MONOBRIGHTが5枚目となるフルアルバム『新造ライヴレーションズ』を10月10日にリリースした。今作はレコーディング・ライヴという方法で、全曲新曲のアルバムをライヴでレコーディング。この際に、お客さんをメンバーとして迎え"MNB480"を結成。他に類を見ない大所帯のバンドとなり、たくさんの人の思いが詰まった作品となった。また彼らの憧れであったbloodthirsty butchersの吉村秀樹、田渕ひさ子両氏を迎えた楽曲も収録。この作品が完成し、自信と度胸を身につけて、きっとこれからの彼らの活動がより個性的に、そして活発になっていくのだろう。そう思った矢先、ヒダカトオルの脱退が発表された。そうして、ヒダカが在籍するMONOBRIGHTのラストアルバム、そして11月にはラストシングルとなる『ムーンウォーク』をリリースし、11月からはラストツアーを行なう。
ヒダカの加入後、MONOBRIGHTが劇的に変化したことは確か。今後4人になった彼らがどのような活動をしていくのか楽しみでもある。今回はヒダカ氏のいる5人のMONOBRIGHTラストインタビューを敢行した。(interview:やまだともこ)
レコーディングとライヴをどう両立するか
── まず10月にリリースされた『新造ライヴレーションズ』のお話から聞かせて下さい。今回レコーディング・ライヴという方法でレコーディングをされましたが、これは以前から考えていたことではあったんですか?
桃野陽介(Vo,Gu):昨年リリースした『ACME』のツアーが終わって、次何をやろうというアイディア会議をスタッフを交えてした時に、「ライヴでレコーディングするのが面白いんじゃないか」という案が出たんです。そこから構想1年。曲作りだったり準備をしていきました。でも、決まったはいいけど、どうやればいいかという不安はありましたね。普通のレコーディングとは違うし、お客さんにもやって欲しいことがあったし、どうやってレコーディングをライヴとして成立させるかという部分と、あくまでレコーディングというところの集中力と。そのためには僕たちの技術をまず磨かなければならなくて。
出口博之(Ba):今年の3月3日に下北沢CLUB Queで全曲新曲ライヴというのをやった時に、手応えとしてレコーディング・ライヴが出来るなと思ったんです。そのあとにTHEラブ人間や四星球、bloodthirsty butchersとツーマンツアーをやらせてもらい、その中でブッチャーズ先輩とは新しい曲を作り、全部で40曲ぐらい作った中からライヴで演奏してジャッジしていきました。
── よくCDの後半に収録されているライヴ・レコーディングと、今回のレコーディング・ライヴはどう違うんですか?
ヒダカトオル(Vo,Gu&Key):ライヴ・レコーディングはライヴの音を録音しますけど、'70年代、'80年代にジョー・ジャクソンとか、ジャクソン・ブラウンとかフランク・ザッパとか海外のアーティストが公開レコーディングをしていて、そこのイメージに寄せた感じです。レコーディングスタジオにお客さんを入れてるつもりというか。だから間違えたら録り直しもするし、歓声を入れたくないところは静かにしてねというのはそういうことです。
松下省伍(Gt):新曲をライヴでレコーディングするというのがあまりないんですよ。
ヒダカ:日本でもほとんどないんじゃないかな。矢沢永吉さんや山下達郎さんが一発録りでとかはありますけど、まるまるは村八分以降そんなにないと思う。
── 普段のレコーディングはスタジオで話し合いをしながらやっていくことが多いと思いますが、お客さんがいるというところでテンポよくやらなければというプレッシャーもあったと思います。
桃野:ライヴとして成立させなきゃいけないし、どう楽しませるかというところで、バランスが難しかったですね。
出口:どっちのテンションにいったらいいかというのは当日まで精査していた部分でした。最初にこの企画が決まった時に、海外のレコーディング・ライヴをやったバンドを参考にしたり、過去の名盤だったり、ロックの歴史をみんなで勉強し直したんです。数多くの名盤がある中で、例えばMC5やジョー・ジャクソンは、どちらもライヴをやりながらのレコーディングなんだけど、テンションがそのままパックされているものと、綿密に作られているものと、アプローチの仕方が真逆なものもあって。それを曲毎にバランスよく配置していけたら良いねと、テンション感だったりを含めて、いざ出ていって音を出すまでどうなるのか掴みあぐねる部分はありましたね。
── 実際レコーディング・ライヴをやって、いかがでしたか?
