ロックンロールに一番大切なのはやり続けること
──「夜が明けるまで(パンパンパンク)」は、平易な言葉と親しみやすいメロディで楽しいロックンロールをやり続けるマモルさんの姿勢に一切のブレがないのを証明するような曲でもありますね。
マモル:ロックンロールに一番大切なのは、やり続けることなんですよ。同じ温度を保ってやり続けること。それ以上に大切なことはないんじゃないかな。でも続けるってことは、無理やりには続けられないんです。ちゃんと曲を書けるバックボーンがないと続けられないし、環境や体調が整っていなければ続けられるものも続けられない。ロックンロールを10年、20年と続けていけばいくほど、自分のなかにある音楽好きな部分がすごく大事になってくるんです。いまは昔よりレコードを買ったり音楽を聴く時間も減ったけど、若い時は毎日寝る前に必ず音楽をかけてたんですよ。グレリチの時もツアーの移動中にずっと気に入った音楽を聴いてましたからね。カーステレオのテープが擦り切れるくらいに。そういう当時聴いてた音楽が僕のなかに入り込んでるし、すごくいい経験をしたなと思ってるんです。
──30年以上ロックンロールをやり続けているマモルさんが、ほんのわずかの1センチでも1ミクロンでもいいから自身の記録を更新しようと「ハードル」のなかで唄っているのが素晴らしいですね。いまなお諦めないでコツコツと伸び代を広げようとしているわけですから。
マモル:何か大きなことをやってやろうとか、世紀の名曲を作ってやろうとか、そんなことを考えていたら続けられないと思うんですよ。出てきたフレーズがキンクスのあの曲に似てるなと思っても、それを自分の言葉で唄えるならいい。僕のなかに蓄積されてきた音楽は隠しようがないですからね。ただ、そうやって影響を受けた音楽もホントに守備範囲が狭いんですよ。63、4年から78、9年くらいまでのイギリスの音楽だけだし、そこにちょっとブルースやソウルのテイストが入る程度なんで。だけど、僕が好きだった60年代、70年代のロックンロールやパンクはすごく濃密なものだったし、すごいエネルギーに満ち溢れてましたよね。
──それ以降の80年代、90年代の音楽と決定的に違うのはエネルギーの差なんでしょうか。
マモル:それもあるし、僕は多感な高校生の頃にパンク・ロックとかドクター・フィールグッド、エルヴィス・コステロなんかを聴いて、あの時の衝撃がいまだに忘れられないんです。と言うか、あの時に受けた衝撃のままいまも音楽をやり続けているんです。
──高校生の頃に受けた衝撃をずっと維持するのも一つの才能じゃないですか?
マモル:いや、ただ単にバカなんじゃないですかね?(笑) それと、それくらいクラッシュやラモーンズ…ラモーンズはニューヨークだけど、あの時代のバンドは影響力がすごかった。そう感じているのは僕だけじゃないと思いますよ。まぁ要するに、そういうバンドに衝撃を受けて、いまもずっと音楽が好きでやり続けてるだけなんです。もっと他のことにも気を使えばいいのにと自分でも思うけど、1年というサークルでやれるのはいまのスタイルが精一杯なんですよ。
──あと何年くらいいまのペースで音楽活動ができるか考えたりすることはありますか。
マモル:たまにね。70くらいまでできたらいいなと思うけど、いつまで続きますかね。それはどんな曲が出てくるか次第かな。とりあえずあと2枚くらいは大丈夫だと思います。いまも脳内レコーディングではいくつか曲があるし、旅の途中でも曲のアイディアが浮かんでくるんですよ。旅を続けることでいろんなことを吸収できるし、それが無意識のうちに曲に反映されることもあるし、やっぱり旅は面白いですね。
──まさ音楽漬けの人生真っ只中なんですね。
マモル:ホントにね。特にこの10年でそんな感じになったんでしょうね。
ストロング級のバカには誰もかなわない
──マモル&ザ・デイヴィスは、グレイトリッチーズの後期のベーシストだった福島誠二さんが加入したんですよね。
