Rooftop ルーフトップ

COLUMN

トップコラム戌井昭人の想い出の音楽番外地第十四回 青臭い時代と淡い想い出の詰まったジェフ・バックリィの歌声

四回 青臭い時代と淡い想い出の詰まったジェフ・バックリィの歌声

第十四回 青臭い時代と淡い想い出の詰まったジェフ・バックリィの歌声

2016.06.01

JeffBuckley.jpg
 
 ジェフ・バックリィが亡くなった年に、自分は鉄割アルバトロスケットという、ヘンテコなパフォーマンス集団をはじめました。1997年のことです。
 そのときは、自分が、新たに何かをはじめようとしていたときに、若くして、パッと死んでいってしまった彼を、なんだかズルいな、そして羨ましいなと思ったのです。
 自分と、ジェフ・バックリィを比べたって、才能もろもろ雲泥の差があるので、どうしようもないのですが、当時の自分は、なんだか根拠のない自信があったので、そのように思ってしまったのです。お恥ずかしい、すみません。
 ですから、ジェフ・バックリィのあの声を聴くと、当時の青臭い自分のことを思い出します。
 最初にジェフ・バックリィを聴いたのは、それよりも数年前のことで、ニューヨークでした。
 ニューヨークなんて、格好つけた感じで、申し訳ないのですが、街を歩いていたときに、レコード屋に入って、カセットで購入したのです。それは、『グレース』というアルバムが出たときで、お勧め商品として、棚に置いてあったのです。
 自分は、カセットウォークマンしか持っていなかったので、カセットを買ったのです。そう時代は、まだカセットでした。そして、ウォークマンにカセットを突っ込んで、ニューヨークの街を歩いたのです。
 そのときなんで自分がニューヨークに居たのかと申せば、好きな女の子がボストンに留学をしていて、なんの計画もなく、安い航空券を買って、会いに行ったのです。しかし、彼女と連絡が取れずに、ニューヨークで待機していたのです。携帯電話もメールもない時代だったので、公衆電話から、何度も寮みたいなところに電話をかけていたのですが、なかなか連絡が取れなかったのです。
 その後、なんとか連絡が取れて、ボストンまで、女の子に会いには行ったのですが、結局、うまくいきませんでした。要は恋は実らなかったのです。そのときも、ボストンまで行く電車の中で、ジェフ・バックリィを聴いていました。このような、淡い想い出も、ジェフ・バックリィには詰まっているのです。
 そんな、わたしの、青臭い時代と、淡い想い出の詰まったジェフ・バックリィなのですが、先日FMラジオをつけていたら、彼のあの声が聴こえてきたのです。
 でもそれは、ジェフ・バックリィのアルバムでは聴いたことのない曲でした。「なんだこれ?」と思いながら聴いてたら、スライ&ザ・ファミリー・ストーンの曲でした。
 それでもって、調べてみたら、なんと、今年に入って、未発表音源が発売されていたということで、即購入したのです。これが、ジェフ・バックリィの『ユー・アンド・アイ』なのでした。
 そして、彼の声を聴くたびに、やはり、おセンチな気持ちになってしまう自分なのです。でも、あの頃よりは、ちょっとマシになったような気もするのです。いや、たいして変わってないか。
 
戌井昭人(いぬいあきと)/1971年東京生まれ。作家。パフォーマンス集団「鉄割アルバトロスケット」で脚本担当。2008年『鮒のためいき』で小説家としてデビュー。2009年『まずいスープ』、2011年『ぴんぞろ』、2012年『ひっ』、2013年『すっぽん心中』、2014年『どろにやいと』が芥川賞候補になるがいずれも落選。『すっぽん心中』は川端康成賞になる。他に『俳優・亀岡拓次』などの作品がある。
このアーティストの関連記事

