最寄りの渋谷駅からのアクセスもさらに便利になったLOFT HEAVEN。徒歩5分程度の道のりでも到着するや汗だくな暑さに見舞われた、暦の上では秋を迎えたお盆直前のこの日。午後1時、ビールを片手に開演を待つ方も見受けられる満員のお客様を前にドラマー・かたぎり聡がピアノとウッドベースのメンバーを率いてステージへ。二部構成のライブ、第一部はピアノトリオ・タギリソウカによるジャズセッション。
かたぎり自らマイクを持ち“涼しげな曲から始めていこうかと”、「十一月のBugge Brand」はブラシで鳴らすスネアの音にも感じる涼。指弾きのウッドベースの低音が心地よく響き、会場ご自慢のグランドピアノも美しい音色を放つ。“リズムをいじることで個性が出る”と語り、リズムにフォーカスして最初にできたという曲が「二月の雨」。3拍子の楽曲だが確かに何拍子なのか分からなくなり、リズムの迷宮に迷いこむ。
ライブで披露した楽曲のタイトルに“○月”と入っているのは、タギリソウカが約3年前にリリースしたファーストアルバム『AROUND 2021』が、1月から12月までの各月をモチーフに作曲した12曲で構成されているがゆえ。“その時(の楽曲制作)以来で、この日に向けて新曲を”と完成させこの日、披露したのは「Restart」。“月イチで曲を書いていた時からのリスタートの意味合いも込め”た楽曲は、スタートのピアノの旋律に童謡を思わせるもあくまで最初だけ。すぐにガラッと展開が変わり、テンポ感もスピード感も実に心地良い。朝のラジオ番組のBGMとして使用されるのにも持ってこい、と表現すればイメージしやすいか。
かたぎりが曲の解説も交えながらの1部の時間・約50分は瞬く間、ラストに選んだのは「三月のカーニバル」。この曲に乗せて客席でもハンドクラップを試みるのだが、もしかして裏拍子を叩いているかも? と思ったりして、自分のハンドクラップのリズムが崩れていく。音を通して客席とリズム遊びをするかのように楽しみながら、第一部が終了。
しばしの休憩を経て、第二部に登場したのは民謡グルーヴ。かたぎりのドラムは引き続くも、笛および尺八/三味線/唄/お囃子(2名)のメンバーに入れ替わる。かたぎり含め浴衣の出で立ちがLOFT HEAVENのステージにもしっくり馴染む。“普段はジャズやロック(のドラマー)だが、日本の民謡のリズムをドラムという西洋の楽器で表現したら新しいものができるのではないか”とまず、かたぎりが挨拶。民謡グルーヴは始動から1年半ほどになるという。
スネアドラムの響き線(スナッピー)をオフにする形(であろうと推測)で、多少なりとも和太鼓や鼓に近い響きを出しながらシンバルの音が入ってくるのが実に面白く、全く違和感なく今に通じるポップさをも感じる時間。“1部とは真逆のサウンドで、民謡の魅力をお届けします”と九州に伝わる「牛深ハイヤ節」からはじまり、続く盆踊りメドレーはこの時期にもぴったりで、さすが「東京音頭」では手を動かしたりしつつ客席のそこかしこからかけ声も上がる。思い思い自由に楽しんでいる客席の雰囲気が実に良い。隠岐島に伝わるという島根の民謡「しげさ節」や、1615年・大坂夏の陣の時代からの言い伝えがある(!)という三重の「尾鷲節」などなど、1曲1曲がちょうど良い長さでのアレンジが施され、聴いていてとにかく楽しい。
いささか個人的になるが、東北育ちのわたしにとって民謡のテイストが地方により違うことにも気づかされる発見もあった。“東と西では、こぶしの響きが違う”と唄い手が実演しながら説明する時間もあり更に納得、日本人としてのルーツにひとつ触れることができる機会にもなった。最後は“民謡で一番古いとされる”という富山の「こきりこ節」、なんと発祥は歴史で習った大化の改新(645)頃まで遡るという話に驚く。今の音楽・今のヒットにどうしても心奪われて耳にしている日々だが、はるか1000年以上も前から民謡というものが存在していたという事実。音楽というものの素晴らしさに思いを馳せるひとときにもなった。
そんなこの日、一番のメインはアンコールでの1曲。第一部の出演者も浴衣着用の上、出演者全員がステージに登場して「南部俵積み唄」の大セッション。“ジャズに寄せて、ジャズと民謡がぶつかり合う感じで”というアレンジは、“ハァ〜”で始まる民謡・こぶしがライブハウスのまばゆいスポットライトを浴びながら客席に向かってくるのが何とも斬新で新鮮。“おめでたい歌で、これから良いことがいっぱいあるよ”と曲紹介をしていたが、“めでたいな めでたいな”の歌詞はこの場所が今年6周年、及び同グループの新宿LOFTが歌舞伎町に移転して25周年のアニバーサリーを祝うにもとてもふさわしく、会場の皆が笑顔で手拍子。
今回の公演を通して、かたぎり聡というドラマーが創造する新しいリズム、そして新しいミクスチャーを楽しむことができた。普段よりやや年齢層高めなお客様が多めの空間だったが、ライブハウスは自由な場所であるが故に限られた年代だけではなく様々な年代の方が楽しめるような場所であるべきという創造を見せてもらったと思う。そんなかたぎりについて最後、ホワイトルーザーというバンドでドラムを叩いているということも記しておこう。多才な(多彩な)人物との出会いにもなったライブであった。【Text:高橋ちえ(@djchie)/ Photo:MAYUMI(@SOxWHAT_88)】