この前、新宿末廣亭の寄席に行ったら、居眠りしていたおっさんが、寝言で「ひゃ〜」と甲高い声を出していました。喋っていた噺家さんは、気づいていませんでしたが、隣の人は迷惑そうな顔をしたので、おっさんが謝っていました。しかし、そのおっさん、オーストリッチのワイルドな革ジャンを着て、分厚いサングラスをかけていたので、甲高い「ひゃ〜」に、どうも違和感がありました。
わたしは、「ウォー」と叫びながら、目を覚ましたことがあります。そのときは、自分がお化けになって、泥棒を驚かすという夢を見ていました。
また、大笑いをしながら起きたこともあります。座布団に座っていた友達が、とてもつまらない冗談を言ったので、罰として、座布団に座ったまま、砂漠のかなたへ、スライドして滑っていってしまったのです。その後ろ姿を眺めながら、わたしは大笑いをしていました。
他には、歌を唄いながら目を覚ましたことがあります。それも絶唱です。わたしは、どこかの草原で、ひとりマイクを持ち、大声で唄っていたのです。そのとき唄っていたのが、ヴァン・モリソンの『Tupelo Honey』というアルバムに入っている「Wild Night」でした。
しかしながら、本来のわたしは、英語は喋れないし、この歌を唄ったこともなかったのです。でも、どういうわけか、思いっきり唄っていたんです。夢占いではないけれど、歌詞に意味でもあったのかと思い、訳詞を読んでみましたが、さっぱり意味がわかりませんでした。いまだに謎は、解けませんが、以来、この歌が好きな歌になりました。
それまで、ヴァン・モリソンといえば、ザ・バンドの『The Last Waltz』に出てきて、ピチピチの服を着ている小太りの、小さなおっさんでした。もちろんアルバムは持っていたし、好きな曲もありましたが、のめり込むほどではありませんでした。
でもって、あらためて、『Tupelo Honey』のジャケット写真を眺めてみると、そこには、馬をひいている、ヴァン・モリソンがいました。また馬に乗っている素敵な女性は、当時の奥様だそうです。そんでもってヴァン・モリソンの格好が、髭に長髪、茶色いタンクトップで、どう見ても、森をうろついていた少しワイルドな妖精が、馬に乗る素敵な女性を道案内しているようにしか見えないのです。
もしかしたら、わたしの中に、この妖精が入り込んできて、眠りながら「Wild Night」を絶唱させていたのかもしれません。ヴァン・モリソンの『Tupelo Honey』はとても素敵なアルバムです。皆さんも、これを聴いて、妖精ヴァンさんを、心に宿してみてください。