「谷間のうた」という歌があります。山口冨士夫が率いていたバンド、TEARDROPS(ティアドロップス)の歌。
わたしは、TEARDROPSが好きで、『らくガキ』という、ファースト・アルバムも持っていて、高校生のころ、ライブも観たことがあります。これは大変貴重な経験でした。当時は、大人たちが、本当に格好いいロックをやるとこうなるんだと思って痺れました。
そんでもって、TEARDROPSがシングルで出したのが、「谷間のうた」でした。当時は、8cmのシングルCDで、それを買って聴いていました。パステルカラーの緑の地にピンクのお尻みたいな絵があって、そのお尻の谷間、裂け目に、花が咲き、さらに蝶々が飛んでいる絵でした。なんだか、谷岡ヤスジの絵みたいだったけど、あれは、いったい誰の絵だったんだろう?
レゲエ調のゆったりしたリズムで始まり、山口冨士夫のしゃがれた声が重なっていきます。これが、とても良い。
しかし、この歌、聴き方によっては、いや、聴き方に関係なく、とんでもなく卑猥な歌なのです。ものすごくエロい。直接的なエロではないのだけど、だからこそエロく、すべてがエロチックです。男と女のまぐわいの、出し入れまで表現してんだから、すごいもんです。
作詞は、忌野清志郎です。RCサクセションの「バッテリーはビンビンで、発車(発射)できない」という歌詞のある、あの歌より、色っぽくて、卑猥さが炸裂。
「谷間のうた」を要約しますと。
谷間があって、そこに秘密の泉がある。僕は、その泉の淵で立(勃)っている。そんで、甘い香りに誘われて、蕾にキスしたり、草むらをいじってたら、泉の水が溢れだして、そこに潜ったり、深く飛び込んだり、頭を擦ったりしているのです。
まあ、とにかく、卑猥なんですわ。
自分は、高校生だったんで、この曲を聴いていたら、エロい想像力が炸裂し、まくって、もう、あれだわさ、ほんとうに股間がふくれあがってきちゃってました。若き日の馬鹿男子の性の想像力ってもんは、とんでもなくたくましいものがありますから、知人なんて、メンソレータムに描かれた女の子のキャラクターに欲情してメンソレータムをイチモツに塗りたくり、「痛い痛い」と大騒ぎしたり、大木の枝の節の割れ目に雨が染み込んでいて、それ見て欲情したり、カマキリの交尾を見てどうしようもない気持ちになったり、そんな奴ばかりでしたから、もうめちゃくちゃです。
そんでもって、「谷間のうた」は、卑猥でエロいということもあり、地方のFMの放送局、そして、その大元の東京のFM局で、放送禁止になっちゃったんです。わたしは、そのエロさをビンビンに感じてたんで、「なるほど〜、エロいもんなぁ、放送禁止かぁ」なんて妙に納得してました。
だって、わたしみたいに彼女もいなくて悶々としている全国の阿呆な青少年が、この歌を聴いたら、どこにやり場を持っていけばいいのかわからなくなり、とんでもないことになってしまうかもしれないからね。
一方で、エロさも卑猥さもあるけれど、こんなに、素晴らしい歌を放送禁止にしちゃうだなんて、なんだか心が狭いなとも思った。やはり、いい歌だから、世間に、広めないってのも問題なのではないかと。
だって、卑猥だけど、とんでもなく愛のある歌だとも思うのです。
でも、まあ、当時は、そこに愛があるなんてより、単に、エロと感じていたのですが。
とにかく「谷間のうた」は放送禁止歌になった。そうしたら、「放送禁止ってのはなんだ!」と、作詞をした忌野清志郎が怒りだした。さらに、清志郎に似た、ザ・タイマーズってバンドをやっている、ゼリーって男も怒っちゃった。
そしたら、『ヒットスタジオR&N』という音楽番組に出たとき、本来、「偽善者」という歌を唄うはずだったのに、突然、「谷間のうた」を放送禁止にした、東京のFM放送局を名指しで批判した歌を唄いだしちゃったんだ。
「腐ったラジオ〜」「最低のラジオ〜」「政治家の手先〜」「〇〇◯野郎〜」とかいろんな放送禁止用語なんかを織り交ぜて、あれは、とても痛快だった。
