B.A.Dレコーズのキューティ・ポップ部長、AKIRA(Luv-Enders)のソロ・プロジェクト"AKIRA with THE ROCKSVILLE"がファースト・アルバム『L.U.V』を完成させた。これまで録りためたカバー曲や昨年末に配信リリースしたクリスマスソングをコンパイルする目的で始動した本プロジェクトは、アーティストとして本格的に自我の芽生えたAKIRAの成長とボーカリストとしての進化をプロデューサーであり実の父親でもあるKOZZY IWAKAWA(THE MACKSHOW, THE COLTS)が認めたことでオリジナル曲を増やす方向にシフトチェンジ。その結果、ヴィンテージなロック・クラシックスの体現に特化するLuv-Endersとは違った、AKIRAのパーソナリティと体温を如実に感じさせるカラフルで甘くねじれたポップソングの数々が誕生した。SKATALITESとSUBLIMEを同じ時間軸で子守唄として聴き、十代の多感な時期をカリフォルニアの青空の下で過ごしたAKIRAならではの類稀なミクスチャー感覚、和洋折衷かつ温故知新な変幻自在の音楽性を心ゆくまで堪能できるアルバムとして永く聴き継がれるだろう。リスナーを音の時空旅行へいざなうこの極上のキューティ・ポップ・アルバムの制作秘話について、都内某所のアジト"ROCKSVILLE STUDIO ONE"でKOZZYとAKIRAの父娘に語り合ってもらった。(interview:椎名宗之)
自分の言葉として原詞を理解できるカバーの強み
──ラヴェンダーズのセカンド・アルバム『Luv-Enders' Explosion!』発表時のインタビューで、次の作品へとつながる橋渡しの役目もできるんじゃないかということでモッズの森山達也さんが作曲提供した初のオリジナル曲「HOMECOMING」を収録した経緯があったと記憶しているのですが、結果的にラヴェンダーズのオリジナル作品にはなりませんでしたね。
AKIRA:それはやっぱり、このコロナ禍の影響が一番大きいですよね。
KOZZY:コロナのせいでラヴェンダーズの活動自体が止まってしまったし、僕と共同プロデューサーだった森山さんもご自身のアルバム制作やツアーがあったりして忙しくてね。
──“T.MORIYAMMER”名義のソロアクトですね。そのプロジェクトでもKOZZYさんがプロデュースをされていましたが。
KOZZY:僕らの師匠に迷惑をかけられないので、われわれ下々は自分の活動が疎かになるっていう(笑)。
──流れとしては昨年末に3週連続で配信したクリスマスソングの数々、2月に配信したシングル「恋のヴァレンタインビート」をフィジカルなアルバムとしてまとめようとしたわけですよね。
AKIRA:そうですね。コロナの中でも何かしらのリリースをしたかったし、私自身、クリスマスが大好きなんです。1年の中で一番好きな季節で、いつかは自分でもクリスマスソングを発表したくて。それで去年、忙しいKOZZYさんを急かしてプロデュースしてもらったんです。それで2、3週間くらいでリリースに漕ぎ着けて。
KOZZY:プロデュースする対象がAKIRAというボーカリストなら、僕もどうしてもちゃんとしたものを作りたくてね。それは父親と娘という関係だからだけじゃなく、空いた時間に片手間で作るのはお互いに失礼だろうし、何より聴いてくれる人たちに失礼だから。だからAKIRAのクリスマスソングを発表するにもそれなりの時間が必要だったし、せっかく作るなら僕も思いきり楽しんでクリスマスソングを作りたかった。その限られた時間の中で「恋はキャンディ・ケイン」というオリジナル曲を作ったときの彼女とのやり取りがけっこう良くて、そこで手応えを感じたので「恋のヴァレンタインビート」を作ってみた。僕が持ち込んだ曲に対するAKIRAのレスポンスや書いてくる詞もいい感じだったし、いずれはこれを1枚のアルバムにしたいねとお互い思っていたので、詞曲の準備をしておいてくれとAKIRAには言っていて。こっちは森山さんのソロやモッズ本体の動きに全面的に関わらせてもらっていたのでなかなか時間が取れなかったんだけど、タイミング的にはギリギリで何とかAKIRAとの作業に入れてね。
──公私の境が曖昧な家族だからこそ時間の融通が利くこともありますよね。
KOZZY:普通のプロデューサーとアーティストよりも近い関係性だし、夕食を一緒に食べた後にすぐ打ち合わせができる環境にはあったね。夕食の時間までは親子だけど、終わったらプロデューサーとアーティストとしてスタジオに入ることもできる。僕からは曲を出して「これに合う詞はどう?」「どんな詞があるんだ?」とか訊いて、そのやり取りは親子だからなのかスムーズにできたね。まあそれはオリジナルを入れることを決めてからなんだけど。それまで録りためてたカバーがグッズ的に出したのも含めてけっこうあったから、最初はそれをまとめてアルバムにしようと考えてたんだよ。でもせっかく作るならオリジナルを入れたほうが気持ちも入るだろうってことで、オリジナルを入れようと。ただ、AKIRAとカバーをやるのは純粋に楽しい。選曲にしても僕のアプローチとAKIRAのアプローチは全然違うし、彼女は自分の言葉として原詞を理解できる強みがある。そういう僕との違いがあるし、ちゃんと歌詞の意味を分かってる人が唄ってくれるのは聴いてて楽しくてね。
──本作の収録曲である「It's So Easy」で言えば、バディ・ホリーとリンダ・ロンシュタットの違いに似たアプローチの差がKOZZYさんとAKIRAさんにはあると。
KOZZY:そういうこと。その違いが楽しいし、いろいろ録りためてはいたんだけど、どうせならオリジナルも入れたい欲が出たってことかな。
──そのオリジナル楽曲が殊の外いいんですよね。夢と希望をトランクに詰め込んで未知なる世界へ羽ばたこうとする「Tokyo Girl」、新天地で手に入れた自由を思うままに満喫している「California Girl」など、ラヴェンダーズでは見られなかったAKIRAさんのパーソナリティが如実に表れていて。
KOZZY:その辺は上手くできたよね。
AKIRA:うん、そう思います。