桃野:1年の構想があってリハをやりこんでも未知の部分が多いなと思いました。それはライヴが持つ特有の空気感だったりお客さんのノリだったり、予想外のことが起きましたね。レコーディングということでお客さんも構えるんじゃないかと思ったんだけど、普通にライヴを楽しむ感じだし、やれることはやるよという雰囲気を感じました。
ヒダカ:合わせてくれたよね。
桃野:すごく協力的で、こんなにやりやすいんだと思いましたし、コーラスやクラップを入れてもらいたいところがあったので、1曲1曲説明しながら出来ました。もともとライヴで1回聴いたら理解してもらえる曲というのも意識してましたし。
ヒダカ:こんな企画、'80年代のロフトでやったらシーンですよ(笑)。
松下:シーンとなることを想像していたんですよ、本当は。だから嬉しい誤算だったというか。こっちは緊張してたけど、お客さんは全然(笑)。
瀧谷翼(Dr):ドラムは直しが効かなくて一発勝負なので、お客さんの煽りはメンバーに任せて集中してドラムを叩くことが出来ました。
ライヴで起きる衝動を入れたかった
── CDにもライヴの勢いだったり雰囲気はちゃんと詰め込まれていましたね。
桃野:音楽の衝動が一番詰まってる場所ってライブハウスだと思うんです。お客さんも僕らもライブハウスに来るまでにいろんな思いがあって、お互いのテンションがぶつかり合うというのはライヴでしかない衝動だし、それが入ったことで他のアルバムに比べて格段にかっこいいものになったし、エネルギッシュなものになったと思います。ライヴで起きる衝動を入れたかったんです。
── アウトロの歓声を入れたくないところで、「静かにしてください」というボードは掲げられてましたが、誰かがうっかり声を上げてしまってもおかしくないのに、すごく協力的だなぁというのはその場にいて思いました。
桃野:そこも意外でしたよね。「静かにしてください」って言っても、僕らみたいなバンドだったらフリみたいにも感じるじゃないですか。ちょっと喋っちゃおうかなって(笑)。
── 来場した人がメンバーだということを自覚していたというか。お金を払って入場しているけど。
ヒダカ:それはメンバーになり料ですよ(笑)。
桃野:逆に言うと2000円でMONOBRIGHTになれるんだってことですよね(笑)。
── 『ソシアル』はブッチャーズの吉村秀樹さんとの共作となり、ギターで参加、田渕ひさ子さんはコーラスで参加されてますが、贅沢ですよね。
桃野:吉村さんは北海道出身の僕らにとっては憧れの存在で。でも僕らが札幌で活動していた時にはブッチャーズは東京で活動していたので、伝説だけは聞いてましたけど雲の上の存在だったんです。
松下:レジェンドですよ。
桃野:ヒダカさんに連絡先を教えてもらって、2人で一緒に飲むところからツアーを実現させて、自然な流れで一緒に曲を作れたのは嬉しいし、自信にも繋がりました。これを機に対外的にコラボが出来るというのは道になったと思います。
── 吉村さんのギターとこんなに合うんだという発見もありました。
ヒダカ:吉村さんはだいぶ気を使ってくれて、いつも使っているマーシャルじゃなくて、マッチレスのアンプを持って来てくれたんです。「これどうしたんですか?」って聞いたら「後輩から…」って。後輩からどうしたんだろうって思ったけど、聞きすぎると俺のも借りられちゃうんで黙ってましたけど(笑)。
── 田渕さんのコーラスも、女性が入ることで曲の表情が豊かになりましたね。
ヒダカ:田渕さんが、ブログに“「コーラスだけでどうしたら良いかわからない」って言ったら、ヒダカさんに「プロなんだからしっかりしてって怒られた」”って書いてて、怒ったんだったかなって思いましたけど(笑)。文面だけ見るとすごい怖い人に見えちゃう…おたくのバンドのボーカルのほうが怖いんですけどって(笑)。
── 田渕さんからしたら、ギターを持ってないのは手持ち無沙汰だったんでしょうね。
桃野:本番中ひさ子さんどうしてるんだろうって見たら、ちょっと弾いてましたね。ちょっと弾いてるっていうのがかわいらしかったです。