「You & I 」

レーベル: Sony
ASIN: B017KUNVAI
EAN: 0888751758629

amazonで購入

1. Just Like A Woman (オリジナル:ボブ・ディラン)
2. Everyday People (オリジナル:スライ・アンド・ザ・ファミリー・スト-ン)
3. Don’t Let The Sun Catch You Cryin’ (オリジナル:ルイ・ジョーダン)
4. Grace (オリジナル:ジェフ・バックリィ)
5. Calling You (オリジナル:ジェヴェッタ・スティール)
6. Dream Of You And I (オリジナル:ジェフ・バックリィ)
7. The Boy With The Thorn In His Side (オリジナル:ザ・スミス )
8. Poor Boy Long Way from Home (オリジナル:ブッカ・ホワイト/トラディショナル・ブルース )
9. Night Flight (オリジナル:レッド・ツェッペリン)
10. I Know It’s Over (オリジナル:ザ・スミス)

COLUMN LIST連載コラム一覧

  • 特派員日誌
  • PANTA(頭脳警察)乱破者控『青春無頼帖』
  • おじさんの眼
  • ロフトレーベルインフォメーション
  • イノマー<オナニーマシーン>の『自慰伝(序章)』
  • ISHIYA 異次元の常識
  • 鈴木邦男(文筆家・元一水会顧問)の右顧左眄
  • レズ風俗キャストゆうの 「寝る前に、すこし話そうよ」
  • 月刊牧村
  • 「LOFTと私」五辺宏明
  • 絵恋ちゃんの ああ えらそうに コラムが書きたい
  • おくはらしおり(阿佐ヶ谷ロフトA)のホントシオリ
  • 石丸元章「半径168センチの大問題」
  • THE BACK HORN 岡峰光舟の歴史のふし穴
  • 煩悩放出 〜せきしろの考えたこと〜
  •  朗読詩人 成宮アイコの「されど、望もう」
  • 今野亜美のスナック亜美
  • 山脇唯「2SEE MORE」
  • 大島薫の「マイセルフ、ユアセルフ。」
  • 能町みね子 新中野の森 アーティストプロジェクト
  • 能町みね子 中野の森BAND
  • アーバンギャルド浜崎容子のバラ色の人生
  • 戌井昭人の想い出の音楽番外地
  • さめざめの恋愛ドキュメンタリー
  • THE BACK HORN 岡峰光舟の ああ夢城
  • 吉田 豪の雑談天国(ニューエストモデル風)
  • ゲッターズ飯田のピンチをチャンスに変えるヒント
  • 最終少女ひかさ 但野正和の ローリングロンリーレビュー
  • 吉村智樹まちめぐ‼
  • いざゆかんとす関西版
  • エンドケイプの室外機マニア
  • 日高 央(ヒダカトオル)のモアベタ〜よ〜
  • ザッツ団地エンターテイメン棟
  • 劔樹人&森下くるみの「センチメンタル「非」交差点」
  • 三原重夫のビギナーズ・ドラム・レッスン
  • ポーラーサークル~未知なる漫画家オムニバス羽生生純×古泉智浩×タイム涼介×枡野浩一
  • the cabs 高橋國光「アブサロム、または、ぼくの失敗における」
  • “ふぇのたす”ちひろ's cooking studio
  • JOJO広重の『人生非常階段』〜今月のあなたの運勢〜
  • マリアンヌ東雲 悦楽酒場
  • 大谷雅恵 人生いつでも初体験
  • ジュリエットやまだのイケメンショッキング
  • ケラリーノ・サンドロヴィッチ ロック再入門
  • 岡留安則 “沖縄からの『書くミサイル』”「噂の真相」極東番外地編
  • 高須基仁 メディア論『裏目を読んで半目張る』
  • 田中 優 環境はエンタメだ!
  • 雨宮処凛 一生バンギャル宣言!
  • 大久保佳代子 ガールズトーーーク!!!!!
  • DO THE HOPPY!!!!!

RANKINGアクセスランキング

データを取得できませんでした

休刊のおしらせ
ロフトアーカイブス
復刻