B.A.Dレコーズのキューティ・ポップ部長、AKIRA(Luv-Enders)のソロ・プロジェクト"AKIRA with THE ROCKSVILLE"がファースト・アルバム『L.U.V』を完成させた。これまで録りためたカバー曲や昨年末に配信リリースしたクリスマスソングをコンパイルする目的で始動した本プロジェクトは、アーティストとして本格的に自我の芽生えたAKIRAの成長とボーカリストとしての進化をプロデューサーであり実の父親でもあるKOZZY IWAKAWA(THE MACKSHOW, THE COLTS)が認めたことでオリジナル曲を増やす方向にシフトチェンジ。その結果、ヴィンテージなロック・クラシックスの体現に特化するLuv-Endersとは違った、AKIRAのパーソナリティと体温を如実に感じさせるカラフルで甘くねじれたポップソングの数々が誕生した。SKATALITESとSUBLIMEを同じ時間軸で子守唄として聴き、十代の多感な時期をカリフォルニアの青空の下で過ごしたAKIRAならではの類稀なミクスチャー感覚、和洋折衷かつ温故知新な変幻自在の音楽性を心ゆくまで堪能できるアルバムとして永く聴き継がれるだろう。リスナーを音の時空旅行へいざなうこの極上のキューティ・ポップ・アルバムの制作秘話について、都内某所のアジト"ROCKSVILLE STUDIO ONE"でKOZZYとAKIRAの父娘に語り合ってもらった。(interview:椎名宗之)
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アーティストのやる気を引き出すKOZZYのプロデュース術
──カバーの選曲はAKIRAさんが好きな曲を基準に選ばれたんですか?
AKIRA:ですし、これまで録りためたテイクもありましたし。
KOZZY:というか、もともとカバー主体のアルバムにするつもりだったし、今まで録りためたカバーをまとめようかっていうスタートだったので。途中で「オリジナルも入れてみようか?」と思い立ってやってみたらすごく良かったので、そこから作品の性質が変わったんだよね。以前からラヴェンダーズのオリジナルもなかなかいいなと思ってたし、クリスマスソングをまとめて録ったときも曲作りのやり取りはできるなと感じていたので「恋のヴァレンタインビート」というオリジナルを作ってみようと思った。そのときにAKIRAの歌のアプローチや歌詞の言葉選びがいい意味で変わってきた、良くなってきたのを感じたし、それならぜひオリジナル配分の多いアルバムを作りたいと思ってね。たださっきも言った通り、いざやるとなれば僕は一切の妥協はしたくないし、曲作りでもレコーディングでも“もっと、もっと”になるからさ。比較的簡単に作った曲やもともとあった曲よりも「こんなのはどう?」って新しい曲の提案をどんどんしたくなったし、それに対してAKIRAからもいい答えが返ってきてたのでやれるだけやろうよ、ってことになった。それでアルバムとして足りない部分を補う意味で「That's My Jam」を一番最後に用意したりして。AKIRAには「まだやるの? まだ入れます?」って言われたけど(笑)。
AKIRA:私としては「ちょっと寝かせましょう」って言いたかったんですけど(笑)。KOZZYさんの言ってることもやりたいことも分かるんだけど、一回寝ていいですか? って。
──ああ、曲を寝かせるのと、ご自身も寝たいというWミーニングだったと(笑)。
AKIRA:明け方に近い時間までスタジオに入り浸りで、そこで何度も歌詞を書き換えて唄い直して…。確か他の曲の歌入れが終わって「前にちょっと言ってた曲をやってみようか?」と「That's My Jam」を持ち出されたのかな。でもその時点ではもう正確な判断ができなくなってたし、もっと自分なりの言葉を考えたかったし、歌の表現の面でも今は100%の力を出しきれないので一度寝かせてほしいとお願いしたんです。
KOZZY:僕の“もっと、もっと”が嗜められたわけだね(笑)。
AKIRA:唄えてないことはないんだけど、「もっとノリを出して」みたいなことを延々と言われて。頭で難しく考えすぎてるってことだったと思うんですけど。
KOZZY:そんなことを朝の4時に言われてもな、って感じだよね(笑)。
