一見、ごく普通の喫茶店のカウンター。寡黙なマスターが静かにおいしいコーヒーを淹れてくれる。まどろみの昼下がりだ。しかし……ふと頭上を見あげると、そこにはハンマー、のこぎり、高枝切りばさみ、ペンチなど物騒な工具が並んでいる。ここは昨今はやりの「文具カフェ」のさらに上をいく「工具カフェ」なのだ。
京都の南丹にあるここは100年以上の歴史を誇る金物屋が店の一画に開いたカフェ。商店街がさびれきり、街から喫茶店が一軒もなくなってしまい、「このままでは街の人どうしが会話できる場所すらなくなる」と危機感を抱いた3代目店主が、家族に喫茶店への転業を提案した。ところが猛反対にあい、折衷案として「ならば金物屋の店内にカフェを開こう」ということになったのだ。100年の歴史がある金物店ゆえに倉庫には、いまの暮らしにはフィットしない、使われなくなった商品が売れ残ったままの状態で並んでいる。オープンしてしばらくは中高年の客から「なんでこんなにちらかってるところでお茶せなあかんの」と批判的な声が少なくなかったが、若い客が金属製品&コーヒーという非日常をおもしろがり、次第に客層が若返り始めた。そんなふうに金物店内カフェは、硬いものを扱いながら、その発想は柔軟極まりない。商店街活性化への重い扉を開く店なのかも。こじあける道具なら、ここに揃っているのだから。