絶えず表現をしなければ「生きてる意味がない」
──卓偉さんのアルバムでの共演だけではなく、東名阪のアコースティック・ツアーでお2人の共演が実現するのもそういう季節が巡ってきたということなんでしょうね。
卓偉:最初は新宿ロフトの35周年記念ということで話を頂いて、それならせっかくだから名阪も回ろうということになったんです。ホントに夢みたいな話ですよ。すごく嬉しいです。
森重:まぁ、まだ何の打ち合わせもしていないんだけどね(笑)。
卓偉:この対談の後にいろいろと話をさせてもらおうかなと。僕は大先輩の胸を借りる思いで臨むつもりです。アコースティックだからと言ってしんみりする感じになるのではなく、切ないバラードを唄ってもお客さんをハッピーな気持ちにさせられるようなライヴにしたいですね。
森重:以前、THE PRODIGAL SONSとしてSIONさんと一緒にツアーを回ったことがあって、あの時にSIONさんがギターの松田文さんと2人でやっていたことが自分の中ではすごく大きくてね。2人の歌とギターが、自分にはバンドよりもむしろハードに聴こえたって言うかさ。アコースティックであるがゆえにね。
卓偉:分かりますよ。ハートをダイレクトに揺さぶられますよね。
森重:そうそう。あの感覚を大切にしたいんだよ。アコースティック・スタイルって、みんなが思うような落としどころじゃない表現の術になっていくような気もするしさ。バンド形態のすごさももちろんあるんだけど、アコースティックは表現の可能性が限りなくあるし、自分次第で何とでもなるからね。音のでかさでは計り知れない魅力があるし。
卓偉:意外とパンクなんですよね、アコギって。
森重:楽器としてはメロディを奏でるものでもあり、打楽器的でもあるからね。キザイア・ジョーンズなんて、ギターって言うよりもパーカッションみたいな時があるしさ。自分で枠組みさえ作らなければいろんな表現ができるのがいいよね。そのミニマムなスタイルでどこまでも行けそうな気がするし。今度のツアーはSIONさんが文さんとやっていたスタイルを踏襲して、自分は立って唄ってみようと思って。あの時のSIONさんの歌声がすごくハードで感銘を受けたからね。
──お2人の今後の予定はどんな感じですか。
卓偉:今年はずっと独りで弾き語りツアーを続けていて、行ける所にはできるだけ行こうと思っているんです。今年に入ってからすでに20本くらいを終えて、今後は東北、北海道、東海、中国、北陸と11月まで回ります。その合間に森重さんとツアーをやれるのは感慨深いですね。ずっと独りでアコースティック・ツアーを続けていくことにも大きな意義があるんですけど、森重さんと一緒にライヴをやることで大きな花を持たせてもらったと言うか。森重さんはもう次のアルバムの準備に取りかかっているとさっきスタッフの方から伺いましたけど。
森重:アコースティックの次はエレクトリックでもう1枚作ろうと思ってる。とりあえず年末までにツアーは決まっているんだけど、ソロ・バンドの面子はそんなすぐには決まらないだろうね。いろんな人たちとやってみる必要があるし、ソロのシンガーの立ち位置ってなかなか難しいんだなと実感したよ。だから、中島卓偉はすげぇなと思ってさ(笑)。
卓偉:いやいやいや、何を仰いますか(笑)。
森重:いわゆるオールスター・バンドにするとかいろんな方法論があるけど、今はソロとしてどうやってバンドとぶつかっていくのかを模索している段階なんだよね。俺は基本的にバンドのシンガーだと思うし、メンバーとの関係性の中で生まれる自分の表現がすごく大事だから、いろんな人たちとお手合わせ願いたいんだよ。まぁ、かと言って道場破りをするほどの根性もないんだけどね(笑)。
卓偉:じゃあ、ちょっと気が早いですけど、来年はバンド・ツアーをジョイントでやりますか!(笑)
森重:それもいいね。俺が今関心があるのは、CDがこれだけ売れない時代にロックが何を提示できるのか? ってことなんだよ。自分が子供の頃に夢見たロック・スターって何? って言うかさ。そういうのを自分なりに問いかけていきたいし、それを真摯に体現している卓偉みたいなミュージシャンとコラボレーションさせてもらって形にしていくのはとても有意義なことだと思う。
卓偉:とんでもないですよ。僕はティーンエイジャーの頃から森重さんに教えてもらったことがあまりに多すぎるので、それを次の世代に返さなきゃいけないと思っているんですよね。
森重:俺は上の世代がやってきたことを盗み見したクチだけど、そこで得たものは自分のためじゃなくて下の世代に伝えなくちゃダメだよね。俺はやっぱりあらゆる音楽形態の中でロックが一番格好いいと今でも思っているし、その格好良さを知っている人間として、どこかで心が折れて自分の気持ちや信念を伝えきれなかったら負けだなと思うんだよ。
卓偉:うん、ホントにその通りですね。
森重:ロックが如何に格好いいのかは自分にとってすごく大きなギフトで、それがあったからこそこの歳までずっと唄い続けてこれた。そのギフトを、卓偉は中学生の頃にZIGGYを通じて受け取ってくれたんだよね。俺たちがやっていたバンドに影響を受けた人がこんなにすごい表現者になったわけだから、純粋に嬉しいよ。
卓偉:ロックンロールは継承していく文化だと僕は信じているんです。ロックのDNAが絶えることはないと思うし、自分が好きだったもの、影響を受けたものをリレーしていく感覚があるからこそロックは成熟してきたんだろうし、それに伴ってテクノロジーが発達して記録メディアが更新されてきたわけですよね。4トラック・2チャンネルしかなかったレコーディングが徐々にトラック数が増えて、アナログ・テープがデジタルになって。でも、誰もが簡単にレコーディングできる便利な環境になると無料ダウンロードの時代になって、みんなそこで迷うわけじゃないですか。僕がさっき言った「アコギ縛り」というのは、そういうテクノロジーの進化の果てを自分なりに考えた上での選択でもあったんです。使える手段を敢えて狭めたって、今でもいい音楽を絶対に作れるはずだと思って。ビートルズを始めとする60年代のバンドは拙い機材で作業をしていたわけですからね。それと、自分がかつて影響を受けてきた音楽って何だったんだろう? と振り返ることで簡単に扉が開け放たれることもあると思うんです。そうやって文化を受け継ぐリレーがロックの土壌から消えないで欲しいですよね。
森重:これからもしっかりと伝えていかないとね。表現することをやめなければ、誰かがどこかでそれを得る機会がある。俺はその役目として表現をし続けているんだよ。そうじゃなければ、卓偉の歌じゃないけど「生きてる意味がない」。俺自身が格好いいと思うことを簡単に曲げたらまるで意味がないからさ。でも、今は卓偉がそれを下の世代に伝えようとしてくれているから頼もしいし、やっぱり俺にとって「自慢の後輩」だよね。