AKIRA:他の曲の歌入れで魂を使い果たしてしまったので、「ああ、また次の曲か…」みたいな気持ちは正直ありました(笑)。「That's My Jam」は分かりやすい曲調だし、KOZZYさんのやろうとしてることが分かるからこそ逆に難しくて。
KOZZY:そこを僕が「こんなの簡単だろ!?」とか言うからね(笑)。
AKIRA:簡単なことのほうが難しいんですよ。シンプルなロックンロールほど唄うのは難しいし、他の曲がロックンロールすぎないのも相まって余計に難しいと感じてしまったんです。
──“That's My Jam”=“私の大好きな曲”が“大嫌いな曲”になりかけるところでしたね(笑)。
AKIRA:でもそこで冷静に考え直して、もうイヤだな、またダメって言われるんだろうな…と思いつつ唄ってみたら「キープで」って言われたので、まあ良かったんですけどね。
KOZZY:プロデューサーとシンガーという立場で関わる以上はこちらの要求も高くなるし、他の曲も含めて以前よりもずっと高い水準で歌が返ってきたし、「だったらもっといけるよね?」ってなるわけ。あと3日くらい時間の余裕はあるけど、今やっておけばもっといい歌が出るはずというプロデューサーとしての読みもあってさ。行け行け! たかがロックンロールだろ!? みたいな(笑)。
AKIRA:「もっといけるよね?」とか言われたら立ち向かいたくなるんですよ。「ここで思うように唄えなかったら、別に次の機会に回してもいいけど…」とか言われると私も意地になるっていうか。「この曲も入れたいでしょ? じゃあやりますよ!」って。
──それがお父様特有のプロデュース術なのかもしれませんね。
AKIRA:唄い手の闘志を燃やすみたいな(笑)。それはありましたね。でもラヴェンダーズのファースト、セカンドを録ったときよりも楽しくやれました。ヘンな汗はまだかいてましたけど、怒られることも以前より少なくなってきたし。
──AKIRAさんの歌が格段に良くなったという厳然たる事実ゆえでは?
KOZZY:きっと自分で書いた歌詞だからっていうのもあるんじゃないかな。その思い入れの部分もあるだろうし。
AKIRA:それは確実にありましたね。カバーは過去の偉人たちがずっと唄い継いできた大切な曲だし、自分の歌だと思いながら唄ってきましたけど。ただ自分で書く歌詞は日本語もあるし、伝えることにより意識的にならなくちゃいけないし、気持ちの込め方自体がやっぱり変わりますよね。
KOZZY:僕としてはその部分を引き出したかったし、気持ちを伝えようと思えば自ずと声が大きくなって、歌もすんなり良くなっていくものだからね。
AKIRA:今までと違って、今回は「そんなに必死に唄わなくていいから」と言われることが多かったですね。前はもっとテクニック的なことも言われたけど、「もっとラクにやりなよ」みたいなことを今回は言われたのでいくらか伸び伸びとやれた気はします。
KOZZY:AKIRAは僕にないものを持ってるし、そこは尊敬してる部分でもあるし、彼女のバックボーン自体が羨ましい。日本で生まれ育って音楽をやる以上、どうしても極端にならざるを得ないというか、マニアックに特化しないとその道を極めることができないみたいな風潮があるじゃない? 大多数と違うことをやるには圧倒的に少数派で偏ったことをやらなきゃいけないっていうか。たとえばギターロックをやるなら下北だとか、ラップをやるなら荒川だとかとかあるよね(笑)。サブカルならサブカルの極限まで振り切らないと目立たなくなって、だから“サブカル女子”みたいにわざわざ説明するような言葉が生まれる。そんなこと別に声を大にして言わなくたっていいじゃんと僕は思うけど、そういうことをあえて言わないとその人が持ってるものやバックボーンが伝わらない。その点、AKIRAは自我を確立する時期に広大なアメリカで生活をして、そこでいいバックボーンを自ら掴んできた。それがあるからレトロな趣味があるとかヴィンテージなロックが好きとか言わなくても伝わるし、だからこそCCRやバディ・ホリーをカバーしても上手くハマる。ラヴェンダーズみたいなバンドをやってるからそういうアプローチをするとかオーセンティックなものに引っ張られるんじゃなく、それが彼女のナチュラルな資質なわけ。