突然ですが、女の人のセクシーな声というのはいいものですね。一方で、女の人は、低音の男の声がいいと言うけれど、低音で喋っている男って、結構、自分の声を意識して喋っている人が多いと思います。
でもって、今回紹介したいのは、『Ooh Ooh Ahh:Moments Of Musical Ecstacy』という、コンピレーション・アルバムです。「オー、オー、ア〜、エクスタシー・ミュージカルの瞬間」です。要するに、その瞬間が春歌です。
ロック、ジャズ、ファンク、いろいろな演奏に、女性のセクシーな囁きや、喘ぎ声がのっている楽曲を集めたものです。
そもそも、なんで、このような音楽が作られたのかといえば、セルジュ・ゲンズブールの『ジュ・テーム・モワ・ノン・プリュ』からはじまったそうです。これが売れたから、お次を目指し、いろいろな人が、同じようなものを作ったらしいです。
しかしながら、本家を超えて、完全に、ポルノ・ミュージックになってしまっているものや、快楽が極まってうるさい叫び声みたいになってしまっているものもあります。もちろんエロいものもあります。演奏が結構格好いいものがありますが、家のステレオで聴くときは注意してください。
喘ぎ声といえば、わたしは、人生で何回か、他人の行為の、それが聞こえてくる状況があって、20歳のころ、ヒッチハイクをして、トラックの運転手さんに乗せてもらったあげく、その人の家(愛知県)に泊めてもらうことになり、奥さんがご飯まで作ってくれ、お酒まで飲んで、眠っていたら、隣の部屋から凄まじい喘ぎ声が聞こえてきたことがありました。興奮しました。あちらも、わたしに、聞こえているかもしれないといったスリルから興奮していたんだろうなと思います。もちろん手相撲させていただきました。
あと、昔、サンフランシスコの安ホテルに泊まっていたら、廊下を隔てた向こうの部屋から、これまた、ものすごい喘ぎ声が聞こえて、廊下に響いていて、他の部屋の人が、皆、外に出て聞いていました。そんで、これもサンフランシスコなのですが、部屋の窓を開けていたらしく、ホテルの中庭に喘ぎ声が響き渡っていました。それも真昼間に、本場のアメリカン・ポルノみたいなセリフの言葉が飛び交っていました。
とにかく、セクシーな声はいいものですが、あそこまで、あけっぴろげだと、あまり興奮しません。
ですから、今回ご紹介したアルバム、ひっそりと、どこかで喘ぎ声が聞こえてきていると、想定して聴けば、少しばかり興奮できるかもしれません。そして男性諸君の手相撲のお役に立てるかも。いや、無理かな。なんというか、聴けば聴くほど、興奮というか、バカバカしくなっていくような、名盤であります。
そうだ以前、劇場で作業しているとき、劇場の大きなスピーカーで、アイチューンズ・シャッフルで流してたら、知らぬ間に、これがシャッフルされ、大音量で「アンアン」と流れたときは、ちょっと焦りました。
戌井昭人(いぬいあきと):1971年東京生まれ。作家。パフォーマンス集団「鉄割アルバトロスケット」で脚本担当。2008年『鮒のためいき』で小説家としてデビュー。2009年『まずいスープ』、2011年『ぴんぞろ』、2012年『ひっ』、2013年『すっぽん心中』、2014年『どろにやいと』が芥川賞候補になるがいずれも落選。『すっぽん心中』は川端康成賞になる。他に『俳優・亀岡拓次』などの作品がある。