異例ずくめのユニットだ。2020年5月5日に前身バンドである(M)otocompoからコンポーザーのDr.Usuiとマルチ弦楽器奏者の絢屋順矢、歌手の泉茉里、映像作家の名嘉真法久の4人で結成された《DISCOMPO with 泉茉里》。コロナ禍と緊急事態宣言のさなかにオンライン上で結成された経歴も異例なら、その時点でUsui以外の3人は実際に顔を合わせたことがないのも異例(10月初旬の時点でメンバーが勢揃いしたのがまだ3回しかないのも異例)、結集から1週間で2曲のMVを制作するスピード感も異例、毎週木曜日の夜に行なわれるZOOM会議でオーディエンスを巻き込みながら活動内容を決定していくスタンスも異例、CDデビューの前に短編映画『DISCOMPO』を制作してしまうという大胆不敵な行為も異例、来たる10月14日(水)にLOFT9 Shibuyaで行なわれる短編映画の公開記念イベントで初めてオーディエンスと交流するというのも異例。
まさにこのウィズコロナ時代の申し子と呼ぶに相応しい前代未聞のユニットである彼らに、その主戦場であるオンラインで結成から映画完成に至るまでの経緯を聞いたのがこのインタビューだ。エンターテイメントの世界におけるコロナ禍による創作活動の制限を逆手に取り、こんな時代だからこそできることを網目を潜るように一つずつ形にしていくポジティブさと逞しさ、それでもなお他者とつながりを持とうとするコミュニケーション力の高さと貪欲さを対話の随所で感じ取るたび、摩擦係数が低いはずのオンラインを活動の基盤としている彼らこそ実は摩擦係数が高い触れ合いの実践をこの分断の時代に果たしているように思える。
まあそんな堅苦しい能書きはさておき、彼らのYouTubeチャンネルにアップされているポップで瑞々しい楽曲の数々をまずは先入観なしで楽しんでいただきたい。異例で異色で異端の活動展開をしている彼らが至極正統的かつ最新鋭のテクノ/エレクトロポップを体現しているのが分かるはずだし、優れたポップミュージックは時代を反映させるという普遍の事実を実証している好例だと思うので。(interview:椎名宗之)
会ったことのない人たちとユニットを組む異例さ
──このコロナ禍で従来活動していたバンドもしくはユニットがオンラインでの表現を強いられるなか、DISCOMPO with 泉茉里はオンラインで結成されたというのがまず画期的ですね。
Dr.Usui:今から1、2年前に僕とマルチ弦楽器奏者の絢屋順矢のなかで(M)otocompoとはまた違ったコンセプトのユニットをやりたいと考えていたんです。これまで毎年5月5日にやってきた「OTOCOの日」[MOTOCOMPOのデビュー記念日に開催を続けてきた(M)otocompoの主催イベント]がコロナ禍でできそうもないとなったとき、以前からやろうとしていたDISCOMPOを始めるなら今なんじゃないか? とひらめいたんですよ。それを順矢に話したら彼も同意してくれて。当初考えていた面子とはちょっと違うけど、いまDISCOMPOをやるならどういう人とやりたいか? という話になって、まず名前が挙がったのが茉里ちゃんと名嘉真監督だったんです。どうすれば参加してくれるだろうと2、3日考えた末に2人に提案して、晴れて参加してもらいました。
──最初に構想していた(M)otocompoとは違うコンセプトとは、具体的にどういうものだったんですか。
Dr.Usui:2010年までやっていたMOTOCOMPOというテクノ/エレクトロポップバンドから派生した(M)otocompoというバンドを10年やってきたんですけど、(M)otocompoはスカとエレクトロの融合を目指していて、オーセンティックなものを現代風のエレクトロニカで構築するというコンセプトだったんです。DISCOMPOは2010年以前にやっていたMOTOCOMPOの4つ打ちのエレクトロポップをもっと現代風にやれるんじゃないかというのが最初の発想ですね。MOTOCOMPOに立ち返るようなことをやりつつ、MOTOCOMPOではやれなかったことを目指したかったというか。名嘉真監督とは去年の夏、監督の事務所に伺って「一緒にやりたいことがいろいろとあるんですけど…」と相談したことがあって、何か機会があれば面白いことをご一緒してみたかったんです。茉里ちゃんに関しては、順矢と話していてボーカルを入れたいと。それも女性ボーカルがいいよねという話になったとき、2人から最初に挙がったのが茉里ちゃんで。とはいえ緊急事態宣言のさなかだし、そう簡単に引き受けてもらえないだろうと考えて、茉里ちゃん以外のボーカル候補を無理やり考えてみたんですよ。でもやっぱり茉里ちゃんしかいないと思うに至って連絡してみたところ、参加していただけることになったんです。
──泉さんと名嘉真さんはすぐに快諾したんですか。
泉:そうですね。そんなに悩まずに「やります」と返事したと思います。
Dr.Usui:茉里ちゃんには「オンラインだったらいいですよ」と言われましたね。
泉:そう、「オンラインであれば…」というのが最初は条件としてありました。
名嘉真:声をかけてもらったのが4月の末で、すでに自粛期間に入っていたから「オンラインで」という話になったと思うんですけど。
──資料によると、4月28日の集結から1週間で2曲のMV(「Boys, Boys, Boys.....」「Another Century」)を制作したということですから、すさまじいスピード感ですよね。
Dr.Usui:茉里ちゃんと名嘉真監督にやってもらえるかなと提案したわりに、かなりのハードルの高さだったことに自分でも気づいていなかったんです(笑)。5月5日にMVを2曲発表するということまで含めてお願いしたので。
──Usuiさんとしては「OTOCOの日」の配信にどうしても間に合わせたかったわけですよね。
Dr.Usui:そうなんです。今まで10年間、5月5日に「OTOCOの日」をやることにずっとこだわってきたし、今年は順矢と2人で進行する配信番組になってしまったけれど、毎年の節目である5月5日に新しいことを始めたかったんですよ。だからスケジュールのタイトさに負けたくなかったというか。曲に関してはストックがあったし、それにアレンジを加えれば用意できると考えていたんですが、なんせ僕以外の3人は会ったことがないからどうなるかなと思って(笑)。
名嘉真:その不安はありましたね(笑)。DISCOMPOに参加することになってから茉里ちゃんのこれまでの活動を調べたりもしたんですけど、どんな人なのか、どんな声なのかは結局のところよく分からなかったし、よく把握できないままMVの制作に臨んだところはありますね。とはいえ締め切りが最初から設定されていたので悩む時間もなかったし、これはもうやるしかないという感じでした。
泉:何も考えずに承諾してしまったので、メンバーに誰がいるとかそんなことよりもこの状況で何ができるのか? みたいなところが大きかったですね。メンバーと合う、合わない以上に、自分は何をすればいいんだろう? と思ったし、最初はただ言われるがままにやってました。考えてみれば会ったこともないし、知らない人だよねと後からじわじわ感じましたけど、最初はとにかくやれるだけのことやるしかなかったですね。