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トップコラム戌井昭人の想い出の音楽番外地第五十七回「年の瀬になると無性に聴きたくなる藤圭子」

十七回「年の瀬になると無性に聴きたくなる藤圭子」

第五十七回「年の瀬になると無性に聴きたくなる藤圭子」

2020.01.08

戌井昭人の想い出の音楽番外地
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 1年の終わり、年末になると、やたらと藤圭子を聴きたくなるのはどうしてなのでしょう? 忘年会で新宿に行くことが多いからなのでしょうか? よくわからないのですが、とにかく年末は、藤圭子を、じゃんじゃか聴きたくなるのです。
 しかし、年が明けたら、藤圭子はパッタリと聴きません。むしろ、聴きたいとは思わなくなっています。新年早々、藤圭子は「どうもなぁ」といった感じになっています。
 1年というのは、長いようで短いけれど、やっぱり長いもので、その間に、人生の垢がどんどん積もっていきます。しがらみ、借金、身体の疲れなど、逃れたいけれど逃れられないことばかりです。でもって年末になると、「ああ、今年も1年、どうしようもなかったなぁ」と悔恨のワルツが響き始めます。そんな時、藤圭子を聴くと、「でも、しょうがないでしょう、それがアンタの人生なんだから」と、すべてを肯定してくれる気になってくるのです。
 さらに、あの、少ししゃがれた声が、身体に響いてきて、自身にまとわりついた人生の垢をブルブル震わせて、超音波清浄みたいな感じで落としてくれるのです。
 藤圭子の唄は、がんばれソングとか、君なら大丈夫ソングではありません。むしろ、おいおい大丈夫なのか?ソングが多いです。けれども、ありのままを否定しない、その感じがたまらないのです。
 なにはともあれ、年末に聴くのが最高の藤圭子。しかし、これを読んでいる方は、もう新年を迎えているかもしれないので、ぜひとも、これからの1年、春、夏、秋と人生の垢をため込んで、年末になったら藤圭子を聴いてみてください。むしろ、1年の間に嫌なことがあっても、年末になれば、藤圭子がいると思えば大丈夫です。
 藤圭子のアルバムはいろいろあるけれど、今回は、『ゴールデン☆ベスト 藤圭子ヒット&カバーコレクション 艶歌と縁歌』を紹介したい。それにしても、この題名の長さはなんなのでしょう? でも長いだけあって、曲もたくさん入っています。2枚組で、1枚目は自身の曲、2枚目はカバー曲集で、「アカシアの雨がやむとき」とか「港町ブルース」など最高です。
 なにはともあれ、1年の総決算には藤圭子。また沢木耕太郎さんが若き日に、若き藤圭子をインタビューした『流星ひとつ』という本も最高なので、これもぜひ読んでみてください。最後は、きっと涙が止まらなくなるはずです。
 
 
戌井昭人(いぬいあきと)
1971年東京生まれ。作家。パフォーマンス集団「鉄割アルバトロスケット」で脚本担当。2008年『鮒のためいき』で小説家としてデビュー。2009年『まずいスープ』、2011年『ぴんぞろ』、2012年『ひっ』、2013年『すっぽん心中』、2014年『どろにやいと』が芥川賞候補になるがいずれも落選。『すっぽん心中』は川端康成賞になる。2016年には『のろい男 俳優・亀岡拓次』が第38回野間文芸新人賞を受賞。
 
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『ゴールデン☆ベスト 藤圭子ヒット&カバーコレクション 艶歌と縁歌』

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[DISC:1]
1. 新宿の女
2. 生命ぎりぎり
3. 女のブルース
4. あなた任せのブルース
5. 圭子の夢は夜ひらく
6. 東京流れもの
7. 命預けます
8. 女は恋に生きてゆく
9. さいはての女
10. 恋仁義
11. みちのく小唄
12. 京都から博多まで
13. 別れの旅
14. 明日から私は
15. 私は京都へ帰ります
16. 命火
17. はしご酒
18. 聞いて下さい私の人生
19. 面影平野
20. 可愛い女
21. 螢火

[DISC:2]
1. アカシアの雨がやむとき
2. 今日でお別れ
3. カスバの女
4. 知りすぎたのね
5. 雨がやんだら
6. 霧の摩周湖
7. 女の意地
8. 逢わずに愛して
9. 港町ブルース
10. 別れの朝
11. うそ
12. 北国行きで
13. 北国の春
14. ひとり寝の子守唄
15. 旅の終りに
16. おもいで酒
17. みちのくひとり旅
18. 舟唄
19. さすらい
20. 怨み節
21. 網走番外地

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