Photo by Neo Sora
坂本龍一が2009年に発表したオリジナルアルバム『out of noise』のディレクターズカット版『out of noise - R』の発売を記念し、先週9月21日(土)に御茶ノ水RITTOR BASEで開催された、【『out of noise - R』発売記念 世界最速試聴会 坂本龍一を聴く 坂本龍一を奏でる vol.1 出演:ILLUHA】を主催したRITTOR BASEのディレクター、國崎晋によるレポートが到着。
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2009年にリリースされた『out of noise』のことを、坂本龍一は「長年の夢であった統一されたトーンのアルバムをやっと作ることができた」と語っている。それまでの坂本のソロアルバムは、それこそ『音楽図鑑』というタイトルを冠した作品があるように、バラエティに富んだ楽曲が収録されることが多く、統一されたトーンとは真逆の志向だった。それが本作では、タイトルの“ノイズから”“もしくはノイズの外へ”で示された、楽音ではない響きから一歩だけ音楽の方へ寄るというコンセプトのもと、フィールドレコーディングなどの非楽音、さらには笙やビオルといった古楽器が発する倍音をレイヤーしていくことで、アルバム全体を通底するサウンドスケープの構築に成功しているのだ。“シンセサイザーを一切使っていない初めてのソロアルバム”ということも発売当時話題となったが、シンセサイザーを使わずともDAW(Digital Audio Workstation)を駆使し、それこそ庭師が木々を剪定するようにサウンドをトリートメントする作業を重ねていくことで、このような望み通りのサウンドスケープを作り出すことが可能になったのである。
そんな本作がリマスタリングを施され、未発表曲を加えた新たな構成のディレクターズ版『out of noise - R』としてリリースされる。発売に先立つ9月21日に御茶ノ水RITTOR BASEで、そのアナログ盤を高解像度のスピーカーシステムで再生する試聴会が開催された。そこで聴こえてきたサウンドは初出時よりも深みが増し、繊細な音の世界により分け入ることができるものであった。特に“北極圏三部作”と呼ばれる「disko」「ice」「glacier」で繰り広げられるサウンドは圧巻で、ステレオ音源なのにイマーシブかと聴き間違えるほどの没入体験をもたらしてくれた。未発表曲である「081121_high」は、金属質な音が歪みを含んで展開していく中、笙の響きがゆらめき、さらに暗騒音が背景を埋めていく作品で、後の『レヴェナント:蘇えり者』のサウンドトラックに通じる音世界である。
試聴終了後には、ゲストとして招かれた伊達伯欣、コリー・フラー、山本達久の3人からなるユニット=ILLUHA(イルハ)のトークがあり、倍音やトーナリティを話題にしつつ、このアルバムが坂本の晩年の新境地である『async』そして『12』への重要なステップとなったことを指摘していた。さらにトーク終了後、ILLUHAによる『out of noise - R』にインスパイアされた即興演奏が行われ、それがいつしか「hibari」のカバーへと展開していく見事な構成に、試聴会に参加した観客が皆魅了されていた。【Text:國崎晋(RITTOR BASE ディレクター)】