マモル:そう、去年の7月からね。誠二くんは勘がいいからすごく面白いですよ。彼はフールズをやってきてジャム・セッションに鍛えられてるから、僕とのやり取りも呑み込みが早いんです。ノリも合うしね。
──マモルさんのなかでは、バンドとソロ弾き語りの両輪があるからバランスを保てているところもあるんですか。
マモル:バンドだけだといろいろ大変だしね。お金にしなくちゃいけない現実的な部分もあるし。でも母体となるバンドがないのはものすごく寂しいんですよ。セッション・バンドじゃなくて、母体のバンドが僕にはどうしても必要なんです。それも一つのこだわりで、気の合う仲間を集めて自分の表現したいことをやりたいんですよ。歳をとってくると音楽から離れていくヤツもいるし、みんなのスケジュールを調整するのもなかなか大変なんだけど、自分の母体となるバンドをやり続けるのは絶対に譲れないんです。その母体のバンドがあって初めてソロをやれるんですよ。
──そう言えば、「MAGIC TONE RECORDS」が10周年を迎えるにあたって、第1弾として発表されたドクター・フィールグッドのトリビュート・アルバム『ニッポンのロックンロール 〜DR.FEELGOOD TRIBUTE〜』が再発されるそうですね。
マモル:在庫数がもうだいぶ少なくなったので、再プレスすることにしたんです。自分にとっても思い入れのある作品だし、久しぶりに聴いてなかなかよく出来てるなと思ったんです。それで、せっかくトリビュート・ライブの音源もあることだし、その未発表音源を特典CDにしちゃおうと思って。これを機にトリビュート・アルバムを持ってない人にも聴いてもらえたら嬉しいですね。
──ところで、今年の4月7日も我が下北沢シェルターに出演していただきますけど……。
マモル:今年は『リーブリロー追悼ライブ』をやらないんですよ。
──そう、マモル&ザ・デイヴィスもTheピーズも出演するのに、なぜブリロー追悼じゃないんだろうと思ったんです。
マモル:別にどうってことはないんですけどね。まぁ、もうそろそろいいんでねぇの? ってことで(笑)。またいつか追悼ライブをやりたくなったらやればいいし。ホントの意味で追悼の気持ちがあったのは亡くなってからの数年で、あとは自分たちがフィールグッドのカバー・バンドをやるのが楽しかったんですよ。でも、それがだんだんと自分のオリジナルをやるほうが楽しくなってきたんです。いまはデイヴィスの4人でライブをやってるのが無性に楽しいんですよ。それは誠二くんがバンドに入ったことが大きいですね。なんて言うか、彼がいると化学反応が起こりやすいんです。いままでさんざん不良に鍛えられ続けたからかもしれないけど(笑)。
──以前、マモルさんがツイッターで「ホントに人生が楽になってきた。楽しくロックンロールができればそれだけでいいんだから楽チンなのだぁ〜」とつぶやいていましたが、肩肘張らずに伸び伸びと音楽をやれているのが如実に窺えますね。
マモル:アルバムを作ってツアーをやって、それだけでもう目一杯なんで、悩んでる暇がないんです。たぶん暇になったらろくなことを考えないだろうし、悩み事だらけになるんじゃないかな(笑)。だからいまくらいの忙しないペースがいいのかなと思うんです。
──余計なことを考える余裕もなくロックンロールに没頭できているわけですから、こんなに幸せな人生はないですよね。
マモル:ホントに自分のやりたいことをやらせてもらえてますね。ただ単にわがままなだけかもしれないけど。
──だけど、ちゃんとした信念がなければわがままも通らないじゃないですか。
マモル:それを全部ひっくるめてバカって言うのかもしれませんね(笑)。
──40年以上ロックンロールを溺愛し続ける筋金入りのバカには誰もかなわないということで(笑)。
マモル:まさにその通りです。それが「ストロング」につながるのかもしれない。ストロング級のバカ=ストロングバカ。それをインタビューのキャッチコピーにしといてください。「ストロングバカには誰もかなわない」って(笑)。