2010年11月、MONOBRIGHTに新メンバーが加入(結婚)したことが発表された。そのお相手が一回り以上も年齢が違う姉さん女房・ヒダカトオルだというから驚きだ。何をするか予測不可能なMONOBRIGHTだとは思っていたが、これはまさかの展開である。しかもできちゃった婚だそうで、早くも生み出された第一子がミニアルバム『淫ビテーションe.p.』となる。プレイボタンを押し、1曲目はThe Turtlesのカヴァー『HAPPY TOGETHER』。ウエディングムード漂うサウンドに乗せて聴こえてきたボーカルは、なんとヒダカ氏!! 驚きの連続でどうにかなっちゃいそうだ。
前作『ADVENTURE』で変化と進化を遂げた冒険者達が最強の武器を手に入れて歩み始めた今作は、文字通り"招待状"となるべく、間口の広い音楽として多くの人を受け入れる作品となっているだろう。
今回は新婚ほやほやの彼らにお話を伺う事ができた。(interview:やまだともこ)
変化を望んでいた
── 2010年のニュースの中では上位にランクインしますよ。まさか、ヒダカさんがMONOBRIGHTに入るとは思ってもいなかったですから。本当は随分前から決まっていたんですか?
ヒダカトオル(Vo,Gt&Key):そのせいでビート・クルセイダースが散開したんです(笑)。
桃野陽介(Vo,Gt&Key):いやいやいやいや! 全く決まってなかったです。次に出す予定の4th アルバム『ACME』を、これまでとはガラッと変えたいという時に、ビート・クルセイダースが散開するとは聞いていたのでディレクターから、「ヒダカさんをプロデューサーに迎えるってどうだろう」っていうアイディアが出たんです。でも、プロデューサー業は他にもやっているし、メンバーになってもらうほうがおもしろいんじゃないですかねって言って、それをヒダカさんに言ったら二つ返事でいいよーって言ってもらって。
ヒダカ:ものっすごいヒマだったからね(笑)。6/6に散開を発表して3ヶ月ぐらいはビート・クルセイダースのライブしかやることがなくて、どうしようかなという時に話が来たんです。メンバーとはプライベートでも仲が良かったし、同じレコード会社だったから、デビュー前の2007年に新宿ロフトのライブを見てアドバイスして欲しいと頼まれたこともあったりして。
桃野:あのライブは、手応えゼロでしたね(笑)。当時わりと卑猥なことをライブで連呼する系だったので、対バンのお客さんがドン引きという状況で…。
ヒダカ:若さなりの青さをぶつけようとして、ミイラズのようになるのかなと思いきや全然ダメだった(笑)。そこから個別にアドバイスしたり、飯喰わせたりして、面倒見ていたんですよ。これまでも、イッソン(磯部正文)やゴーイング(・アンダーグラウンド)などプロデュースはやっていたんだけど、加入したらこれまでのプロデュースワークとは差別化できるし、MONOBRIGHTはメジャーのシーンでポップでマニアックで、だけど誰でも聴けるという間口の広さがあって、話が来た時にハマるだろうなと思ったんです。散開インタビューの時にジョークでストレイテナーに入るとか言っていたんですけど(笑)、MONOBRIGHTが一番収まりが良いなと思ったし。
── 診断メーカーの“加入しちゃったー”では、「エルレガーデンに加入するかもしれません」って出たんですよね。
ヒダカ:そうそう(笑)。エルレもハマリは悪くないと思うんですけど、残念ながら今は活動休止中ですから。
── となると、今回の『淫ビテーションe.p.』は5人になって初めて作ったものになるんですか?
桃野:『ACME』の制作が先です。それが濃厚なアルバムになったので、挨拶程度のミニアルバムをヒダカさん加入と同時に出そうっていう『淫ビテーションe.p.』です。
── その1曲目『HAPPY TOGETHER』は、ボーカルをヒダカさんが執っていていきなり驚かされましたが。
桃野:みんなが一番不安に思っている要素を自らやってみました。
── ヒダカさんが加入された時に「MONOBRIGHTが乗っ取られる前に聴いてみて下さい」とおっしゃってましたけど、完全に乗っ取られたなって少し思いましたよ(笑)。
松下省伍(Gt):敢えて乗っかってやれって(笑)。
桃野:MONOBRIGHTが5人編成になって、ヒダカさんが入ったニュアンスをどんどん広げていくというミニアルバムにしたかったんですよ。だから、前作の『ADVENTURE』でも実験的なものは入っているし、今までやってないことをやろうというスタンスも変わらないし。MONOBRIGHTのスタンスを変えずにヒダカさんという要素が良い感じに混ざったのが今回のミニアルバムです。
── ヒダカさんという要素はすごく強いですよね。
桃野:そこは素直に強い要素として受け止めて良いし、僕らもそのぐらいの変化を望んでいたし、的を射た感じにはなりました。
向かう先が明確になった
── 『スロウダイヴ(FOREPLAY ver.)』のFOREPLAYの意味がわからず大きな声で会社で聞いてしまい、かなり恥ずかしい思いをしましたが、ヒダカさん加入で下ネタ入れちゃうようになったのかと思いました…。
桃野:もともとはそういう部分もあったんです。でも、白ポロメガネで清い感じとか真面目だと捉えられていたと思うんですけど、本当はもっとゲスいよっていうのをシンプルに。ヒダカさんが入ることで、その要素をはっきり見せられるようにしたいと思っていた部分もあって。
ヒダカ:2007年に初めてMONOBRIGHTを見た時から、メガネとポロのせいもあって、ユーモアはあるんだけど真面目なインテリバンドに思われがちだなと思ったんです。トンネルを掘るスキルがあるんだけど、どっちに向けて掘って良いのかわからない、不器用な田舎の普通の良い子たちっていうか。こっちはアイコン感をお面でやっていたし、下ネタも入れていたし、要領をわかっていたから、音楽からユーモアまでうまく開通できるんじゃないかって。
── となると、ヒダカさんのアドバイスも多いんですか?
