中学生のころ、〈ワム!〉が好きだったのですが、洋楽をいろいろと聴いていくうちに、だんだん、自分はこれが好きでいいのだろうか? と思いはじめたのです。
それは、徐々に、ロックンロールやパンクなどを知っていったからで、〈ワム!〉が好きという自分が恥ずかしく思えてきたからなのです。そして最終的には、〈ワム!〉ってなんだよ、「ウキウキ・ウェイク・ミー・アップ」って、どんだけご機嫌なんだ! ジョージ・マイケルもアンドリュー・リッジリーもいつもニタニタしやがって、ふざけてんのか! と腹立たしく思いながら、わたしは、イギー・ポップとかルー・リードを聴くようになっていました。
だから「ラスト・クリスマス」が流行したころには、「恐ろしくダセぇ!」なんて思い、自分が〈ワム!〉を好きだったことなんて、すっかり忘れていたのです。というか拭い去っていたのです。家にレコードはあったけれども、奥の方にしまい込んでいました。
しかしながら、ジョージ・マイケルがソロになって、『Faith』を出して、聴いたとき、「うわ、格好いい!」と思ってしまったのです。でも、拭い去った〈ワム!〉に戻っていくような気がして、それが嫌でもありました。しかし気持ちは抑えきれず、『Faith』をレンタルレコード屋でレンタルして、カセットに入れて聴きまくっていました。
でもって、ロック好きの友達に、「ジョージ・マイケルの『Faith』、なかなか良いよ」と勇気を出して言ったものの、即座に、「あんなのどこが良いんだ! ボ・ディドリーの真似じゃねぇか! ダセぇ、ふざけんな!」と、けんもほろろに言われてしまい、以来、わたしは『Faith』を聴くのをやめて、ボ・ディドリーを聴きはじめたのです。そして、私も『Faith』を、あんなのボ・ディドリーじゃねぇかよ、と思うようにしていました。
でもって、最近、レイク・ストリート・ダイヴというバンドの「Faith」を、偶然、聴きました。あのころのことが一気に蘇ってきたのですか、いやいや、これが、素晴らしく格好良かった。ですので、今回紹介したいのは、レイク・ストリート・ダイヴの『Fun Machine』というアルバムです。このアルバムでは、他にも、ビリー・ジョエルやマイケル・ジャクソンとか、いろいろとカバーをしてて、これがすべていいのです。また、YouTubeには、レイク・ストリート・ダイヴが、アーハの「テイク・オン・ミー」をカバーしているのもありまして、これも良いのです。
とにかく、あのころ、格好悪い、と思うようにしていた曲が、やっぱり良い曲だったのだと思わせてくれるアルバムなのでした。それから、ジョージ・マイケルの『Faith』を聴き直してみたら、やっぱり、これも良かった。とにかく、あのとき、「ボ・ディドリーの真似」と言った奴も、もっと心を広くして、『Faith』を聴いてみたらどうだろう。
戌井昭人(いぬいあきと)1971年東京生まれ。作家。パフォーマンス集団「鉄割アルバトロスケット」で脚本担当。2008年『鮒のためいき』で小説家としてデビュー。2009年『まずいスープ』、2011年『ぴんぞろ』、2012年『ひっ』、2013年『すっぽん心中』、2014年『どろにやいと』が芥川賞候補になるがいずれも落選。『すっぽん心中』は川端康成賞になる。2016年には『のろい男 俳優・亀岡拓次』が第38回野間文芸新人賞を受賞。