世間の流れに乗って、今回はボブ・ディランのアルバムを紹介したいです。それにしても、ノーベル文学賞をとったとなったら、いろいろな人が「どうして歌手に!」とか「彼こそ、もらうべきだ!」とか騒いでいるのに、ボブ・ディラン本人には、連絡がとれないとかで、さらに授賞式に出るとか出ないとか、いろいろ騒がれていて、ボブ・ディランのホームページからは、ノーベル文学賞受賞という記載が削除されちゃったとか。どうなってんでしょう。
しかしボブ・ディランは、これまでにも、フォークからエレクトリックに移行したときとかに、世間がうるさく騒ぎ立てたりして、いろいろあったから、他人が、ギャーギャー騒ぎ出すと、「面倒くせえな」とかなっちゃうのかもしれません。でも、そうすると、また世間が騒ぎ出すのです。
だから、ノーベルうんぬん言ってると、ボブさんに「お前もか」と嫌な顔をされてしまいそうなので、もう言いません。授賞式に出席するとかしないとかも、どっちでもいいです。
そんでもって、ボブ・ディランのアルバムで好きなものを、と考えると、いろいろあって、大変困ってしまいますが、わたしは、『Nashville Skyline』とか『Blood on the Tracks』とか『New Morning』が好きなんだけど、いやまだ他にもあるな、どうしよう。しかし、このように迷ってしまうのも、結局は、ボブ・ディランに踊らされているんですね。ボブさんには、もう敵いません。
じゃあ、一番好きな曲はなんだと考えますと、前は、『Blood on the Tracks』の「ブルーにこんがらがって」でした。『Blood on the Tracks』の邦題は「血の轍」でして、最初、「轍(わだち)」ってなんだ? 読めないし、意味わかんないよと思いました。だから「轍」という言葉を、はじめて知ったきっかけは、ボブ・ディランでした。
でもって、「ブルーにこんがらがって」の次に好きになったのが「見張り塔からずっと」でした。これ、ジミヘンのも良いんだな。あと、バーバラ・キースって女の人のも良いんだな。
なんと言うか、ボブ・ディランの曲でも、自分の中でも流行りがあって、今月はこの曲だ、とかなるんです。でもって、最近で言えば、去年はアルバム『New Morning』の「Went to See the Gypsy」で、いまiTunesの再生回数の履歴を見たら、537回でした。こんな聴いてたのか、と自分でもちょっと驚いてますが、とにかく、何度でも、いつでも、ずっと聴ける、音楽って、とても素晴らしいものですね。
戌井昭人(いぬいあきと)/1971年東京生まれ。作家。パフォーマンス集団「鉄割アルバトロスケット」で脚本担当。2008年『鮒のためいき』で小説家としてデビュー。2009年『まずいスープ』、2011年『ぴんぞろ』、2012年『ひっ』、2013年『すっぽん心中』、2014年『どろにやいと』が芥川賞候補になるがいずれも落選。『すっぽん心中』は川端康成賞になる。他に『俳優・亀岡拓次』などの作品がある。