2023年3月、プーチンが突然やってきたセヴァストポリ。2004年にロシアが自国マークをつけず謎の集団として侵犯してきたクリミア半島、そして2018年に自分も訪れ、ヤルタからセヴァストポリの市議会にまで顔を出し、ライブもやらせてもらってきたロシア黒海艦隊の本拠地セヴァストポリ。
そのプーチンがどういう意図で突然クリミアを訪れ、セヴァストポリに顔を出したのかは知るところではないが、自分の歩いたところ、所在したところ、そのところどころがニュースの中でプーチンと一緒に映像に入ってくる。もちろん自分が領土問題に口を挟むところはなく、そんな権利も街の歴史、事情さえもわかっていない自分が、街の人たちと挨拶を交わす笑顔はないプーチンの姿を見ているのが、どこか夢を見ているような気持ちになってくる。
かつて東ローマ帝国の時代から、モンゴル、オスマン帝国、イギリス、フランス、ドイツに至ってはあのカール砲などの巨大砲弾を打ち込まれ、ウクライナ、各方面から攻められ土地を奪い合われたクリミア半島の要塞、要地セヴァストポリ。自分が行って驚いたのは、自分たちが教えられたクリミア戦争の中の弾丸をかいくぐって兵士たちを看護したと言われるナイチンゲールの話など一切出ず、まずその名前さえみんな知らないことだった。通訳のニコライにそれを尋ねると、笑みもなく即答で、「あの人はイギリス人ですから」と軽い返事が返ってきた。そうか、英仏に責められながらの戦の中でなら敵味方を問わずなどという平和な考え方は、この島国で何の苦労もなく育てられた自分たちだけの甘い考えに過ぎなかったのだと、強く感じ入った一瞬でもあった。