桃野:曲自体は僕が書いているので、曲によってはいろいろありますけど、ヒダカさんにはプロデュースという目線でも見てもらっているという感じです。
ヒダカ:外部プロデューサーというよりは、プレイングマネージャーに近い。ヤクルトで言う古田感ですね。
── 一回り以上離れていると、気を遣うんじゃないですか?
ヒダカ:これだけ違うと逆にラクですよ。主従関係ははっきりしてるから(笑)。
桃野:今までの音源も聴いてもらっているし、僕らが意図しているものを既に掴まれているから抵抗も何もない。メンバーだからって慣れ慣れしくなるわけでもないですし。どう考えてもヒダカさんは僕らより場数を踏んでいるアーティストなので、無理して対等になろうというよりは学ぶもののほうが多いですね。
── 『旅立ちと少年2』は新しいMONOBRIGHTになった感じが表現されてますね。
桃野:『旅立ちと少年2』は象徴的な曲になりました。もともとミニアルバム『あの透明感と少年』で『旅立ちと少年』という曲を出していて、それが4人の自然な姿で作る楽曲だったんです。
ヒダカ:その続編的な曲ができたので、プロデュースするにあたり4人のテイストにBPMを上げるとか音圧を上げるとか、ビート・クルセイダース的手法を取り入れればもっと輝くんじゃないかってやってみたら本当に良くて、ミックスして初めてみんなで聴いた時の感触が良かったんです。
桃野:しっくり感がすごくあって、そういう意味で一番象徴的だし、わかりやすいMONOBRIGHTの進化も見せられる曲ですね。
── もっといろんなことができるようになった感じですか?
桃野:広げていく作業を2010年にやっていて、その延長線上に加入があってグッと広がったということだと思います。
── 向かう先が明確になった感じはあります?
桃野:『ADVENTURE』をリリースした時に男らしさが足りないなって思ったんです。その男らしさって、パンクの要素なのかなと思った時に、僕ら全員パンクと言ってもメロコアというか、グリーン・デイ以降のものしかリアルタイムでは感じられてないんですけど、パンクって精神性のものだったりするじゃないですか。その精神性のパンクというかロック感というのを学べるというのが一番良いなと思うんですよ。
ヒダカ:まさにRooftop的なね…たまにロック過ぎて引くもんね(笑)。そこをうまくミックスしてあげた感じ。
── うちはミックスできてないんでしょうね(苦笑)。
桃野:僕らもこれぐらい偏った方向を見せられればいいんですけど、ポップなものとか大衆的なものとかを意識していたりして、尚かつ音楽したいという気持ちから今回の方向はすごく見えました。
── 歌詞がすごくわかりやすくなったのも、間口が広がったと感じるひとつでもありますよね。
桃野:そこは作っていく流れで自然にわかりやすくなっていったと思います。『California Sun, California Rain』は、ヒダカさんの曲に歌詞を付けるとか、人のメロディーに歌詞を付けるというのはやったことがないので、詞でのひっかかりを自然と意識した部分はあったかもしれませんが、基本はそんなに変わってない。
ヒダカ:ウィキペディア見ながら歌詞を書いたからね(笑)。
── なんでウィキペディアで調べてまでカリフォルニアを歌いたかったんですか?
桃野:仮唄の段階でカリフォルニアがはまっていて、それを絶対に使いたいと思ったし、それ以外にはまる言葉がなかった。僕ら世代にありがちな、ストーンズをアメリカ人だと間違えるという要素をユーモアにして。
── 4曲目の『この人、大丈夫ですか』は初のストーカーソングだそうですが、曲は和風スカと言った感じで面白い曲ですよね。
桃野:ザ・スペシャルズの要素をヒダカさんから注入してもらい、楽曲が陽気だから歌詞はどぎつくても良いんじゃないかって実験です
ヒダカ:スペシャルズとかの2トーンは聴いた事があってもやったことがない。でもスキルはあるから、やればできちゃうんです。
桃野:『monobright two』に入っている『踊る脳』のスタンスに近い曲ですね。