない。しかも単なるディスプレイではなくレコードすべてにナンバリングが施され、ドリンク一杯につき一曲、以降追加は100円で一曲、すべてをリクエストできるという画期的なシステム。つまり店一見が丸ごとジュークボックスなのだ。リクエストすれば女子スタッフがレコード室から探しだし、マッキントッシュ製のターンテーブルでプレイ。まるでジュークボックスのなかに入りこんでしまったかのよう。この店は、かつてアメリカ村でサウンドバーを営んでいた元村和憲さんが、昭和のディスコブームを牽引したプロデューサーの小川訓生さんと「アナログにこだわった店がやりたい」と意気投合しオープンした喫茶店。ゆえに音響設備は極上。ヒット曲のA面を最高のサウンドで聴ける店が“ウラなんば”にあるのも面白い。
吉村智樹(よしむらともき)
街ネタ好きな放送作家。最新著書は『ジワジワ来る関西』(扶桑社)。NTTのニュースサイト『いまトピ』にて毎週京都の珍スポットを紹介。