そんなこんなで、いろいろあって、長い年月が経ち、最近、あのとき「腐ったラジオ」と唄われた、FMのラジオ局が、何周年かを記念して、記念Tシャツを作ったらしいんだ。それを見てみたら、タイマーズの清志郎に似たゼリーがギターを弾いてる姿がプリントされていて、そのFM放送局の名前もプリントされていて、バックプリントには、「腐ったラジオ」の歌詞もあるんだ。
なんだかんだで、時が経ち、FM放送局も、自虐的ながら小粋なことやってんなぁ、とか思ったら、どうにもTシャツの値段が小粋じゃなかった。さらに、タイマーズ側に許可を取ってないとか、単なる金儲け主義なんじゃねぇかと、SNSでいろいろ話題になってました。
当人たちは、いろいろ大変で、裏では、小粋じゃないことがいろいろ起きてるみたいなんだけれども。
そこで、わたくし思ったんだ、FM放送局は、このTシャツを販売するとともに、当時、放送禁止にした「谷間のうた」のTシャツも作れば良かったのに! なんてね。さらに、ラジオ局でも、放送禁止解除記念として、「谷間のうた」をガンガン流したらいいんだ。キャンペーンソングとかにして、実際、いまだに放送禁止なのかな? てなことを思いました。
それに、タイマーズは、この前、35周年の記念リリースアルバムを出すとき『不法集会』というイベントを、放送禁止にした当事者であるFM局のホールでやってたんだ。これ、なんだか小粋なことやるなって思ったけど、このとき、FM局はタイマーズ側と一緒になって楽しんでいたのではなかったのかな? どうだったんだろう? その流れで今回のTシャツになったのなら、話はわかるんだけど、違うのかな?
でも、まあ、真相は、どうでもいいや、そんなことより、今回の騒動で、「谷間のうた」を思い出し、また聴き直したら、やはり最高で、しっかり卑猥だった。
でも、あの頃のように、そのエロさを感じ取り、バッテリーがビンビンにはならなかった。わたくし、歳をとってしまったんだ。寂しい。
そんなこんなで、とにかく、「谷間のうた」は、いい歌だ。そんじゃあ聴いてみよう、忌野清志郎・作詞、演奏と歌、TEARDROPSの「谷間のうた」だ。
ちなみに、この映像、自分は、テレビでリアルタイムで見てました。最後、なんと、デニス・ホッパーとアレックス・コックスが出てきますが、これは当時、パルコでデニス・ホッパー映画祭というのをやっていて、日本に来日していたデニス・ホッパーを喜ばしたり、いろいろ紹介するという趣旨の特集で、わたしは、デニス・ホッパー映画祭の通し券を買って行ってたんで、テレビに出るのを知っていて、見ていたのです。
ここに、TEARDROPSが出てきて大興奮したんだ。デニス・ホッパーの感想は、ものすごくうろ覚えだけれど、「TEARDROPSってバンド名じゃなくて、ハニーちゃんみたいなバンド名にすればいいのに」、みたいなことを言ってたんじゃないかな。あと、平成モンド兄弟というパフォーマンス・ユニットも出て、ダーツを尻に刺す、あのすごい芸をやっていたのも覚えてます。
とにかく、「谷間のうた」が放送禁止になったことにより、いろんな出来事が勃発して、さらに現在に至るまで、いろいろ話題を作っているっていうのは、逆に、なんだかすごいもんだと思えてきました。
せっかくなんで、この騒動、いろいろ、小粋な感じに収まるといいと思っています。
【戌井昭人(いぬい・あきと)プロフィール】
1971年、東京都生まれ。ヘンテコなパフォーマンス集団「鉄割アルバトロスケット」を旗揚げして、脚本を担当、自身も出演する。なんだかんだと、いろいろあって、小説を書きはじめ、2009年「まずいスープ」で芥川賞候補になる。その後、「ぴんぞろ」「ひっ」「すっぽん心中」「どろにやいと」と、4回、芥川賞の候補になるがすべて落選。一方で、2014年「すっぽん心中」で川端康成文学賞、16年『のろい男 俳優・亀岡拓次』で野間文芸新人賞。現在も、作家として活動中です。


































































