LAで生活したAKIRAならではの音と空気感
──サブライムと言えば、「California Girl」に「“Santeria” ここで聴くのは最高」という歌詞がありますね。
AKIRA:LAに留学していた頃、ラジオから「Santeria」が流れてきたことに驚いたんですよ。マイリー・サイラスとかの曲の後に普通に流れてきたりして。すごい印象的だったのが高校生のとき、外にカフェテリアがあって、そこでみんなランチを食べるんだけど、でっかいブームボックスから爆音で流れてくる「Santeria」に合わせて高校生がみんな唄ってるんです。知らない人なんていないってくらいみんなで唄ってて。友達じゃなくてもみんな一緒に唄ってるのを見て、日本の高校生じゃまずあり得ない光景だなと思ったんですよ。日本で言う中3から高3までの何百人が外に集まって「Santeria」を一緒に唄ってるのは世界中でもここしかないだろうと感じたのを覚えてて、「Santeria」を歌詞に入れてみたんです。
KOZZY:みんなで大合唱するような曲じゃないけどね、「Santeria」は(笑)。
──「もし彼女と他の男との関係に気づいたら、その男の頭を撃ち抜いて彼女を引っ叩いてやる」みたいな歌詞ですからね(笑)。
AKIRA:私が住んでいたのはサウス・カリフォルニアの中でも治安の悪い地域で、それも相まってみんなでそんな歌を唄ってるのが面白かったんです。そこで一緒に唄ってた男の子がきっと何か悪いことをして次の日には学校に来なかったりとかして。「そう言えばあいついないな」とか思ったら「退学したんだよ」って友達に聞いたり。そんな17、8歳のときの体験と、小さい頃から聴いてた「Santeria」が自分の中で結びついていたことを歌詞のストーリーに入れ込んでみたんです。
KOZZY:あと「California Girl」に関して言うと、デモで僕が弾いてたアコギを全部消してAKIRAに弾かせたんだよね。僕に比べて決して上手くはないけど、カリフォルニアの空気を知ってる彼女がアコギを弾いて唄うことに意味があったわけ。現地で生活したAKIRAならではの空気感が絶対に伝わるはずだから。
AKIRA:確かにギターは下手いんだけど、緩くて別に上手くなくてもなんか成立するというか。
KOZZY:僕もこれまでLAにはレコーディングや観光で何度も訪れて、サンタモニカのビーチとかでストリートミュージシャンが演奏してるのを見たけどホントに下手(笑)。だけどやる側も聴く側もそれでハッピーなんだよね。いつも太陽が燦々と輝いて、緩い空気の中でみんなバカやっててさ(笑)。その感じが欲しくてAKIRAにアコギを弾いてもらったら、デモとは全然違う雰囲気になって「これだな」と。それで「The Night in the Valley」も「Indian Summer」も僕がイントロから弾いてたギターをAKIRAの演奏に差し替えることにした。
AKIRA:正直、テクニックとかないので、そういうところじゃない雰囲気で弾くのがいいのかなって。その不完全な感じが逆にいいのかなと思って、「大丈夫、大丈夫。これでいいんだよ!」と自分に言い聞かせながら弾きました(笑)。
──新天地へ向けて空港から羽ばたく“Tokyo Girl”は足元のおぼつかなさが魅力なので、それで良いのだと思います。緩さと言えば、トロピカルな佇まいもある「Indian Summer」のレゲエを意識したアレンジは作品全体の中で良いアクセントになっていますね。
KOZZY:ああいう曲調はお手のものだし、演奏するのも純粋に楽しいしね。
──古さと新しさの共存や融合が本作の裏テーマだとすると、「California Girl」や「Indian Summer」のようなタイトルは暗示的ですよね。前者はビーチ・ボーイズ、後者はドアーズを想起させますし。
KOZZY:前のインタビューではスカタライツの「Indian Summer」って言われたけど、ドアーズの「Indian Summer」もいい曲だよね。
AKIRA:「スカみたいな曲があるといいよね」みたいな話をしてたし、季節的に夏の曲がないことに途中で気づいたんです。それで歌詞のファイルの中に“Indian Summer”って書いてあるのを見つけて、それが使えるかもしれないってことでピックアップしました。
KOZZY:“Indian Summer”ってワードがLINEで来て、それなら自ずと曲調はジャマイカっぽくなるっていうか。
──たとえば「That's My Jam」は『LET IT BLEED』の頃のローリング・ストーンズを彷彿とさせますが、それもプライマル・スクリームを経由してのストーンズっぽさだと思うんです。これがKOZZYさんの作品ならダイレクトにストーンズかもしれませんけど、AKIRAさんの場合はオリジネイターより下の世代の音楽がワンクッション挟んであるように感じるんですよね。
KOZZY:うん、僕もそう思う。「Hey Tonight」っていうCCR(クリーデンス・クリアウォーター・リバイバル)の曲もスワンプロックっぽさと言うよりプライマル・スクリームを感じるよね。
AKIRA:確かにそのフレイバーはどこかしらありますね。
──原曲の根幹にあるアーシーさが程よく消えて、AKIRAさんが唄うとキューティーでカラフルな印象になる。それが音楽の面白さ、カバーに耐え得る楽曲の秀逸さだと思うのですが。
KOZZY:「Hey Tonight」なんてオリジナルはめちゃくちゃ単純な曲だからね。また繰り返すの? もうちょっと何かやればいいのにって感じで(笑)。でもそれがすごくいい。延々にいい曲なわけ。だからどんな形にしても曲の良さは変わらないし、カバーして演奏するのはやりがいも楽しみがいもある。こんなに装飾を加えても原曲の良さは変わらないんだという発見もあるしね。【後編へ続く】