リビングにファンシーグッズがひしめき合う謎
──泉さんのアイディアが脚本に活かされるようなことはありませんでしたか。
泉:私が唯一提案したのは、「恋愛要素を入れませんか?」ということでした。今まで私が演じてきた作品はどれもアイドルものだったり、リアルな女の子というよりは夢に向かって頑張っている女の子像が多かったので、さらにより広くこれを観てくれたいろんな女の子が自分を投影できるような役がいいなと思ったんです。私の場合、どうしてもアイドルとしてのイメージが強いみたいで、そういう役をオファーされることが多かったんですよ。だから今までやったことのない役を演じてみたいと思って恋愛要素を入れませんか? と提案したんですけど、自分から提案してみたものの、演じたことのないタイプの役だったから男性と目を見て話すのが意外と緊張するんだなと思いましたね。この近い距離で男性と喋るのか!? っていう緊張感がずっとありました(笑)。
──アイドルではない役を望んだものの、泉さんが今回演じたマリ・インフィニティーはコロナ禍でデビューの機会を失ったアイドルという設定ですよね。
泉:はい。結局はアイドルなんですよね(笑)。私のなかではいちアーティストというイメージで、恋愛もするし、プライベートも大切にするし、夢も追いかけるし、みたいな女の子を演じたつもりなんですけど、私が演じるとどうしてもアイドルの方向になっちゃうんですね。
──まあ、マリ・インフィニティーのデビュー・シングルからして『ハート♡キュート IGNITION!』というタイトルですしね(笑)。撮影初日に初顔合わせをしたとなると、名嘉真さんは泉さんの当て書きをしたわけではないということですよね。
名嘉真:そうですね。ただその時点ですでにZOOM会議を4、5回はしていたので、声の感じや表情といったある程度の想定はできました。台本の読み合わせやリハーサルを一切しないで撮影初日を迎えたので、当日まで出演者がどれくらい演技ができるのかは全くの未知数でしたけど(笑)。
──劇中で時間軸が交錯してコロナ禍前の世界になったり、虚実が入り混じったファンタジー映画としても楽しめる作品だと思いますが、ツッコミどころもいくつかありまして。たとえばマリ・インフィニティーの寝室が畳部屋なのにリビングルームはコンクリート打ちっぱなしのデザイナーズマンション風だったり、そのリビングになぜか白虎隊のタペストリーや所ジョージのぬいぐるみ、その所ジョージが「泣かせる味じゃん」とナレーションしたサントリーのCMつながりなのか『ペンギンズ・メモリー』のペンギンの水筒が置いてあったり、まるで80年代の中学生の部屋みたいな内装が目について物語がすんなり入ってこないところがあるんですよね(笑)。
名嘉真:あの内装は狙いというわけでもないんですけど、撮影場所も限られてくるので、いまUsuiさんがいらっしゃる音楽スタジオをマリのリビングとして使うことにしたんですよ。
Dr.Usui:そう、この僕の仕事場であるスタジオを撮影に使ったんです。[撮影当時と同じく白虎隊のタペストリーが壁にかかっている]
名嘉真:最初の段階では白虎隊のグッズはなくて、単なるコンクリートの打ちっぱなしだったんですよ。でもそこをリビングにしなくちゃいけないということで、部屋の装飾をする背景美術のスタッフを入れましょうという話になったんです。そこで白羽の矢が立ったのが山下メロさんというファンシー絵みやげと平成レトロを研究されている方だったんです。山下さんにお願いできるなら思いきりやっていただこうということで、山下さんの思うがままのリビングを作っていただいたという感じです。
Dr.Usui:山下メロ君は実はこの近所に住んでいて、後ろに掛かっている白虎隊のタペストリーみたいなファンシーグッズが自分の部屋に溢れかえっているらしいんですよ。だから僕の部屋に置かせてもらえるとありがたいということで、このままにしてあるんです。ここへレコーディングに来るアイドルの子たちがよく記念撮影してますね(笑)。
──マリ・インフィニティーが劇中でパンの耳を食べているのは、コロナ禍で生活に困っているのを演出するためですか。
名嘉真:その通りです。ワンカットでお金に困っている様子を表すにはどうすればいいかと思って。あと暗くて分かりづらいんですけど、家賃の督促状も一瞬映っているんです。その2点で貧乏感を出そうと(笑)。住んでいる部屋がわりと高級感があって、以前は良い暮らしをしていたけど今はコロナ禍で仕事が減ってお金に困っているという設定ですね。
Dr.Usui:寝室とリビングが分かれている、すごく良いマンションに住んでいるという設定なんです。
名嘉真:実際は別々の場所なんですよ。あの寝室は今いる僕の事務所の一室なんです。Usuiさんのスタジオにベッドや布団を持ち込んで寝室にする準備ができなくて、寝室は場所を変えることにしたんです。
──泉さん以外のお三方がそれぞれポーズをキメて木陰からマリ・インフィニティーを見守るシーンもツッコミどころの一つだと思ったのですが(笑)。
名嘉真:あれは僕の趣味ですね(笑)。ちょっと漫画的な演出が好きなので、木陰から主人公を見守るシーンを撮ってみたかったんです。
──あのシーンはどこで撮影されたんですか。
Dr.Usui:三鷹市内のとある公園です。
名嘉真:Usuiさんのスタジオから徒歩で行ける距離なんです。
Dr.Usui:結果的に三鷹と中野で撮影を済ませましたね。
名嘉真:2日間ですべてを撮り終えなければいけなかったので、Usuiさんと僕の活動区域周辺で済ませました。